銃撃されたイラン系のロック・バンド、ザ・イエロー・ドッグスが事件について語る

銃撃されたイラン系のロック・バンド、ザ・イエロー・ドッグスが事件について語る

ニューヨークで活動するイラン出身のバンド、ザ・イエロー・ドッグスのメンバー2名が銃撃されて他界した事件で、事件当日に仕事で現場に居合わせていなかったメンバーが事件を振り返っている。

ヴォーカルのシアヴァシュ・カランプールは事件が起きた11月11日未明にはバーテンの仕事に出ていたというが、そこに友人からバンドが共同生活しているブルックリン区イーストウィリアムスバーグの部屋で発砲事件があったと連絡を受けたと『ローリング・ストーン』誌に語っている。

「『なんだよ、いたずらかよ』と思ったんだけど、しばらく話しているうちに相手の声が冗談で話しているものではないことがわかってきて、『これはマジだ』と思ってね。それから部屋に電話を入れたんだけど、誰も応えなくて。ぞっとしたよ」

その後、シアヴァシュと同様、やはり仕事が入っていたバンドのベーシスト、クーリ・ミルゼアイの二人が想定していた最悪の事態が現実となってしまったという。事件を起こしたのは知り合いのイラン人ミュージシャンのアリ・アクバル・モハマディ・ラフィーで、セミオートマティック・ライフル銃を持ってバンドが共同生活をしていた建物に侵入すると、イエロー・ドッグスのドラマー、アラシュ・ファラズマンドと弟でギターのソルーシュ・ファラズマンド、さらにバンドとのコラボレーションを頻繁に行っていて建物に一緒に住んでいたシンガー・ソングライターのアリ・エスカンダリアンをそれぞれに射殺。さらにバンドの友人も1名銃撃され怪我を負ったが、その後ラフィーは屋上まで移動するとそのまま自分の頭を撃ち抜いて自殺した。

イランから4年前にアメリカに移住したイエロー・ドッグスはEPを2枚制作し、アメリカを精力的にツアーで回ってきたが、先頃アラシュが亡命者に対するアメリカ政府の保護を正式に認められたことでバンド全員がアメリカ政府の保護下に入り、この先の海外ツアーの可能性などもようやく見据えられるようになっていたところだったという。また、事件の3日前には初のフル・アルバムに向けた作曲も行っていたとクーリは語っていて、ソルーシュが作業の牽引役となっていたことを明らかにしている。現在、シアヴァシュとクーリは友人宅に難を逃れているが、「音楽で有名になりたかった」とシアヴァシュは語っていて、「ぼくたちが有名になるためには人が3人死ななきゃならなかったんだ」と訴えている。

ただ、犯行を行ったアリ・アクバル・モハマディ・ラフィーの動機は今もはっきりしていないという。アリはザ・フリー・キーズというやはりイラン出身のバンドに在籍していたものの、すでにバンドを追われる形で脱退していたが、ここきて精神的に不安定になっていて、バンドに復帰することに強いこだわりを見せていたという。シアヴァシュとクーリはアリとは特に親しくもなかったと語っていて、ここ1年は会ったこともなかったと語っていて、犯行の動機についてまったく思い至らないことをほのめかしている。またイエロー・ドッグスのマネージャーのアリ・サレヘザデは次のようにも疑問を呈している。

「ああいう精神状態と金銭状況の人物で、しかも外国人が、ああいう武器を合法的に手に入れられるっていうのはどういうことなのかと思うんですよ。あれは自衛用の銃器なんかじゃないですよ。暴れて人を殺すための凶器ですから」

イエロー・ドッグスはロックへの締め付けが厳しいイランで活動を続け、2009年の時点ではすでにイランの文化を調査していたトルコのアメリカ大使館でも注目されているバンドだったという。その後バンドはイランでのミュージシャンの活動を追ったドキュメンタリー映画でカンヌ映画祭にも出品された『No One Knows About Persian Cats』でも紹介され、これがきっかけとなってサウス・バイ・サウスウェストに招待されることになった。サウス・バイ・サウスウェストの出演者を交渉していた元スタッフの故ブレント・グルルクはバンドを「これはまさにパンク・ロックだ。怖いものなし。必ず招待しなければ」と紹介していた。サウス・バイ・サウスウェストに出演を果たしたバンドはその後、アメリカへの亡命を希望し、二度と帰国することはなかった。

バンドは地元のロック・シーンにもよく馴染んでいて、ナダ・サーフやザ・ブラック・リップスなどとも友達になっていて、ブラック・リップスのコール・アレキサンダーは次のように語っている。

「連中の音楽とルックスのせいですぐに周りと馴染んでたよね。これまでのストーリーもクレイジーなものだったし、ブルックリンは連中にうってつけだったんだよ。他の国から来てたなんて言われなきゃ分かんないからね」

今後の活動についてクーリは次のように語っている。

「音楽を作ることを考えること自体が今はもう不可能なんだ。でも、たとえやめたかったとしても、もうできないんだ。みんなの夢を僕たちは追い求めることになるよ。もう僕たちだけで決められる問題じゃなくなったんだ」
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