【コラム】「また会える日まで」――藍井エイル、無期限活動休止に寄せて

【コラム】「また会える日まで」――藍井エイル、無期限活動休止に寄せて

この夏から体調不良による活動休止期間に入っていた彼女が下した決断はあまりにも厳しく、衝撃的なものだった。今年で彼女はデビュー5周年。アニバーサリーを彩るように、ベストアルバム『BEST -A-』『BEST -E-』の発売や武道館ワンマン「Eir Aoi 5th Anniversary Special Live 2016 ~LAST BLUE~ at 日本武道館」の開催がすでに発表されていたところだったのに。こんな展開、誰が予測していただろうか。

藍井エイルがアニソン界に残した功績は大きい。デビュー曲“MEMORIA”がTVアニメ『Fate/Zero』エンディングテーマに抜擢されて以降、“AURORA”はTVアニメ『機動戦士ガンダムAGE』三世代編のオープニングテーマに、“INNOCENCE”はTVアニメ『ソードアート・オンライン』フェアリィ・ダンス編のオープニングテーマに……と、リリースした曲は次々とアニメ主題歌に起用された。力強さと、その裏にある儚さ。その両方を内包していることが彼女の歌声の魅力だが、近年リリースされた“ラピスラズリ”“翼”などによって、郷愁的なメロディラインという新たな特色も加わってきたところだった。「アニメの世界観に寄り添う」ことを求められ、その上、様々なジャンルの音楽性の歌が入り乱れるアニソン界の中で「如何にして自分だけの表現をしていくか」という点はとても難しい部分ではあるのだが、5年前に彗星の如く現れたこの藍井エイルというシンガーは、確かな存在感でもってそれを成立させてきたのだ。

先日の武道館ライブ(ライブレポートはこちら→http://ro69.jp/news/detail/151088)、休む間もなく歌い続ける彼女の姿を見て改めて思ったのは、彼女がこの5年間ずっと「ひとり」を超えていくための闘いをしてきたのでは、ということ。以前NHKの特集番組にて、「最も共感できる(アニメの)登場人物の気持ちに自分を重ね合わせるようにして歌っている/歌詞を制作している」という話をしていたのが印象に残っているのだが、それはつまり、アニソンを歌うことをきっかけにして自分の内側との対話を深めているということである。そんな闘いを経て、自分の歌を媒介にしながら多数のリスナーと繋がってきたこと。ストイックにその一点にのみ集中した結果、彼女はそのフィールドを海の向こうにまで広げることに成功した。

つまり、「ひとり」と向き合いながら紡ぎ上げた歌の数々は、いつの間にか孤独ではなくなっていた。だからこそ武道館ライブでは本編をほぼぶっ通しで演奏したのだと思うし、「歌で繋がれたから歌で返す」というのが彼女なりの最大級の誠意だったのだろう。ライブ中客席からの歌声を何度も求めていたのも、「最高の思い出を一緒に作ってくれますか?」と投げかけていたのも、きっと同じ理由だ。どんな時でもまっすぐに伸びたあのハイトーンボイスと同様、まっすぐで筋の通った人である。あまりにもまっすぐで、それゆえの危うさを感じたときも正直あったけど、そういう面も含めて私たちは彼女に惹かれていた。

堰を切ったように涙を溢れさせたアンコール、5年間を共に築き上げた聴き手への感謝の言葉を連ねた場面にて、彼女は最初に「見つけてくれてありがとう」と言った。そもそも彼女には、デビュー前、音楽以外の道へ進もうとしたものの諦めることができず、動画サイトに自身の歌を投稿、それがきっかけとなりシンガーの道へ――という経緯があった。つまり、誰かに「見つけてもらった」ところから藍井エイルは始まっていて、だからこそ彼女の歌は「ひとり」を超えた先に広がるかけがえのない景色を求め、また、描き続けることができたのだと思う。

11月5日、ステージ上で彼女は「どんなに離れてたって私たちはいつだって繋がってるぞ!」と叫んだ。私たち聴き手が藍井エイルの歌に対する気持ちを絶やさない限り、彼女の歌は鳴り止まないし、膝を抱えていた夜にだって、涙で迎えた朝にだって「ひとり」を乗り越える勇気をプレゼントしてくれることだろう。だから、そうやって過ごしながら今は待っていたいと思う。彼女があの笑顔とともに帰ってくる日のことを。(蜂須賀ちなみ)
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