医者にかかれなかったアレックス・チルトン

医者にかかれなかったアレックス・チルトン

さる3月17日に心臓発作で急逝したアレックス・チルトン。パワー・ポップ・ロックを展開した伝説のバンド、ビッグ・スターを率いたことで、R.E.M.やリプレイスメンツなど、アメリカのオルタナティヴ・バンドに大きな影響を残しただけにその死を惜しむ声は多かったが、ここにきてさらに惜しまれる事実が判明してきたとピッチフォークなどは報じている。というのは、アレックスは医療保険を受けていず、もし医者にかかっていたらその死も避けられたかもしれないということがわかってきたからだ。

特に先頃タイムズ・ピカユーン紙に80年代前半以降ニューオルリーンズに居付いていたアレックスの生活ぶりが紹介され、その事実が明るみになった。記事の大半は、一線から身を引いて必要に応じてレストランの洗い場などといった仕事をこなしながら音楽に打ち込む、どこか悠々自適としたアレックスの生活ぶりが紹介され、とても魅力的な内容となっている。だが、その末尾でアレックスが治療をしようとしなかった健康問題のことについても触れられている。

「その命を奪った心臓発作に襲われる一週間ほど前、アレックスは少なくとも2度は自宅の芝刈りをしている最中に息苦しさと寒気に襲われていたという。しかし、アレックスは医者にかかろうとはしなかった。(妻のローラ・)カースティングによれば、医者にかかろうとしなかったのは、医療保険に入っていなかったことが大きかったという」

こういうことが起きるのは、アメリカの医療システムが自由診療制度で、つまりは日本でいう患者の「全額負担」が基本だからだ。そのリスクを避けるために保険会社の医療保険に入るのが普通なのだが、当然、それなりの収入がなければこうした医療保険に入ることは不可能で、アメリカには保険に入っていない人口が4000万人にも上るという。

もしちゃんと治療を受けていたらアレックスが今も生きていたかどうか、それはまたわからない話だ。ただ、アレックスの死から1週間後、オバマ大統領の施政の目玉のひとつである医療改革法案が可決し、アメリカも日本やヨーロッパのような国民皆保険制度へ移行することになったことはせめてもの救いなのかもしれない。
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする