長田進 with GRAPEVINE @ 品川ステラボール

長田進 with GRAPEVINE @ 品川ステラボール
長田進 with GRAPEVINE @ 品川ステラボール
長田進 with GRAPEVINE @ 品川ステラボール
「こんばんは。濡れなかった!? 今日は俺の活動30周年記念ということなんだけど。ごめん、俺みんなにウソついた。ほら、歌手の人とかはさ、レコード出して何周年、ってことになるんだけど、俺の
場合はギタリストだからさ。どこで始まってるのかよく分からないの。まあだいたい30年ぐらいってことで。最後までゆっくり楽しんでいってください」
ひとりステージに登場したキャップ姿の長田進が、荒天にも関わらずみっちりとフロアに詰めかけたオーディエンスに対してそう切り出す。GRAPEVINEとともに作り上げた初のリーダー・アルバム『MALPASO』だけではなく、その歴史の中で無数のステージやセッションを共にしてきた仲間たちとのプロジェクトが一同に会す夕べ『bar MALPASO』(バル・マルパソ)の幕開けだ。まずは一人アコギを抱えて、柔らかく温かなアルペジオを届けてくれる今宵の主役、長田進である。

バイン組からまず亀井亨(Dr.)と高野勲(key.)が、そして金戸覚(B.)が、と徐々に編成をシフトさせつつ、『MALPASO』収録の“eclipse”が披露される。長田は缶ビールをプシッと開け放っていかにもレイドバックした風情ではあるのだが、ひとたびそのギターが音を発すると場内の空気が一変するのが分かる。なんという雄弁なサウンドなのだろう。タイトルどおり日食にインスパイアされたという雄大なイメージのコードで、聴く者を包み込むようなディレイを聴かせている。
さて、次々にゲストが登場するステージ上には、長田の古くからの友人というnanacoも姿を見せた。シンガーであり写真家であり、Dr.StrangeLoveなど長田作品には作詞家としても長く関わっている人物だ。彼女とのデュエットではそのDSLのナンバーや、今夜のステージのために書き下ろされたという“ギターになりたい”などが歌われる。nanacoは素晴らしくチャーミングな歌声でオーディエンスを酔わせていた。何しろ彼女は70年代から、佐藤奈々子としてソロ・デビュー前の佐野元春から楽曲を提供され、アルバムを発表していたほどのキャリアを誇るシンガーなのだ。長田の巨大なピープル・トゥリーの一端を見る思いがする。DSLの“The apple tree song”と共にnanacoが長田に青リンゴを手渡す、という詩的な一幕もあった。
そしてバイン組が全員登場し、一転してトライバルでダイナミックなアンサンブルに突入する。金戸が弓弾きベースを披露し、その中で田中和将(Vo.)はカップに酒を注ぎながら、長田とのハーモニー・ボーカルを届けてくれた。

長田:「えー、彼とは10年ぐらい一緒にやったかな。良いことも悪いことも共に経験しました。奥田民生!」
奥田:「30周年! でもなんか楽屋で訊いたら、30年ぐらい、らしいじゃない?」
長田:「デパートでぬいぐるみ着てギター弾いてギャラ貰った、とかね」
奥田:「そっから30年なの(笑)。まあデビューつってもいろいろあるじゃないですか。インディー・デビューとか。高校デビューとか。公園デビューとか」
長田:「こんなもん、自分がプロっつったらプロなんだよ!」

いきなりのツーカーぶりを見せつける二人である。両者がアコギでブルージーなフレーズを交錯させ、“アメリカのアリゾナ”を長田が歌う。

長田:「これ、井上陽水さんが歌詞書いてくれたの」
奥田:「あ、そうなんだ?」
長田:「うん。だって歌詞、変でしょ? 歌詞あるんだけど、ってひょいっと手渡すんだ」
奥田:「(笑)。あの人、いつも歌詞用意してくれてるんだよね」

なんかさらりと語って笑いを振りまいてはいるが、日本のポップ・ ミュージック・シーンの頂上を見るかの如き、もの凄い会話である。そしてもはやギター巌流島と化すようなスライド・ギターの応酬でヒート・アップし、今度は民生が“あくまでドライブ”を歌う。
「10年ぐらい一緒にやってて、あのときはギター2人だったでしょ。これがひとりになるとね、自分の曲できないんだよ(笑)」

続いてはLOVE PSYCHEDELICOのKUMIとNAOKIが登場。ジョン・レノン、ボブ・ディランと、名曲のカバー・レパートリーを立て続けに披露していった。のびのびとギター・パートを奏でる長田に対して、NAOKIによるエレクトリック・バンジョーの小気味良いフレーズが効果的なアクセントとなっている。ディランの“風に吹かれて”については、

NAOKI:「テレビで佐野(元春)さんと一緒にやったんだよね」
長田:「なんで今日いねえんだ!?」

と愚痴が零れていたけれど、今年、長田と同じくデビュー30周年を迎えている佐野元春は、春先の30周年記念イベントで「30年の中で最も印象深かったことは、ザ・ハートランドやThe Hobo King Bandといったバンドのメンバーと出会えたこと」だと語っていた。長田がそのハートランドのメンバーに名を連ねていたことは、言うまでもない。

さて、デリコの“Your Song”がプレイされたあと、バインの田中が呼び込まれ、先月RISING SUN ROCK FESTIVALでも披露されたというクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの名曲“雨を見たかい”のセッションである。今年のフジ・ロックにそのCCRのフロントマン、ジョン・フォガティが出演してこの曲を演奏していたことを受け田中、「俺、フジでフォガってきたから」とやる気満々である。ちなみにフォガる前夜、上機嫌の田中の後ろ姿はコチラ →(http://ro69.jp/blog/fujirock10/38084)。KUMIは「声が似ている」と評していたけれど、確かに雄々しくシャウトするように歌われるサビの頭とか、似ているかも。熱演であった。更に余談だが、バインのバンド名の元ネタとなったソウル・クラシック“I Heard It Through The Grapevine”は、CCRもカバーしている。“雨を見たかい”と同じアルバム、或いはベスト盤などにも収録されているので、興味のある方はぜひ。

ゲストが入り乱れて多種多様なセッションが行われた第1部はここまで。ここから更に、長田バインによるバンド編成での第2部がスタートだ。長田ギター+亀井ドラムスで力強くプレイされた“MALPASO”を皮切りに、フル・メンバーで“CORE”や“フラニーと同意”といったバイン・ナンバーもプレイされる。ただでさえギター・サウンドのタペストリーが凄いのだが、長田はフィードバック・ノイズを振りまいたり、かがみ込んでエフェクターを手で操作したりと、あらゆる技巧を駆使してそのロック空間を演出してゆく。彼はさまざまなギター演奏テクニックを見せるプレイヤーだが、ロック史のある時代のある空気の中に留まることをしない。あらゆる技術を踏まえた上で、最もモダンで効果的なサウンドを紡ぎ上げるのだ。言うなれば、「形式ではなく皮膚感覚としてのブルース」といったところだろうか。その点で、バインが描こうとするロックとも非常に波長が合うのだと思う。

「今年を半分ぐらい使って作り上げてきた『MALPASO』の世界で す。最後まで、もうちょっとお付き合い下さい」と田中が語り、“Beautiful orphan”へと連なるジャムの中では高野がラップ・スティール・ギターを、金戸がスティックを振るってパーカッションを、と自由でエキサイティングな展開を見せる。また“Beautiful orphan”ではステージ上手に長田の実娘がダンサーとして登場し、クラシックバレエを元にしたような華麗な舞いで観る者を魅了していたのだった。そしてバインの“COME ON”で場内に大きなエネルギーが渦巻いたあと、“Free World”で田中と長田のボーカルによるコントラストが豊かに導き出されて本編を終えた。
長田はもちろん第一にギタリストであるわけだけれど、彼の歌は例えばHEATWAVEの山口洋のように、己の渋い声質と歌詞のフレーズをうまく利用した味わい深い歌で、これをたっぷりと堪能できたのも良かった。

「俺は、本当に人と人との繋がりがラッキーで、それで30年やってきたというか。家族、友人、スタッフ。メールも電話もしないような無精なんですけど、みんなよく繋がってくれたな、と思います。これからも、俺のギターを聴いてくれる人とかと、こうして繋がっていきたいです」。アンコールに応じて再度登場した長田の、簡潔ではあるがすべてを説明してしまう言葉であった。田中が「『MALPASO』プロジェクトは勉強になりました! 長田カントク、ありがとうございました!」と挨拶し、そしてバインの“FLY”がなんと田中と民生のツイン・リード・ボーカルで披露される。これはもうとんでもない迫力の歌である。そして『MALPASO』のボーナス・ディスクに収録された民生提供曲“俺の車”ののち、nanacoと長田・娘が大きな花束を長田に手渡す。ラストはデリコ組も加わって総出演のニール・ヤング“ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド”で大団円を迎えた。民生→NAOKI→バイン西川と豪華リード・ギター・リレーを披露し、最後に「長田進ぅぅぅ!」という民生のシャウトとともに長田が全身を使うようにして弾きまくる。この全キャリア現役な感じ、常に最前線な感じは、まさにニール・ヤングを彷彿とさせるものだ。トータル3時間超。しかしこの手のセッション企画としては考えられないほど、ダレる隙のない、言葉尻では時折緩みながらも長田ヴァイブスがきっちりと纏め上げた一夜であった。(小池宏和)

SET LIST
1 New song

with 亀井亨 and 高野勲
2 Feathers and tears

with 亀井亨 高野勲 and 金戸覚
3 eclipse

with nanaco
4 By the Crack of Doom

with nanaco and 高野勲
5 I wish to be your guitar tonight
6 The apple must be love

with GRAPEVINE
7 The apple tree song

with 奥田民生
8 アメリカのアリゾナ
9 MIDNIGHT BLUES
10 あくまでドライブ

with KUMI&NAOKI(LOVE PSYCHEDELICO)
11 Watching The Wheels
12 Blowin' In The Wind
13 Your Song

with KUMI&NAOKI(LOVE PSYCHEDELICO) and 田中和将
14 Have you ever seen the rain?

with GRAPEVINE
15 MALPASO
16 CORE
17 フラニーと同意
18 愛ゆえに
19 Turd and swine
20 JAM
21 Beautiful orphan
22 Rosebud
23 COME ON
24 Free World

with GRAPEVINE and 奥田民生
25 FLY
26 俺の車

with GRAPEVINE 奥田民生 KUMI&NAOKI(LOVE PSYCHEDELICO) and nanaco
27 Rockin'in the free world
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