デヴィッド・バーン、トム・ヨークのスポティファイ批判を擁護

デヴィッド・バーン、トム・ヨークのスポティファイ批判を擁護

レディオヘッドのトム・ヨークやプロデューサーのナイジェル・ゴドリッチが若いアーティストのためにならないとして、ストリーミング・サイトのスポティファイからトムのソロ作品、アトムズ・フォー・ピース、あるいはウルトライスタの音源を引き上げた問題で、元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンはトムやナイジェルの主張に同意し、その言い分を詳細に解説する長文のエッセイを『ザ・ガーディアン』紙に寄せている。

トムやナイジェルはまだキャリアが確立されていない若いアーティストの場合、ストリーミングの収入の設定があまりにも低額すぎて、とても収入として当てにはできないと条件が悪すぎることを批判しているが、その一方でストリーミングに対する料金を設定しただけでもスポティファイなどのサービスは良心的だとする声も上がっている。これに対してデヴィッドはその設定の実際を次のように解説している。

「こうしたサービスがストリーミング1回ごとに支払う料金は微細のもので、彼らの根本的な発想というのは塵も積もれば山となるというものです。したがってサービスを独占し、どこにでも存在させることは必須なのです。僕たちはウェブをベースにした世界に生き始めてから、企業による市場独占はみんなのためになると触れ回られているから、そこに適応していかなければならなくなっています。大手レコード会社らはそうやってサービスから得た収入のほとんどをピンハネし、残ったもののうちの15から20パーセントだけをアーティストたちに渡します。インディ・レーベルだと配分はもっと公平で、収入をアーティストと折半などという場合もあります。デーモン・クルコフスキー(ギャラクシー500、デーモン・アンド・ナオミ)は自身の"Tugboat"のパンドラやスポティファイなどのストリーミングでの支払いについてのデータを公表していて、デイヴィッド・ロウワリー(キャンパー・ヴァン・ベートーヴェン)などは『僕の曲はパンドラで100万回ストリーミング再生されたけど、僕に支払われたのは16ドル89セント(約1672円)で、ぼくたちが売っているTシャツ1枚の売上より少なかった!』というエッセイも書いています。たとえば、スポティファイで15パーセントの印税をもらうと契約したバンドがいてメンバーが4人いたとすると、1人が1万5080ドル(約149万)という最低限に近い年収を得るには2億3654万9020回のストリーミングが必要になります。参考までにあげておきますと、ダフト・パンクの今年の夏の最大のヒット曲"ゲット・ラッキー"は8月末までに1億476万回のストリーミング再生回数に達しました。ダフト・パンクの二人はこれでそれぞれに1万3千ドル(約129万円)前後の収入を得ることになります。悪くない額です。しかし、これは制作するのに時間とお金がたくさんかかった大作の中の1曲に過ぎないことを忘れないでください。もしスポティファイが主な収入源だとしたら、とても元は取れないということになります。そして、夏の大ヒット曲など持たないバンドに至ってはどういうことになるのでしょう?」

「将来、アーティストがこうしたストリーミングの収入を当てにしなくてはならなくなったとしたら、1年で廃業せざるをえなくなります。なかにはライヴ・コンサートなど、他に収入の手立てを持っている場合もありますし、わたしたちの中には過去にレコード会社に信用を置かれたおかげでまとまった数の観客を相手に演奏活動をできる人たちもいます。僕の場合にはレコード会社の支援があったおかげでどうにかなったと思っていますが、でも成功しているアーティストがすべてレコード会社の支援を必要としているわけではありません。いずれにしても、僕はストリーミングによって懐に入るわずかな収入を当てにしなくてもいいので、トム・ヨークや他のアーティストと同様、この先も生きていけると思います。けれども、そういうアドヴァンテージを持っていない駆け出しのアーティスト、ライヴ・パフォーマンスやライセンスで生活していけるところまで軌道にまだ乗っていないアーティストは、こういうサービスについてどう思うのでしょうか?」

また、音源を試聴する場としての利便性について、デヴィッドはなにもスポティファイなどのストリーミング・サービスではなくても、音源を試聴できる空間はインターネット上にいくらでもあると指摘し、さらにストリーミング・サービス上で聴き手が新しい音源を発見していくというビジネス・モデルについても、果たしてリスナーは本当にそういう場で音源を探していくものだろうかと疑問を投げかけている。さらにたとえストリーミングで発見したところで、それが音源の購入に繋がっていくとはとても思えないとも指摘している。

また、スポティファイの成り立ちについても、スポティファイは5億ドル(約495億円)規模の前金を大手レーベルに支払った上に各レーベルに株式も委譲していることを指摘し、コンテンツを制作したアーティストをまったく無視した利権構造を作り出していると指摘しつつ、同じような構造がテレビや映画などにも持ち込まれた場合、インターネットにすべてのクリエイティヴィティが何も残らなくなるまで吸い尽くされることになるだろうと警告を発している。そして、デヴィッドは次のようにエッセイを締め括っている。

「今問われているものは僕のようなアーティストが生き残れるかどうかという問題ではなくて、駆け出しや若手のアーティストでまだ数枚しか作品を出していない人たちがこれから生活していけるのかどうかという問題です(たとえば、僕と一緒にツアーをしているセイント・ヴィンセントもそうですが、彼女は決して無名の新人というわけではありません)。定評もしっかりしていて、よく知られて才能にも恵まれている彼女のようなアーティストの多くが、このままではこの先なにか別の仕事を得なければならなくなるでしょうし、そうでなければ別の稼ぎを探すしかなくなるでしょう。若いアーティストが活躍できなくなるようでは音楽カルチャーの未来も暗いものです。買い叩きのカルチャーというのはさもしいものですし、究極的にはビジネスそのものにとってもいい結果をもたらしません。僕が若かった頃に触発された音楽の世界はそういう世界ではありませんでした。(僕を含めて)たくさんの人は音楽が自分の人生を救ってくれたと言うくらいですから、そんな人の人生を救うものを将来の世代に残していくことにもちゃんとした見返りはあるはずです」
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