トム・ヨーク、アトムス・フォー・ピースというバンド名に込めた思いと街頭デモについて語る

トム・ヨーク、アトムス・フォー・ピースというバンド名に込めた思いと街頭デモについて語る

現在、アトムス・フォー・ピースとしてツアー中のトム・ヨークが、アメリカのコメディアンのマーク・マロンのポッドキャスト番組に出演して長いインタヴューに答えている。

その中でアトムス・フォー・ピースというバンドに込めた思いを次のように語っている。

「イギリスで政治について語ると、ひどくいきり立ったものになって、俺たち対あいつらと、すごく対決的なものになりがちなんだ。たとえば、今度のユニットのアトムス・フォー・ピースという名前が気に入っているのも、さりげなくピース(平和)って言っているところで、それと70年代っぽい政治性がほのめかされているからなんだよ。あるいは68年の世界的な反体制運動とかね。ぼくも生まれたその68年という年について考えさせられるところもあるし。もちろんね、このバンド名にはアトムス・フォー・ピース(核の平和利用)という言葉を生んだアイゼンハワー大統領のスピーチのこととかもあるんだけど、それはさておいてね、言葉そのもののイメージ(平和のための原子たち)からは、街頭に佇む人たちの姿を思い浮かべさせられるんだよ。特に何をしているわけでもなく街頭にいるだけの人たちなんだけど、警察がそこに踏み込んで排除しようとするものなら、そのまま暴動になりかねない、そういう人たちだよね。実際にそういう騒動にぼくも居合わせたことがあるし、警察のそういう姿も目撃しているからね。でも、何もしない時はただ、そこにいるだけなんだ。とにかく出かけて行ってそこへ佇む。今のスペインみたいにね。スペインではね、毎週ずっと人が街頭にいるんだよ。人々がね。そして毎回違ったデモが行われているんだけど、いつも4、500人は必ずいて、横断幕だけがいつも変わっているんだ。とにかく、そういうね、抵抗のイメージなんだ。受け身ではあるけど、とにかくそこにいるっていう考え方というか。もちろん、活動的ではあるんだけど、あくまでも平和的だっていうね。

ぼくも若かった頃はよくデモにも出かけていたもんだしね。特に参加したので大きかったのは学生の奨学金制度の改正に反対するものだったんだけど。今じゃこの問題も普通によくデモの対象にもなる問題なんだけど、ぼくがまだ学生だった頃はまだ議案の書面でしか存在していない問題で、それでも学生の評議会で反対することに決めたわけなんだよね。経済的に苦しいと教育を受ける機会が狭くなるということだったからね。そこでウェストミンスター橋でデモをやっていて、対岸の議事堂では議会が行われていて、これがよくもこの忙しい時にとサッチャーの逆鱗に触れたらしく騎乗警察隊まで差し向けてきたんだよ。それで機動隊と対峙することになって、ぼくたちの作品のアートワークをやってもらっているスタンリー(・ドンウッド)と一緒にそこにいてね、まあ、デモ隊のみんなもいきり立ち始めたんだね。機動隊がびっちり議事堂へと向かう橋を渡らせようとしないからね。なかには木片を投げつける連中もいたんだけど、まだそんなに険悪な雰囲気にはなっていなかったんだ。

でも、そう思ってたら、機動隊の盾を持った一団と騎乗警官隊が一斉にこっちに襲いかかって来たんだよ。妊娠していた女性の参加者がいたんだけど、彼女なんかは足を骨折してね。基本的にデモ隊のみんなは走ってたよ。走って逃げたんだよ、恐怖で絶叫しながら。それを騎乗警官隊はね、警棒を使って頭に殴りかかってきてね。それから手当たり次第学生たちに手錠をかけて、逮捕してて、その光景は狂ってたね。ほんとに、狂ってた。だけど、その晩報道されたのは、デモ隊が狼藉を働いて手がつけられなくなり云々というニュースで、でも、事実はそうじゃなかったんだ。ぼくたちはウェストミンスター橋の片端を占拠していただけで、そこにいただけなんだよ。そこへ当局は彼らのいうところの『牛追い』を始めたんだね。さらに腹を立てたサッチャーは馬を突っ込ませてきたんだよ」

こうした経験を経て、ある大きな転機となった心境をこのアトムス・フォー・ピースというユニット名には込めているのだとトムは次のように語っている。
「自分にとってのアトムス・フォー・ピースという言葉の意味について考えてみるとね、やっぱり、ある時期にデモをやっている人たちみんなに、なんかもう全然うまく伝わらなくなってしまったと行き詰ったことがあって、その時のことを思い出させられるんだ。というのもデモに出かけてみても、警察にさんざん虐ぶられるだけで、メディアでもろくでもないものとして書かれてただけだったからさ。そうやっているうちにこの運動の中であることを見出した人たちがいて、それがリクレイム・ザ・ストリーツ(街頭を取り戻せ)という運動になって、これはぼくに本当に大きな影響を与えたんだよ。

この人たちはデモをやりながら、いろいろ出し物もやるんだけど、これが基本的にお笑いなんだよね。そういうことをやりながら、デモもやるっていうものなんだ。これが本当にくだらなくて、信じられないくらいなんだよ。それでバイパス道路に反対するデモをやったことがあって、高速道路にデモ隊はどんどん乱入して交通を止めちゃうわけだよ。基本的にパレードみたいになってて、渋滞を起こして交通を止めるわけだね。しかも、パレードの中にはものすごい大きな人形を作り上げて、その上に女の子がいて手を振ってるわけだけど、腰から下のロング・スカートの中にはたくさんデモ隊が潜んでいて、前に進みながらみんなでつるはしやハンマーを振って高速道路を壊してるんだよ。だけど、警官隊もさっぱり気がつかないっていうね。そういうことばっかりやってて、ああ、これがやり方なんだなってぼくはすごく学習したんだ。みんなを笑わせろっていうね。怒らせちゃだめだって。笑わせて、平和的に相手の考え方を変えてみせろっていうね」
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