ノーベル文学賞受賞のボブ・ディランに対するスウェーデン・アカデミーの「傲慢だ」発言、その本当の意味

ノーベル文学賞受賞のボブ・ディランに対するスウェーデン・アカデミーの「傲慢だ」発言、その本当の意味

10月13日のノーベル文学賞授賞の発表以来、賞については一切コメントを発表していないままのボブ・ディランだが、選考を執り行ったスウェーデンの学士院(国立アカデミー)、スウェーデン・アカデミーの会員の一部からはこのボブの対応について傲慢だという批判が上がっていると報道されている。

ボブに対してはスウェーデン・アカデミーから度重なる連絡が試みられたが、ボブは一切これに応じていない。その後、スウェーデン・アカデミー側は連絡を断念したことを発表し、12月の授賞式への出席を願うとだけ明らかにしていたが、その一方で11月23日までアメリカ・ツアーを行っているボブはライブをこなしているものの、ライブ中に受賞についてコメントすることもこれまで一度もない。

こうした現状についてスウェーデン・アカデミーのメンバーでノーベル文学賞委員長作家のペール・ベストベリィは「失礼だし、傲慢だ」と言及したと大々的に報じられているが、実際のベストベリィ会員の発言とはかなり誤ったニュアンスで伝わったものになっている。

ベストベリィはスウェーデンのテレビ局SVTに対して今回のコメントを語っており、SVTはボブの公式HPからノーベル文学賞受賞の文言が削除されたことについてまず訊かれて次のように答えている。

「まあ、そういうこともあるんじゃないかと予想されてはいましたけれども。受賞に関してはあまり乗り気ではないようだから、ぼくとしては驚かなかったですよ」

さらにあとはもうボブの出方次第だとベストベリィは次のように語っている。

「ぼくたちはもう待つだけです。ボブの方から来てくれたら、大歓迎ですよ。もし来なかったら式典の間、別な行事をこちらでなんか考えることになりますね。ボブがなんと言おうと、ボブが受賞者であることには変わらないんですから」

また、ボブの沈黙についてどう考えるかという問いにベストベリィは次のように説明している。

「どう考えるべきなんでしょうかね? 人によってはこんなボブを失礼で傲慢だと言うこともできますよ。でも、ボブはボブなんですから」

さらに今後の動きの見込みについては次のように語った。

「これはまったくもって前代未聞の事態なのでなんともいえないですね。でも、ボブにとっては、式典開催の直前まで返答を猶予することはできることになっています」

なお、ベストベリィは授賞決定の際、ボブのことを「最も偉大な現存する詩人」と激賞し、慣例となっている式典でのスピーチについてライブで代行することもあるのかという問いに「そう願いたいね」とも語っている。

また、ボブ・ディランの公式HPから「ノーベル文学賞受賞」の文言が削除されたという報道については、これはもともとボブの詩集本『The Lyrics 1961-2012』の紹介ページに挿入されていた受賞文言が削除されたということの模様で、出来事やニュースを伝えるページから削除されたということではない。したがって受賞拒否という意味合いよりも、商品の宣伝に利用したくないということではないだろうか。なお、ニュース・ページでは例にもれず、一切受賞について触れられていない。

ただ、ベストベリィの「失礼で傲慢」の発言はスウェーデン国内でも誤って伝わっているようで、ボブの授賞の発表を行った学士院のサラ・ダニアスは受賞者が授賞の報せに対してどのように対応してもそれは自由であるべきでスウェーデン・アカデミーがそれについてとやかくいうことはないと断言している。そうやってまずはボブの沈黙を擁護してから次のようにベストベリィの発言について語っている。

「学士院の会員であるペール・ベストベリィはボブ・ディランが返答してこないことに対して失望を感じていることを公に明らかにしています。しかし、これはベストベリィ氏の個人的な意見であって、スウェーデン・アカデミーの公式な見解とはとられるべきものではありません」

ただ、ベストベリィはそもそも自分の発言は文脈を無視して引用されていて、「失礼で傲慢だ」と言いたかったわけではないとその後、スウェーデンの大手新聞、ダーゲンス・ニュヘテル紙に次のように語っている。

「確かに5日前のことでしたけれども、『ディランがこのまま何週間も返事をしなかったら、その振る舞いについてあなたはどう思いますか』と訊かれたんです。だから、ぼくは『そういうことになったら、失礼で傲慢だと言わざるをえなくなるでしょう』と答えたのです。でも、ぼくの言った形容詞について、いちいちとやかく思う必要なんかないんですよ、ボブ・ディランはそんなことと関係のない雲の上の人です」

ただ、だんまりが続くとは予想していなかったと次のようにも語っている。

「気難しいところがあるのは承知していましたし、ステージや壇上で一人っきりになるような状況を嫌がることもわかっていましたから、どんなことも起こりうると踏んではいましたよ。ただ、さすがにまったくなんの反応もしないとはぼくたちの誰も思っていませんでしたね」

なお、授賞式欠席についてはこれまでアインシュタインが1922年にノーベル物理学賞を受賞した際に式を欠席しているが、これはアインシュタインが日本などアジア諸国での半年間にわたる講演旅行に携わっていて物理的に不可能だったからだ。また、1964年にはサルトルが文学賞受賞を辞退し、式にも出席しなかった。
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