【コラム】冷静と情熱の間にいた孤高の人、乃木坂46橋本奈々未の集大成『サヨナラの意味』について語りたい

【コラム】冷静と情熱の間にいた孤高の人、乃木坂46橋本奈々未の集大成『サヨナラの意味』について語りたい

2016年10月19日深夜、橋本奈々未がニッポン放送『乃木坂46のオールナイトニッポン』に出演し、乃木坂46から卒業することを発表した。自身の誕生日である2017年2月20日を目処にグループを去り、その後は芸能界からも引退するという。橋本といえば、結成初期の頃からフロントメンバーとして乃木坂46を牽引し、ファンの間では、白石麻衣・松村沙友理とともに「御三家」と呼ばれていた存在。月9をはじめとしたドラマ出演も果たしていたり、『CanCam』の専属モデルとして活躍していたり、『SCHOOL OF LOCK!』内のコーナー『GIRLS LOCKS!』のパーソナリティーを務めたりしていたために一般的な認知度も高く、翌朝に各種メディアで卒業発表が報道された際には大きな話題を呼んだ。それが今から約1ヶ月前の出来事である。

今月9日にリリースされた16thシングル『サヨナラの意味』で、橋本はシングル表題曲では最初で最後となるセンターを務めた。橋本が昨年発売した写真集のタイトル『やさしい棘』に因んでか、ミュージックビデオでは棘をモチーフにした物語を展開。なお、『サヨナラの意味』は発売初日で累計出荷数100万枚を突破した。乃木坂46はデビュー5年目にして初のミリオンを達成することとなり、橋本は有終の美を飾ったともいえるだろう。

表題曲“サヨナラの意味”はピアノの旋律によるイントロがバラードの始まりを予感させる。《サヨナラに強くなれ》《サヨナラを振り向くな》《サヨナラは通過点》と訴えかける歌詞も相まって、一切の余韻を許さない感じがかえって切なく、まるで卒業に際してキッパリと「やり残した事はありません」と答えた彼女の強い意志そのもののようだ。そして、アップテンポだからこそ描ける「別れ」の絶妙な温度感を再現した表題曲はもちろんのこと、カップリングに収録されている橋本のソロ曲“ないものねだり”にも注目したい。橋本が綴った日記を元に秋元康が作詞をしたという同曲(彼女が好きだと公言しているバンドの代表曲と同じタイトルであることも気になるが)は、“サヨナラの意味”から一転、ゆったりとした時間軸で進んでいくバラード。穏やかなサウンドの中で歌う彼女の声の揺らぎは、女性的な繊細さや柔らかさを象徴している。

AKB48の公式ライバルとして結成され最初からヒットを義務付けられていることへのプレッシャーと、そんな中で抱く「自分を変えたい」という想い。端的に言ってしまえば、乃木坂46とはその狭間で闘う少女たちの物語であり、もちろん橋本もその当事者ではあったが、彼女はどこか俯瞰した視点で自分自身を見つめることができる人でもあった。だからこそ初志貫徹の人だったのだと思うし、そのクールビューティーなルックスとは裏腹に、情に厚く芯の通ったところもあった。冷静と情熱の間を行き来する、ゆえに孤高であり続けた人。今回のシングルに収録された“サヨナラの意味”と“ないものねだり”はそんな彼女の筋道の通った二面性を表しているように思える。

卒業発表をした『乃木坂46のオールナイトニッポン』の本番前に開かれた報道陣向けの会見、「卒業についていつから考えていたのですか?」という質問に橋本は「ずっとです」と答えたという。アイドルの世界と日常の世界、そして自分自身や周りにいる人たちの未来をまっすぐな視点で見つめていたこの人には、華やかなステージに固執しない感じがあったが、しかし、というかだからこそ、刹那の輝きを放てたのかもしれない。卒業の目処となっている彼女の誕生日2月20日まではあと3ヶ月程度。絶頂期のままステージを去ってしまう「アイドル・橋本奈々未」の光の行く末を、最後まで見届けたいと思う。(蜂須賀ちなみ)
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