今年のマーキュリー賞候補作品が出揃う

今年のマーキュリー賞候補作品が出揃う - ビッフィ・クライロ 09年作 『オンリー・レヴォリューションズ』ビッフィ・クライロ 09年作 『オンリー・レヴォリューションズ』

イギリスのグラミー賞とも目され、最も優れたレコーディングに授与されるマーキュリー賞だが、今年の候補者の作品とプロフィールを紹介しよう。選考結果は9月7日に発表される。

ビッフィ・クライロ『オンリー・レヴォリューションズ』

ボーカル・ギターのサイモン・ニールに率いられて95年に結成したが、レコード契約にはベガーズ・バンケットに見込まれた00年までありつけなかった。ニルヴァーナなど、ヘビーなグランジ・サウンドに影響を受けたバンドは02年のデビュー作『Blackend Sky』でそのアート・ヘビー・ロックを展開。これに03年の『ヴァーティゴ・オブ・ブリス』、04年の『インフィニティ・ランド』が続いたが、07年の『パズル』がひとつのブレイク作となった。この作品はより聴きやすい大作へとサウンドを進化させた作品となり、その路線は09年の『オンリー・レヴォリューションズ』にも受け継がれ、バンドは各種のロック・フェスでもメイン・ステージの常連となるようになった。

コリーヌ・ベイリー・レイ『あの日の海』

イギリスのリーズ出身のシンガー・ソングライター。女子バンド、ヘレンとして活動を始めるがその後、04年11月にソロ・デビュー・シングル“ライク・ア・スター”を発表し、06年にファースト『コリーヌ・ベイリー・レイ』をリリース。06年のヒット曲“プット・ユア・レコーズ・オン”で特に知られていて、イギリスでは09年にセカンド『あの日の海』をリリースし、それが今回の賞の候補となった。この作品のテーマのひとつは夫ジェイソン・レイを08年に亡くしたというもので、それと同時に海にまつわるモチーフが作品を貫いてもいる。

ディジー・ラスカル『タングー・アンド・チーク』

ロンドン出身のラッパー、ディラン・ミルズことディジー・ラスカルにとってマーキュリー賞の候補になるのは今回で3度目。1度目は03年のデビュー作『ボーイ・イン・ダ・コーナー』でこれは見事に受賞。07年の『マス・アンド・イングリッシュ』は候補に終わった。今作『タングー・アンド・チーク』はポップへとクロスオーヴァーした作品で、3枚ものチャート・ナンバーワン・シングルを収録したアルバム。03年のデビュー以来、ディジーはロンドンのグライム・ラッパーから世界的なポップ・スターへと駆け上ぼり、その合間にカルヴィン・ハリス、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、アーマンド・ヴァン・ヘルデンなどといった気鋭のアーティストらとのコラボレーションなども実現させている。今となってはイギリスや海外のフェスで大きな出番を任される存在となっている。

フォールズ『トータル・ライフ・フォエヴァー』

オックスフォード出身のフォールズは今作がセカンド・アルバムとなるが、ファンや評論家の多くからは08年のファースト『アンチドーツ』が候補に上がらなかったのはあまりにも点が辛かったのでないかと今も声が上がる。インディ・ロックへのアートっぽいアプローチと同時にライブはノイズや騒音でまみれることでも有名だ。ボーカルのヤニス・フィリパキスはレイ・カーツワイルの『ポスト・ヒューマン誕生コンピューターが人類の知性を超えるとき』に心酔していて、人間とテクノロジーの関係などといったモチーフがヤニスの歌詞にも大きく影響している。

アイ・アム・クルート『スカイ・アット・ナイト』

01年のデビュー作『ナチュラル・ヒストリー』以来、伝説のインディ・バンドとしてカルト的な人気を誇るマンチェスター出身のアイ・アム・クルート。特に今回の『スカイ・アット・ナイト』のリリースを契機に、これまでこのバンドが過小評価されすぎていると感じてきた多くのミュージシャンや評論家がこのバンドを絶賛する声を上げることになった。そんな人物の一部が自身もマーキュリー賞に輝いたことのあるエルボーのガイ・ガーヴィーとクレイグ・ポッターで2人はこのアルバムのプロデューサーも務めている。作曲を担当するジョン・ブラムウェルを中心とするこのトリオを信奉するまた別なバンドにはマッカビーズなどが挙げられるが、マッカビーズにいたっては、客数もまばらなアイ・アム・クルートのライブを観て畏怖に駆られた時の経験などをそのまま曲としてレコーディングもしている。

キット・ダウンズ・トリオ『Golden』

ジャズ・ピアニスト、キット・ダウンズのリーダー・バンドの本作が今年のジャズ対象作。ベースのキャラム・グールレイ、ドラムのジェイムス・マッドレンからなるこのトリオは05年に王立音楽アカデミーで結成。キットは自身の受けた音楽的影響を、バルトークからキース・ジャレット、そしてルーファス・ウェインライトととても幅広いものだと説明している。『Golden』は昨年11月にリリースされた、トリオにとっては初の本格的なレコーディング。

ローラ・マーリング『I Speak Because I Can』

90年ハンプシア出身のローラの本作は、デビュー作『Alas I Cannot Swim』に続いてのマーキュリー賞候補作。本作『I Speak Because I Can』のプロデューサーはライアン・アダムスの作品を手掛けてきたイーサン・ジョンズで、ローラはもう1作今年中にイーサンと一緒に制作する予定だ。また、ローラはジャック・ホワイトともシングル“Blues Run the Game”を制作している。

マムフォード&サンズ『Sigh No More』

結婚式でのパフォーマンスやローラ・マーリングのバック・バンドとして活動してきたマムフォード・アンド・サンズのデビュー作。西ロンドンのフォーク・シーンで突出した存在であるこのユニットは、マーカス・マムフォード、ウィンストン・マーシャル、ベン・ラヴェット、テッド・ドウェインから構成され、もともと強いファン・ベースを誇っていたが、ファーストのリリース以来、その勢いをどんどん大きくしている。ファーストもイギリスではプラチナに輝いた。

ポール・ウェラー『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』

ザ・ジャムのボーカルとして活躍し、その後はソロとして20年近く成功を続けてきているポールにとって、実は初のマーキュリー賞候補作品。今作ではいつもの常連コラボレーターらから離れ、プロデューサーのサイモン・ダインとの共同作曲を進め、マイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズとのコラボレーションなども試みた意欲作。ポールの10作目となる本作ではジャム時代のベーシスト、ブルース・フォクストンとの再会も実現されていて、ブルースは本作のセッションに貢献している。ポールは今年のNME賞では神的才能賞に輝いている。

ワイルド・ビースツ『トゥー・ダンサーズ』

ワイルド・ビースツはイギリスの湖水地方のケンダルでヘイデン・ソープとベン・リトルが学校でデュオを組んだのがその始まり。ユニット名は野獣を意味するフランス語のフォーヴというものだった。その後、ユニット名を英語に改めたワイルド・ビースツはデビュー盤『リンボ・パント』を08年にリリースし、翌年に本作を発表。セカンドは早くから今年のマーキュリー賞候補として目されていたが、その期待に違わず今回候補に残ることになった。

ザ・エックス・エックス『The XX』

今回の候補に上がる前から評論家やプロモーターの間ではとっくに引っ張りだこになってきたロンドンのユニット。09年8月にデビュー作がリリースされて以来、このユニットの音は映像作家サーム・ファラマンドのインスタレーション作品の中や、あるいはBBCの総選挙特集のBGMとしても聴かれたりするほど、各所で耳にするものになってきている。バンドはロンドンのパトニーで結成。もともとは現在のロミー・マドリー・クロフト、オリヴァー・シム、ジェイミー・スミスに加えて、キーボードのバリア・クレシもメンバーだったが、バレシは09年に体調不良を理由に脱退。どうやらツアーのライフスタイルが肌に合わなかったようだ。

(c) NME.COM / IPC Media 2010
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