【レビュー】天性の少女性・上白石萌音の清冽なその歌声について

【レビュー】天性の少女性・上白石萌音の清冽なその歌声について - 『chouchou』 発売中『chouchou』 発売中

それを最後にしたのがいつだったかは覚えていないが、ビー玉を覗き込んだとき、そこには「透明」という本来は色のないはずの色が詰まっていた。それを見て単純に「綺麗だな」と思う童心にも近い感情が、大人になった自分の胸にもまだ残っている。上白石萌音のデビューミニアルバム『chouchou』はそんな感覚を思い起こさせた。

同作には、名作映画の主題歌・挿入歌のカバー6曲が収められているが、『君の名は。』を観た人にとっては主人公・宮水三葉のアナザーストーリーのようにも感じるかもしれない。3曲目の『時をかける少女』の挿入歌“変わらないもの”に関して言えば、曲中の《時を超えていく思いがある/僕は今すぐ君に会いたい》という歌詞などは『君の名は。』にもリンクするし、なにより主題歌でRADWIMPSのカバー曲である“なんでもないや(movie ver.)”は、ストーリーを重ねて聴かずにはいられないだろう。

しかし、映画を観た、観ていないに関わらず、上白石の歌声に人の心を惹きつける魅力があることは間違いない。

“366日”short ver.

緩やかなアコーステックギターの音色にのせて《それでもいい それでもいいと思える恋だった》という吐息交じりの声から始まる“366日”を耳にした瞬間、そのガラス窓のように透き通る清冽な少女の歌声に、思わず息をのんだ。歌には自己主張の強いものや、リスナーに語りかけてくるようなものなど様々なタイプがあるが、彼女の歌はどうしても「感覚的」という言葉を使わずには説明できない。押しつけがましくも、閉じているわけでもない、ただ口ずさんでいるような風情でありながらも、狙わずして人の感情に入り込んできてしまう歌声だと思う。中でも1曲を通してアカペラで歌われている映画『レ・ミゼラブル』の劇中歌“On My Own”はそれをダイレクトに感じることができる。震える息遣いとともに、ほかのどの曲よりも力強く、若い生命力を感じさせる歌声には、思わず目を閉じて聴き入ってしまう。

何かを考えさせるよりもまず、聴き手の感覚部分にじんわりとひろがっていき、あたたかい気持ちにさせてくれる彼女の歌はまさに“なんでもないや”の歌詞を引用すると「僕の心が僕を追い越した」ということなのかもしれない。これは歌唱技術や音楽理論を引っ張り出して説明できるものではなく、ただただ天性の「才能」という一言に尽きるのだろう。(渡辺満理奈)
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