tricot @ 渋谷CLUB QUATTRO

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暗転したステージを覆う紗幕に、“pool side”のコードを奏でるキダ モティフォ(G・Cho)の姿が浮かび上がった瞬間、ソールドアウト満員の渋谷CLUB QUATTRO一面に湧き上がる怒号のような大歓声! 初のフルアルバム『T H E』を引っ提げて、アルカラ/SAKANAMON/キュウソネコカミ/HaKUなど錚々たる対バン・ゲストを迎えて10月から日本各地を駆け巡ってきたtricotの全国ツアー『女心と秋のツアー』もいよいよここ渋谷CLUB QUATTROワンマンでファイナル。途中、キダの激しすぎるステージ・アクションからくる頸椎椎間板ヘルニア発症により、ツアー後半の福岡・熊本・広島・香川公演および徳島でのイベント出演をキャンセルせざるを得ないという状況に直面したものの、12月1日の沖縄公演からキダも無事ステージ復帰!というバンド内のストーリーはもちろん、驚愕の爆発力としなかやさでもってロックの定義も意義も刷新していくような唯一無二のアンサンブル、晴れて4人揃って「今」を全身で謳歌するようなバンドの躍動感とバイタリティ、そしてそれをあふれんばかりの期待感をもって待ち受けていたクアトロ満場のオーディエンスの熱気――それらすべてが轟々と渦巻きながら、眩しいくらいの歓喜の風景を描き出していく、最高のアクトだった。

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紗幕が落ち、鋭利なサウンドと変拍子ビートでいきなりフロアをOiコールで包んでみせた“POOL”をはじめ“飛べ”“初耳”“CGPP”などアルバム『T H E』の楽曲を本編の軸として真っ向から提示しつつ、“夢見がちな少女、舞い上がる、空へ”“G.N.S”“消える”“爆裂パニエさん”などこれまでの楽曲を織り重ね、2010年の結成から驀進してきた3年間をぎっちり凝縮したようなセットリスト。時に5拍子や7拍子なども交えながら、曲中で目まぐるしく拍数を変える変拍子ビートを、あたかも呼吸のように自然と体現しながら、スリリングでダイナミックな音世界を生み出していくヒロミ・ヒロヒロ(B・Cho)&komaki♂(Dr)の爆裂リズム・セクション。激しく舞台上を跳ね回りながら(首に気遣ってか、これまでより若干背筋を伸ばし気味ではあるものの)、楽曲全体に言い知れぬ緊迫感と焦燥感を与えていくキダ モティフォの幾何学的ギター・フレーズ。そして、コケティッシュなウィスパー・ヴォイスから喉も裂けよとばかりの絶唱まで幅広い表現力でもって、衝撃的瞬間だらけのアンサンブルにさらなる熱量と色彩感を注ぎ込んでいく中嶋イッキュウ(Vo・G)のヴォーカル……それらの複雑に入り組んだ要素が、ディープなポスト・ロックでも難解なプログレでもなく、フロアを揺らしクラップを誘い、時に激しくクラウドサーフを巻き起こす衝動的でエモーショナルな音楽として成立してしまっている――というのがtricotの表現であることは十二分にわかっていたはずだが、それでもこの日の渋谷CLUB QUATTROで鳴っていた4人の音は、どこまでも鮮やかで、獰猛で、伸びやかで、自由そのものだった。

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6拍子+5拍子のダンス・ビートが時にタイト&ソリッドに、時にスウィングしながら、観る者すべてを狂騒天国へと導く“おちゃんせんすぅす”の背徳的なまでの快楽。「初めて作ったミニアルバムから……」という中嶋の言葉とともに鳴り渡った“slow line”の、テレヴィジョンが思いっきりファンタジック&メロディアスになったような音像が壮大な地平を描き出した瞬間の圧倒的なスケール感……惰性の入り込む余地のないアンサンブルを全身全霊傾けて、しかもあふれんばかりの感激の表情で展開していく4人の姿は、オーディエンスのハートを片っ端から燃え上がらせていくだけのエネルギーに満ちていた。

「ツアー中に首を傷めまして。椎間板ヘルニアで、ギターも弾けへんぐらい手が痺れたりしてて。どうなることかと思ったんですが、12月1日の沖縄のライブから復帰することができまして……ご心配をおかけしました!」と汗と熱気と歓喜まみれの観客に語りかけていたキダ。バンドとしてのライブ出演ができない間、中嶋ら他のメンバーが弾き語りなどアコースティック・アクトで舞台に臨んでいたtricot。「先輩がいない間にね、ヒロミさんもめっちゃ頑張ってね。弾けないアコギを片手にアコギを弾いてくれたりとか、バンドで弾いたことないキーボードを急に練習し始めたりして……意味わかんなかったです(笑)。『できるんやん!』みたいな」と悪戯っぽく語りつつ、中嶋は「せっかく途中で弾き語りをやってたんで、今日もちょっとだけやりたいと思います」と“Laststep”“Swimmer”をアコギ弾き語りで披露、さらに中嶋いわく「小学生ぐらいの時にピアノを習ってはって、それ以来らしい」「九州で泊まってたホテルの部屋で何十時間も練習して頑張ってました」というヒロミのキーボードをバックにピアノ・アレンジの“タラッタラッタ”を聴かせてみせる。転んでもタダでは起きないどころかさらに表現の幅と奥行きを拡大して1歩も2歩も前進してみせる――そんな自由闊達な闘争心と生命力も、tricotというバンドの魅力をさらに深めている。

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“G.N.S”からは一気にクライマックスへ! ストレートな8ビートが逆に新鮮に胸を震わせる“消える”、割れんばかりのクラップを巻き起こした“おもてなし”……とむせ返るようなフロアの熱気をさらにぐいぐいと高める中、「今回ね、ケガでライブできひん!ってなって、『やばい! ギター弾かれへん! まだツアーあるし、どうしよう!』って思って、泣きながらメールを打ったんですね、メンバーに。でもね、バンドではキャンセルになってたんですけど、アコースティックでやるって言ってくれて。とても……心強い感じでした。ありがとうございます!」とメンバーに感謝を伝えるキダ。さらに、「お客さんもね、『待ってます』とか『頑張って治してください』とか『私が代わりに首振ります』とか(笑)。嬉しかったです。ありがとうございます。今日は、個人的感謝祭です!」と呼びかけると、観客から惜しみない拍手と歓声が沸き上がる。続けて「キャンセルになった5ヵ所も、払い戻しもできたんですけど、払い戻さず来てくれたお客さんがたくさんいて。本当に感謝してます!」と語りかける中嶋は、「そして……何やらカメラが入ってるの知ってました? 君ら、撮られてんで!」とオーディエンスの歓声を煽り、「撮られて興奮してる! 変態やな!(笑)」とSっぽく言い放って爆笑を誘う。「かかってこいやあ!」と感極まって叫ぶ男子客を「ああ怖い怖い! 女の子やし」とあしらいつつも、「せっかくやから、面白い画にしましょう、みんなで」とシングル曲“99.974℃”へ雪崩れ込む際には今度は中嶋から「かかってこいやあ!」の絶叫! クアトロ一面に響き渡る魂の雄叫び!――そんな場面のひとつひとつが、ステージとフロアの垣根を取っ払う最高のコミュニケーションとして作用し、切れ味鋭いバンド・サウンドと中嶋/キダ/ヒロミの3声ハーモニーの接点から途方もないエネルギーが噴き上がっていく。キラー・アンセム“爆裂パニエさん”で湧き上がったでっかいシンガロングに中嶋が歌を委ねてみせた瞬間は、この日の幾多のピークポイントの中でもひときわ感動的に胸に残った。

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「6月にここでワンマンして、またここでワンマンしたのには訳があって。前回ソールドしなかったんで、この景色が見たかったです。ありがとうございました!」というライブ終盤の中嶋の万感の言葉に、「もう1回最初からやって!」とオーディエンスの貪欲すぎる歓声が沸き上がる。「やるかもっかい頭から! とりあえず、幕つけるところからやらんと(笑)」(中嶋)、「1回照明消えて、ついたら私がいて、な?」(キダ)と語り合うメンバーの表情からも、この日の充実感が窺える。「《君は言った》のところ、みんなで言おうや。変拍子で難しいけど(笑)」という中嶋の呼びかけから、まさかの“爆裂パニエさん”ハイライト再現! 本編を締め括ったのはアルバム『T H E』のラスト・ナンバー“おやすみ”。あまりにも凄絶で、熱く、美しいライブだった。

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アンコールでは「tricotいちの女子力担当」こと唯一の男子メンバー=komaki♂が「イッキュウが『ヒロミさんも慣れへん鍵盤やらアコギやら弾いてくれてありがとう』って言ってたけど、俺もアコースティックやったからな! エゴサーチやったけど、俺のこと誰も触れてへん!」とアピールしまくるところに女子メンバー3人がブーイングで応える――というシーンも、tricotのライブならではの名場面(?)だろう。さらに、中嶋から「なんと! またワンマンやります! みなさまのおかげで、この渋谷クアトロを満杯にすることができましたので、続きましては……赤坂BLITZです!!」と次回の東阪ワンマン・ライブ『帰ってきたトリコさん』のアナウンスが飛び出すと、会場は空気がびりびり震えるほどの歓声に包まれていく。そこへ「まだ誰にも見せてへん、ライブでやったことのない、いちばん最新の曲」という中嶋の紹介とともに「世界最速」で披露されたのは、12月18日にリリースされるコンピレーション・アルバム『And Your Birds Can Sing』に提供した楽曲“スーパーサマー”。そして、ラスト・ナンバーは“MATSURI”。ハンドマイクでフロア最前の柵に立ち上がって歌い叫ぶ中嶋の姿が、目も眩むような爆音カオスが、至上のライブの終幕をこの上なく鮮烈に彩っていた。

3月20日:東京・赤坂BLITZ、3月27日:大阪・梅田AKASOにて開催されるワンマン・ライブ『帰ってきたトリコさん』の前にも、『COUNTDOWN JAPAN 13/14』(tricot出演は12月30日)などライブ・スケジュール目白押しのtricot。圧巻の加速度でもって2013年を駆け抜けたtricotは、来年どんな爆裂進化形を見せてくれるのか? その日を胸躍らせて待つことにしたい。(高橋智樹)

セットリスト
01.pool side
02.POOL
03.飛べ
04.夢見がちな少女、舞い上がる、空へ
05.初耳
06.おちゃんせんすぅす
07.CGPP
08.slow line
09.Laststep(中嶋イッキュウ弾き語り)
10.Swimmer(中嶋イッキュウ弾き語り)
11.タラッタラッタ(Vo:中嶋イッキュウ、Piano:ヒロミ・ヒロヒロ)
12.G.N.S
13.消える
14.おもてなし
15.99.974℃
16.爆裂パニエさん
17.おやすみ
Encore
18.スーパーサマー
19.MATSURI
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