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定位置に着くなり、凄まじい轟音を撒き散らしてオーディエンスの嬌声を浴びるmudy on the 昨晩。森ワティフォ、桐山良太、フルサワヒロカズのトリプル・ギターが縦横無尽に交錯しながら哀愁を帯びたインストゥルメンタル・ストーリーが紡がれる、2010年1月にリリースされたシングル曲“YOUTH”からのスタートだ。一瞬のブレイクに「オイ!」と昂ぶったかけ声を挟みながら、フロアに揺れる無数の手の平を前に5ピースのアンサンブルが炸裂する。続いては、フルサワの軽快なカッティングに導かれて始まる“パウゼ”。ここで早くも、mudy on the 昨晩の予測不可能で変態的な展開を見せ付けるナンバーが繰り出された。こんな楽曲においてなお、そのパフォーマンスの熱量によって、オーディエンスと確かな交感を果たしてしまう彼らのステージは本当に素晴らしい。テクニカルなインスト・バンドなのに、「コミュニケーションが閉じていない」のだ。

2009年にリリースされたミニ・アルバム『kidnie』から、“marm”そして“ZITTA”が続けて披露され、MOON STAGEの熱狂はひたすら右肩上がりになってゆく。「mudy on the 昨晩です……歌はありません」。というフルサワの挨拶に、唐突にそれまでフロアに満ちていた緊張感が解きほぐされ、笑い声がそこかしこから上がる。「いいんだよ、歌えなくても。踊れなくてもいいんだよ。自分が聴いたように、感じたように踊っていってください」。そう、mudy on the 昨晩の音楽には、ある種の特別な自由が宿っている。高度なバンド・アンサンブルを携えながら、メンバーたちが全身で感情のほとばしりを表現している姿を見ても、それは明らかだ。一曲の中で静謐なフレーズからダイナミックなコンビネーション、そして轟音の混沌にいたるまで、とても一言では表しきれないドラマを描き出すラスト・ナンバー“ヒズミ・タカコ”が大きな余韻を残すMOON STAGE。短い時間ながら、mudy on the 昨晩とオーディエンスとのコミュニケーションが確かに刻まれたパフォーマンスだった。(小池宏和)