【徹底レビュー】嵐、究極ポップな名作『Are You Happy?』をRO69はこう聴いた

【徹底レビュー】嵐、究極ポップな名作『Are You Happy?』をRO69はこう聴いた

前作『Japonism』から1年ぶりとなる嵐のニューアルバム『Are You Happy?』は、端的に言うならば究極のポップアルバムということになると思う。嵐のここまでポップなアルバムは『Popcorn』(2012)以来だろうが、『Popcorn』が明確にポップアルバムを作ることを意図して制作されたのに比べると、本作はもっと無作為な「偶然」のポップアルバムという印象を受ける。

それこそ究極のコンセプトアルバムだった『Japonism』とは対照的に、この『Are You Happy?』にはサウンド面・歌詞面ではっきりコンセプトと言い切れるものは存在しない。その代わり、1曲1曲のクオリティをとことん上げていくという個別の作業に集中してこだわりまくった結果として、粒ぞろいの曲が詰まったポップアルバムが誕生してしまったのだろう。

本作ではコンセプトがないことが即ち自由に繋がっている。冒頭から最後まで様々なタイプ、ジャンルのサウンドが入れ替わり立ち替わり現れ、ファンクかと思えばエレクトロ、エレクトロから歌謡曲へ、歌謡曲からギターポップ、からのヒップホップ、そしてR&Bへと、ばらばらだったはずの各曲の方向性が気づいた頃にはぎゅっと濃縮還元された「楽しさ」に集約されていく感覚がまさにポップ!

そしてその賑やかでカラフルな本作の楽しさを要所要所で引き締めていく役割を担っているのが、アルバムに先がけてリリースされたシングルナンバーの数々だ。山下達郎の“復活LOVE”はまさにトップオブザポップたる風格で、ダイアモンドみたいなゴージャスな輝きを放っているし、某結婚情報誌のCMソングだった“愛を叫べ”は、そのシンプルなメロディラインの一方でバックトラックとコーラス処理が滅茶苦茶凝っていたことに改めて気づかされたりする。

そう、この『Are You Happy?』は究極のポップアルバムであると同時に、これまでの嵐のディスコグラフィーの中でも一、二を争うディープな音楽的先鋭が試されているアルバムでもあるのも凄いのだ。 “Ups and Downs”のリズムとホーンセクションは「え、そっち行くの?」と驚くほどマニアックな足取りで大胆に転調していくし、5人のフレンドリーな歌声が乗ることで一気にお茶の間化していくものの、“WONDER-LOVE”はクラブでかかっていても遜色ない最新エレクトロチューンだったりもする。

本作にはおなじみのコラボレーターから海外勢、そして意外な顔ぶれまで多くのアーティストが参加し、楽曲を提供しているが、彼らの仕事にはアイドルソングゆえの制約よりも、スーパーアイドル嵐によって広げられたポップの可能性を信じ、使いきる楽しさをより強く感じさせるものだ。彼らのソングライティングやアレンジには、日本一のアイドルである嵐に対する遠慮や萎縮がまったくない。優れたポップソングとは、誰にでも分かるように中庸を探っても作ることはできない。アーティストの創造性を120%絞り出した上で、それを平易に聴かせ、届ける説得力をもってして初めて生まれるものだ。嵐からジャスティン・ビーバーまで、トップアイドルの最新音源を聴いているとつくづくそう思う。

ちなみに松本潤のソロナンバー“Baby blue”の 90年代の渋谷系前後のムードを彷彿させるレアグルーヴ、フレンチポップ感が面白いなと思ってクレジットをチェックしたら、ギターを弾いているのが高野寛で思わず「納得……!」となってしまった。そんな“Baby blue”をはじめ、5人のソロ曲も今回はバラエティかつ意外性が随所に散りばめられたものになっている。

嵐きっての美声の持ち主である大野智のソロ曲“Bad boy”が、オートチューン全開でボーカルにエフェクトかかりまくりの4つ打ちのEDMナンバーだったのには驚いたが、むしろこれはコンサートでの大野のダンスに嫌でも期待が高まるという嬉しい意外性だろう。

また、自作歌詞曲はアコースティック&パーソナルな内容になることが多かった二宮和也だが、本作の自作詞ソロ曲“また今日と同じ明日が来る”は、カラフルに膨らみ弾けるドリーミーなエレクトロポップで、世界・他者に向けて扉が開かれたものなっているのもちょっとグッとくる。

前述のとおりあらゆるサウンドジャンルを飲み込んで一大ポップアルバムに仕上げられている本作だが、その飲み込む過程においてあえてベタを、ジャニーズソングならではの和洋折衷の歌謡曲もきっちりやりきっているのも本作の懐の深さ、嵐のポップネスの寛容さだ。たとえば“青春ブギ”のルーツを辿るとジャニーズの大先輩フォーリーブスの“ブルドッグ”あたりまで行きつきそうだし、“Amore”のラテンミュージックと昭和歌謡のミクスチャーは、“アンダルシアに憧れて”から“青春アミーゴ”、“Venus”と脈々と受け継がれてきた、これまたジャニーズの十八番と呼ぶべき独自のベタポップ路線のナンバーだ。

なお、“Amore”は相葉雅紀のソロ曲で、“青春ブギ”は相葉がプロデュースした曲になっている。どちらも相葉ちゃんらしくてニヤリとしてしまうわけだが、本作はソロ曲に加えて5人がそれぞれ1曲ずつプロデュースを受け持っているのも大きな特徴。嵐の総意に加え、5人それぞれの個性とモチベーションがいつもよりやや強調されたことによって、「偶然にして最高のポップアルバム」である『Are You Happy?』の絶妙のバランスは生まれているのだと思う。

嵐のアルバムは、その時々の彼らがどのようにして世界と向き合っているかを、かなりはっきりと反映&象徴した作りになっているのが面白いと私は考えている。初期の数枚は、彼ら5人が内を向いて円陣組んでいるイメージだったし、最近の数作は5人が横一線に並んで前を向いている、攻めているイメージだった。

それに対してこの『Are You Happy?』は、喩えるなら5人が背中合わせで円になり、外を向いているイメージだ。その眼差しの方向は5人5様、それぞれに好きなことをやっている。それはもちろん、互いに目線を交わさずとも通じ合う信頼が前提であり、背中越しの阿吽の呼吸で「嵐とは」という命題を共有している2016年の嵐だからこそ組めたフォーメーションだと思う。

ラストチューンはタンゴとヒップホップとファンクを掛け合わせた圧倒的にゴージャスな“TWO TO TANGO”なのだが、これが面白いくらいフィナーレにふさわしくないと言うか、美しい幕切れの演出をほぼ考えていない攻めに次ぐ攻めのナンバーで、自身のソロ“Sunshine”や筆頭プロデュースを手掛けた“To my homies”ではリリカルかつ抑えめのラップを披露していた櫻井翔も、ここではタフでセクシャルな低音サクラップを炸裂させているし、幕を下ろす間もなく早くも次への期待を煽るようなこのエンディングもまた、『Are You Happy?』というアルバムのコンセプト度外視の音楽的充実を象徴していると思う。

次のターニングポイントである嵐の20周年が少しずつ見え始めている今、躊躇なくアクセルを踏み込む彼らの背中を追いかける、そんなポジティブでエネルギッシュなファン冥利に尽きる一枚が『Are You Happy?』だと言えるだろう。
Are You Happy? その問いへの答えはもちろんただひとつのはずだ。(粉川しの)
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