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    スピッツ全アルバムレビュー 8th『フェイクファー』【『醒めない』リリース記念】

    2016年7月27日(水)に15thアルバム『醒めない』をリリースするスピッツ。
    RO69ではリリースを記念して、これまでの全アルバムを振り返るディスクレビュー特集を行います。
    『醒めない』リリースまで、1日1作品ずつレビューを掲載します。
    本日の作品は1998年発表の8th『フェイクファー』です。

    スピッツ全アルバムレビュー 8th『フェイクファー』【『醒めない』リリース記念】

    はじめに私的なことを書かせてもらうと、本作収録の“運命の人”は全スピッツ曲におけるマイベスト。
    ザクザクとリズムを刻むギターと歌うベースの組み合わせの妙。個人の呟きと真理とが背中合わせで展開していくリリック。全てが魔法のような軽やかさで構築された、聴いていると幸福と憂鬱が混じり合い結果としてなぜか純度100の全能感だけが残る、奇跡のロックンロールだ。この曲を書いた功績だけで、スピッツはロックンロールの殿堂入りしてもおかしくない。そんな曲である。なのに。それなのに。草野マサムネ(Vo・G)が「ギターポップを目指して失敗した」と語るように、本作はバンド自身の評価が高い1枚ではないのだ。たしかに、「ギターポップ」の狭い枠に括るには、ここに収められた12曲はいささかフリーキー過ぎる。ザ・ストーン・ローゼズのセカンドを咀嚼した“センチメンタル”、軽快なネオアコ調からアンセミックな展開を見せる“仲良し”、80sヘアメタルに足を突っ込んだ“スーパーノヴァ”、ダビーでサイケデリックなフォークソング“ただ春を待つ”などなど、方向性は散らかっているが、どの楽曲も果敢な実験を経たロックソングとして、とにかくキャラが立ちまくっているのである。

    さらに、本作に収められた言葉達は、久々のセルフプロデュースで新たな船出に踏み切った当時だからこそのもの。例えば《さよなら 君の声を 抱いて歩いていく/ああ 僕のままで どこまで届くだろう》(“楓”)や《今から箱の外へ 二人は箱の外へ 未来と別の世界/見つけた そんな気がした》(“フェイクファー”)といったラインが象徴的だが、ここで描かれているのは、過去~今に別れを告げ未来へと歩を進める不安と希望だ。つまり、このアルバムには彼ら自身の心境が生々しく刻まれているのである。その赤裸々さにおいて、本作は彼らのディスコグラフィの中でも随一だろう。いくらマサムネが失敗したと言っても、間違いなく本作もまた特別な一枚なのである。(長瀬昇)


    なお、スピッツは2016年7月30日(土)発売『ROCKIN'ON JAPAN 9月号』の表紙に登場します。
    お楽しみに!

    公開済の作品はこちら
    2016年7月18日 7th『インディゴ地平線』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145808
    2016年7月17日 6th『ハチミツ』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145806
    2016年7月16日 5th『空の飛び方』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145804
    2016年7月15日 4th『Crispy!』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145764
    2016年7月14日 3rd『惑星のかけら』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145713
    2016年7月13日 2nd『名前をつけてやる』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145667
    2016年7月12日 1st『スピッツ』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145597
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