SPEEDSTAR RECORDS 20th Anniversary Live 〜LIVE the SPEEDSTAR 20th〜3日目 @ Zepp DiverCity

3日間に渡って繰り広げられた、レーベル設立20周年のアニヴァーサリー・イヴェント(初日の模様はこちら→http://ro69.jp/live/detail/77398、2日目の模様はこちら→http://ro69.jp/live/detail/77410)も、いよいよ最終日を迎えた。 フレッシュなバンドから大ベテランまで、広い世代のアーティストがそれぞれにパフォーマンスを繰り広げたわけだが、リスペクトと愛をもって表現のバトンが手渡される、そんな場面も散りばめられた、濃密な一夜になった。

■THEラブ人間
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3日目のトップを飾るのは、この日の出演者中最も若いアクトにして、2013年初ライヴとなる5人組=THEラブ人間だ。金田康平(歌手)やツネ・モリサワ(Key.)は裸足でステージに立ち、金田は「こんな俺たちを誘ってくれたスピードスターに!」と叫びながら、自分自身を含めた人間の負の面を抉るストーリーテリングを、フォーキーなアンサンブルと共に全速力で転がしてゆく。谷崎航太の奏でるヴァイオリンといい、美しい旋律が束になって押し寄せてくるのだが、音楽が備えた優しさを信じ切るようにして、赤裸々な思考と感情をぶち撒けてゆくのだった。12月にリリースされたニュー・シングル“アンカーソング”では、谷崎もスティックを振るって激しいビートを打ち鳴らし、金田もノイズまみれのギター・ソロを繰り出してヒート・アップ。熱を帯びるほどに表現の凄みが増す、THEラブ人間のパフォーマンスの真骨頂だ。巧みな押韻で歌詞のエモーションを増幅させるラストナンバー“体は冷たく、心臓は燃えている”も素晴らしかった。最後にはモリサワが、ニュー・アルバム『SONGS』が4/3にリリースされることを告知する。この日の会場では、『SONGS』のダイジェストCDも配布され、THEラブ人間の新章を期待させるものとなった。

■SPECIAL OTHERS
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2組目に登場するのはスペアザだ。軽くウォーミング・アップのようなジャムを響かせた後、そのままいきなり“AIMS”に突入して、オーディエンスを沸騰させてしまう。驚くほど滑らかなリズム・チェンジを交えたアンサンブルが、芹澤“REMI”優真(Key.)の繰り出す必殺フレーズを合図に、熱狂を摑み取ってしまうさまは痛快だ。又吉“SEGUN”優也(Ba.)がベースを持ち替え、続いては“PB”へ。柳下“DAYO”武史(G.)の語りかけるような、雄弁なギター・フレーズが零れ落ちて来る。お目当てのアクトもそれぞれであるはずのオーディエンスたちが、フロア一面に、気持ち良さそうに体を揺らしていた。「ビクターで、どれぐらいやったんだっけな?(※スピードスターはビクターエンタテインメントの社内レーベルであり、スペアザは2010年からスピードスター在籍)」「今、言ったよ! 6、7年」「ディレクターも付いてきたっていう」「分かりやすく言うと、人事異動にくっついてきたってことです。そこには熱いストーリーがあるんだけど、長くなるんでまたの機会に」。宮原“TOYIN”良太(Dr.)と芹澤がそんなふうに話した後には、“BEN”へ。ここではなんと、柳下が“風の谷のナウシカ”(作曲は細野晴臣)のメロディを、芹澤が“ばらの花”(くるり)のメロディを織り交ぜ、この日の出演者に因んだ、心憎いスペシャル・アレンジで喝采を浴びるのだった。なお、スペアザは6月29日に、日本武道館でのワンマン・ライヴも開催予定。宮原は「ニックロックの日!」と、オーディエンスにも高らかに復唱させていた。

■細野晴臣
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SPEEDSTAR RECORDS 20th Anniversary Live 〜LIVE the SPEEDSTAR 20th〜3日目 @ Zepp DiverCity - 高田漣高田漣
さて3組目。細野晴臣は拍手に包まれて一端は姿を見せるのだが、サポートの高田漣が夏頃にリリース予定というソロ・アルバムに触れて、「聴いてみたいなー」と言い残しステージを預けてしまう。高田漣(Vo./G.)、伊賀航(Ba.)、伊藤大地(Dr.)という編成で、現代詩人・菅原克己の作品に曲を付けた“野バラ”や、祖父・高田豊の詩を父の高田渡が歌った“火吹竹”といったナンバーを披露。バンドの顔ぶれもそれぞれプレイヤーとして超一流なので、静謐でありながらも凄まじく豊穣な音楽表現が立ち上がって来る。そこで改めて細野晴臣が再登場し、自らピアノを奏で歌うパフォーマンスへ。「(デューク)エリントンの即興の、模倣したやつ」と軽いノリで披露されるインスト・チューンでメンバーそれぞれに見せ場を作り、「悪夢を見て。(譜面台の)歌詞がなくて、床に散らばってて。それを見ると居酒屋のメニューなんです(笑)。これは覚えなきゃなって、なるほどねって話です」とトボケたMCで笑いを誘いながら、独自のスウィング感を練っては歌う。高田のペダル・スティールの響きが素晴らしい“Cow Cow Boogie”はアコギを奏でながら歌うのだが、そこに男性オーディエンスから「細野さん、日本語(の歌)もー!」とリクエストが飛ぶ。「日本語……忘れた。次は、英語ですらない(笑)、スキャット」とやんわりリクエストを躱し、リトル・リチャードの“Tutti Frutti”のカヴァーへ。これまたユニークなアレンジで披露してしまう。ジャズ・マンやブルース・マンたちが、気ままにセッションしていた頃の黎明期のロックンロールはこんなムードだったのかなという、極めて洒脱で自由な音楽が広がるステージであった。

■くるり
SPEEDSTAR RECORDS 20th Anniversary Live 〜LIVE the SPEEDSTAR 20th〜3日目 @ Zepp DiverCity
さて、アニヴァーサリー・イヴェントの3日間を締め括るのは、つい先頃、ツアーの特別公演である武道館を成功させたばかりのくるりだ。岸田繁(Vo.&G.)による「始めよか」の第一声から、繰り出されるのは“everybody feels the same”そして“ロックンロール”という、初っ端からオーディエンスの歌声を巻き込んでゆく楽曲たち。「僕もね、悪夢見るんですよ。武道館終わって、打ち上げやって帰って寝て。ギターをジャッと弾くんですけど、弦がなんや豆腐みたいので、モロモロっと崩れるんです。で、聴いたことない、存在しない曲を歌おうとするんですが、歌い出しが半拍あとやったんです。なので今日は、ちゃんとやります」と岸田。ユーフォニアム奏者に権藤知彦を加えて進められるステージは、迫力の音響というよりも、メンバーそれぞれの繰り出す音が一本一本の絹糸と化して新旧の名曲群を紡ぎ上げてゆくようなパフォーマンスになった。佐藤征史(Ba.&Vo.)によるハーモニーが広い視界を助長する“太陽のブルース”のあとには、じわりの胸の内に染み込む“春風”が届けられる。「メジャー・デビューから15周年で、(スピードスター20周年のうち)大半を過ごさせて貰ってます。一番、頑張った曲をやろう」と披露されたのは、コズミックなバンド・グルーヴが立ち上がってミラーボールも回る、“WORLD'S END SUPERNOVA”であった。そこから“ワンダーフォーゲル”に繋ぐという、終盤のダンサブルな展開も最高だ。E・Z・Oのメンバーとしてヘヴィ・メタル界で活躍していた担当ディレクターの話題や、今回のライヴが(一端は)最後の参加となるサポート・ドラマー=あらきゆうこを改めて紹介しつつ、本編最後は“東京”。アンコールでは高田漣を加えた編成で、吉田省念によるチェロの旋律がたなびく美しい新曲“Remember me”も披露された。そして権藤・あらき・高田のサポート・メンバーを中心にした列で頭を下げ、万感のフィナーレを迎える。

多彩な音楽性と表現スタイルを持つアーティストたちが繰り広げたレーベルの祭典は、優れた表現と人の連鎖・歴史を映し出すものでもあった。日頃、個々のアーティストに注目しているとなかなか分からないけれど、そうした繋がりが、今日のロック/ポップ・ミュージックの成長を支えているという一面もある。THEラブ人間の金田が、去り際に「30周年で会いましょう!」と告げていたことも、強く印象に残るイヴェントだった。(小池宏和)

SET LIST

■THEラブ人間
1. 砂男
2. 悪党になれたら
3. アンカーソング
4. 体は冷たく、心臓は燃えている

■SPECIAL OTHERS
1. AIMS
2. PB
3. BEN

■細野晴臣
1. 野バラ (高田漣・伊賀航・伊藤大地)
2. 火吹竹 (高田漣・伊賀航・伊藤大地)
3. Going in a field
4. Duke
5. Gradated Gray
6. Cow Cow Boogie
7. Tutti Frutti
8. House of Blue Light

■くるり
1. everybody feels the same
2. ロックンロール
3. シャツを洗えば
4. 太陽のブルース
5. 春風
6. argentina
7. WORLD'S END SUPERNOVA
8. ワンダーフォーゲル
9. 東京
En. Remember me
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