家主の音楽は、宙ぶらりんな気持ちに名前をつけてくれる

家主の音楽は、宙ぶらりんな気持ちに名前をつけてくれる
2ヶ月ほど前にラジオを聴いていたら、家主の“それだけ”がかかった。


懐かしさもあるメロディと倍音を含んだ癖のあるボーカル、美しいハモリが素敵……と思ったら、後ろでエレキギターがゴリゴリに鳴っている。しかしそれが絶妙なバランスで、曲の静と動というか、緩急を見事にコントロールしていた。なんというか、おとなの落ち着きと青臭さがせめぎ合っている感じ。
そして《心の隙間 埋めてくれるたびに/僕に出来ることがないことに気づいちゃう》という歌詞にはっとした。

サウンドは面白くて、でもメロディと歌詞が、ボーッと聴いていたら涙が出そうなほど心の琴線に触れてきて、目が(耳が)離せない。
何かに例えられそうなのに何にも例えられない、不思議な魅力に一気に引き込まれた。

家主が歌うのは、生活を営むうえでの不安や寂しさややるせなさ、そして小さくて大きい日常の喜びだ。何気ない日々の中で見過ごしてしまうような風景や、誰にも見つけてもらえないような気持ちや些細な心の移り変わりを、飾り立てたり取り繕ったりすることなく差し出してくれる。

12月20日にリリースされた3rdアルバム『石のような自由』も、そういう作品だと思う。
大きく言えば「諸行無常」をいろいろな形で歌っている印象を受けた。世の中にあるすべてのものは止まることなく変わっていくし、人間は弱くて儚い。でもそれでいいし、それがいいんだということを、このアルバムは伝えてくれる。

そして、相変わらず心を打たれる美しいメロディよ。サウンドは全体的に明るめの曲が多く、ゴリゴリのギターはもちろん、すべての楽器が立っていて、耳を越えて身体全体にぐわっと浴びせられる音がめちゃくちゃ気持ちいい。

明確な理由があるわけではないのに、ふと自分のことが嫌になったり、なんとなく物悲しくなったら(もちろんそれ以外でも)家主を聴いてみてほしい。彼らの音楽はきっと、あなたの心に寄り添ってくれて、その気持に名前をつけてくれる。(藤澤香菜)


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