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陽も傾き始め、涼しい風が吹き抜けるGRASS STAGEに、白いドレスに身を包んで現れたCocco。“音速パンチ”の弾力と切れ味に満ちた歌が、椎野恭一(Dr)/高桑圭(B)/堀江博久(Key)/大村達身(G)/藤田顕(G)という鉄壁のバンド・メンバーが鳴らすパワフルなサウンドを貫いて飛翔し、広大なフィールドを一気に支配していく。身体を揺らし、髪をなびかせながら“インディゴブルー”をアグレッシブに歌い上げる姿は、どこまでもダイナミックな人間の「生」を感じさせながら、同時に音楽の精霊のようなファンタジックな神秘さをも漂わせているし、“強く儚い者たち”のやわらかなメロディは真っ青な空にどこまでも広がっていくようなマジカルな伸びやかさに満ちている。情念のカタマリであり、同時に祈りの結晶であり、刃であり慈愛であるようなCoccoの歌がGRASS STAGEで響き渡るのは4年ぶり(前回=昨年はSOUND OF FORESTに出演)になるが、その歌はなおもスケールを増し、GRASS STAGE丸ごと抱き締めていくような包容力をもって胸に響く。《それは とても晴れた日で 未来なんて いらないと想ってた》という“Raining”の歌詞も、この日のステージでは悲しみや痛みよりも圧倒的な優しさとともに僕らに迫ってくる。MCらしいMCもなく、さらに“blue bird”“樹海の糸”とひたすら豊潤な歌を聴かせていくことに全身全霊を傾けていくCocco。メランコリックなギター・ロックの音像と絡み合いながら、聴く者の心に狂おしいほどのセンチメントを突き上げていく“ポロメリア”……を歌い終えたところで、「言いたいことはあれこれあるような気もするけど……」と、息を弾ませながらようやくオーディエンスに語りかけるCocco。「……まとめるとひと言です。ありがとうです」。表現者としてのエゴすら越えた「今」の彼女の歌そのもののような、シンプルで真っ直ぐな感謝の想い。温かい拍手がGRASS STAGEに広がっていく。alanへの提供曲“群青の谷”に続いて披露した最後の曲は、SINGER SONGERで歌っていた“花柄”。絹のようになめらかな声で《I'm on a high/私はハイ high,a high crime/重い重い罪 I'm highper enough/私はもうハイパー》とぶち上げる一見不穏な詞世界を展開しながら、ポジティビティあふれる風景へと聴く者すべてを導いてみせることができるのはCoccoくらいだろう。ついには自らが雄大な風そのものになったような熱唱を終えたCoccoの「ありがとう!」という声とともに、最後は6人が手を取り合って一礼! デビュー15周年イヤーの彼女の、魔法のような魅力と妖力をまざまざと見せつけられたひとときだった。(高橋智樹)