今、最も目が離せない音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』で炸裂したベースという楽器の奥深き魅力

関ジャニ∞がホストを務める音楽番組、『関ジャム 完全燃SHOW』。この番組は、2015年に放送が開始されたばかりだが、今や日本でもっとも重要な音楽番組になりつつある。その理由はなんといっても、この番組があらゆる音楽好きを結びつける「架け橋」的な存在だからだ。

『関ジャム』は、一度ご覧いただければわかると思うが、関ジャニ∞ファンには他バンド・ミュージシャンの魅力を説き、ゲストミュージシャンのファンには関ジャニ∞と化学反応を起こすことでより引き出されるゲスト自身の面白味を伝え、そしてすべての視聴者には音楽を細部にいたるまで楽しんでもらうためのミクロかつマニアックな知識・見解を提供しているテレビ番組である。しかも楽器をやったことがなかったり、音楽理論がわからない視聴者にも理解できるように、専門用語などをしっかり解説してくれるという長所もある。

昨今の日本社会は、ツイッターなどのSNSによって「内輪感」が強まり、自分が属しているコミュニティーの外側の世界を覗き込みにくくなった(あるいは興味をもつことすら難しくなった)と言われている。そんな国において、この番組はジャンルの壁や各視聴者の知識量の差異を優に飛び越え、1ミリでも音楽に興味がある人たちに大衆の人気を獲得した名曲や名立たるミュージシャンのプレーの魅力を平等に理解させようと努めている。まさに観る価値のあるテレビ番組だと思う。

そんな番組が3月26日の放送で発信したのは、「ベースの存在意義」についてだった。ゲストはKenKen、ハマ・オカモト、根岸孝旨の3人のベーシスト。ベーシストなら誰もが平伏すような名プレイヤーたちを目の前に、関ジャニ∞のベース担当・丸山隆平は冒頭から子犬のように緊張する。
「あんま素人目線ですと(ベースって)地味な……」というハライチ・澤部佑の告白をきっかけにベース談義がスタート。KenKenは、ベースならではの技法であるスラップやゴーストノートを、ベース未経験者にもわかるようドラムのスネアやバスドラムにたとえてレクチャーする。ハマは東京事変・亀田誠治のプレーを、「誰にでも弾けそうなシンプルなメロディを、かっこよく聴かせているのが凄い」と語り、グリスがいかに魅力的であるかを実演を交えながら熱弁。根岸は、「一定のテンポでひたすら単音を弾き続ける反復練習が嫌で、いつ辞めてやろうかと思った」とベース始めたての頃を振り返り、スタジオの笑いを誘った。

トークのラストは、KenKenが山本リンダの代表曲“狙いうち”のベースをオリジナルでアレンジし披露。ゴーストノートを駆使した奏法によってこの楽器特有のぶっとい弦が弾ける音がバーストし、関ジャニ∞を始めとする出演者たちからは笑うしかないというようなリアクションが零れる。最後は弾きながら弦をどんどん緩めて音程を変えるという荒業まで見せ、スタジオに拍手喝采の渦を巻き起こした。1分あるかないかくらいの短い演奏だったが、ベースの凄味を食らわすには十分なパフォーマンスだった。

視聴者も出演者もベースの魅力にどっぷりと浸かれたであろう中、『関ジャム』名物のセッションが幕を開ける。演奏する曲はRIZEの“カミナリ”。KenKen、ハマ、そして丸山のトリプルベースでゴリゴリのハードロックに挑む。
「僕らは基本弾かないで、あとは丸山くんに一任します」とゲストミュージシャンたちに背中を押された丸山は、黒々とした低音の塊を丁寧に練り上げたようなサウンドをイントロからぶつけてくる。照れと緊張が滲んでいるその表情には、共に演奏するベーシストたちへのリスペクトがどことなく感じられ、普段はボケキャラな彼が実はとても純粋なバンドキッズであることを物語る。愛器をブイブイいわせながら見守るKenKen、ハマの温かな眼差しもとても印象的だ。

そんな丸山のプレーと一番の化学反応を起こしていたのが大倉忠義のドラム。重みのあるキックやスネアを一打一打着実に打ち込むその音は、地を這うベースのうねりと相まってリスナーの腹の底にズンズン響き渡る。それが言わずもがな心地よくて、「やっぱリズム隊って最高だな!」という当たり前の熱狂が何度も何度も呼び起こされた。ベースやドラムには上ものの煌びやかさに負けない、地を翔ける者ならではのカッコ良さがあることを証明した、天晴れなセッションタイムだった。

2017年現在の日本の音楽シーンを席巻しているのは、ソウルやヒップホップなどのブラックミュージックの要素を組み入れた楽曲だと言われている。そのジャンルから存分にインスパイアされたSuchmosのお茶の間への進出は言うまでもなく著しく、黒味を帯びたサウンドは今もなお大衆の耳にじわじわと浸透しつつある。だが、そのジャンルの音楽の中枢を担っているのがベースという楽器であることに、いったいどれくらいのリスナーが気づいているだろうか?

今回『関ジャム』がベース特集を組んだのには、そういうところに気づく人が増えてほしいというか、もっと虫めがねを使って音楽をミクロ的に楽しんでほしいという願いがきっとあったと思う。そしてジャニーズファンもコアな音楽ファンもそうでない人たちも結び付けられる「架け橋」だからこそ、その思いをもとに企画を立て、実行し、最終的に大成功を収めることができたのだ。コアファンのマニアックな視点を、音楽をより楽しむためのスパイスとしてお茶の間に気軽に紹介する――こんなことを具現化した音楽番組が過去にあっただろうか? 私は四半世紀生きているが、これ以前に体験できた記憶はない。きっと『関ジャム』が毎週見せているのは、とんでもない偉業の連続なのだ。もはやそう思わずにはいられない。

毎度とてつもない情報量をぎゅっと凝縮しわかりやすく説いてくれる『関ジャム 完全燃SHOW』に、そして同番組に出演し、凄まじいプレイヤビリティやオタク的知識で音楽の凄味を強烈な説得力をもって伝えてくれるミュージシャンたちに、称賛と感謝の拍手を。(笠原瑛里)
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