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2000年のロック・イン・ジャパンに登場して、悪天候の中でも負けじとスピッツらしさを、そしてスピッツ的ロック魂をもキッチリ見せつけてくれたスピッツが、久しぶりにこのひたちなかに姿を見せてくれるのだ、グラス・ステージのスタンディング・ゾーンは、ほとんど満員御礼状態である。

ライヴは、マサムネの「よろしくお願いします」の一言で、 “メモリーズ・カスタム”から。早速会場はスピッツ・ワールド、そしてスピッツのロック・モードの凄さを全体に知らしめている。ロック色の強い曲だから、会場が揺れているんだけど、全然こわくない。そう、熱いのに穏やかなのが、やたら目立つくせに控え目なのが、ざらついてるのに透明感に溢れているのが、スピッツの変わらぬマジックだ。そして、俺はそのマジックは、スピッツが優しいバンドだからこそのものだと思う。マサムネは言う。「こんにちはスピッツです! まだ元気は残ってますか? その残った元気の3分の1を僕らにください」。残りの元気は後の2アクトぶんに残しておけってことだよね。優しいね。そして、マサムネの着ているTシャツは「PBL」のロゴが。マサムネもパ・リーグの行く末を気にしているんだろうな。なんか、こういうところもマサムネの優しさだよなあ。 そして、あの、とても有名な、そしてとても伸びやかなギター・イントロに会場は沸く“涙がキラリ☆”。かと思えばそして三輪テツヤが、ハードなリフを炸裂させる。吉川晃司“モニカ”のカヴァーだ! マサムネと三輪テツヤのギターの応酬もカッコいい。しっかりスピッツ的ロックのサマー・チューンになってる! マサムネの声、そしてバンド・サイドの力量の凄さを思い知らされる。かと思うとMCではこんなことを言い出す。
「こんな大観衆の前に久しぶりに立たせていただいて、恐縮しています。器がちっちゃいんで(笑)。さっき奥田民生さんのライヴを観てて、曲の途中で『オーイエー!』なんて言えるのがいいなと思って、言おうかなと思ったんだけど、二の足を踏んでしまいました」とマサムネらしいMCに、テツヤがきっちりオチをつける。「俺はちょっとマネしたね。でも声が枯れたね(笑)」。そうそう、こんなMCもありました。「このフェスに出たのは4年前で、確実に体力の衰えを感じています。その前にみんなで体を鍛えて逆三角形のボディで会いたいと思います」。再びきちんとテツヤが落としてくれる。「でも絶対脱がないけどな!」。
最初っから最後まで、現在の曲も、昔の曲も、ちょっと前の曲もあったけど、やっぱりすべてが名曲だ。名曲に次ぐ名曲。名曲の中の名曲だ。それがどんどんと披露されていくさまはやはり圧巻だ。そして、男も女も、若いのもオトナも、文系も体育会系も、みんなが口ずさんだり、じーんとしたり、ニコニコしたりしながら、スピッツの名曲の数々に身をゆだねて、それぞれにゆったりと楽しんでいるのだ。

2000年のロック・イン・ジャパンに登場した直後のインタヴューで、マサムネは冗談めかしてこんなことを言っていた。「興味なくてもそれなりに楽しめるんじゃないかなって自信はある(笑)」。確かにそれだけの力量を持ってるバンドだと思う。でも、間違いがちょっとあるかもしれない。この光景を観て、スピッツに興味ないヤツなんていないんだと思った。日本で一番控え目で、なのに日本で一番目立ってる――そんなスピッツが、みんな、本当に、本当に大好きなんだ。(柳憲一郎)