モリッシー、4年半ぶりの来日ツアー速報レポート。英王室、米大統領選etcに向けられた痛烈なメッセージとは?

モリッシー、4年半ぶりの来日ツアー速報レポート。英王室、米大統領選etcに向けられた痛烈なメッセージとは?

モリッシーが4年半ぶりとなるジャパン・ツアーを敢行している。

RO69では、昨日9月28日(水)に開催された同ツアー初日Bunkamura オーチャードホール公演のオリジナル・レポート記事をお届けします。

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【モリッシー @ Bunkamura オーチャードホール】

4年半ぶりのモリッシー来日である。4年半前の前回来日は約10年ぶりの日本であり、モリッシーと日本のファンの歴史が再び動き出したメモリアルなツアーであり、2週間に及んだツアーが仙台からスタートしたことにも明らかなように、東日本大震災へのモリッシーの追悼の想いもあった、様々な「意味」を含んだ来日だった。それに対して今回のモリッシーのライブはもっとシンプルなものだったと思う。会場がオーチャードホールという「音を聴く」場として洗練された会場だったことも大きいが、世の孤独な魂を統合する王であり、絶望と怒りとユーモアを司る稀代の詩人である異形のカリスマとしてのモリッシーよりも、30年以上一線で活躍し続けるミュージシャンであり、リリカル&エモーショナルな声を持つ天性のシンガーであるモリッシーの破格のアーティスト性を強く感じる一夜だったのだ。

ただし、シンプルとは言ってもそこはモリッシーである。残念ながらグラジオラスは持ち込み禁止、入り口に置かれたモリッシー宛のプレゼント・ボックスにいくつも花束が刺さっているのを見て切なくなりつつ、「お肉の持ち込みは禁止です」との斬新すぎる場内アナウンスに笑い、長蛇の列が出来ている物販コーナーで「モリッシーに優しくしましょう、さもなくば殺す(BE KIND TO MORRISSEY OR I’LL KILL YOU)」と書かれたツアーTを見かけて深く頷き……と、開演前から「ああ、モリッシーだなあ」と感じ入るシンプルじゃない瞬間が多々訪れる。そして、開演時刻の19時半をすぎてもショウはなかなか始まらない。その間には「モリッシーの好きなもの、全部見せます」的なコラージュ映像がステージ後方の巨大スクリーンで延々と流れている。ラモーンズやアイク&ティナ・ターナー、ニューヨーク・ドールズにセックス・ピストルズ他のライブ映像に加えて、映画『フレッシュ』のジョー・ダレッサンドロのヌード・シーンや、『ザ・クイーン・イズ・デッド』のアルバム・カバーも飾った若かりし頃の見目麗しきアラン・ドロンなど、美男子&美少年もてんこ盛り。それを観ているうちに気がついたら30分が経過していた、という感じだ。

20時過ぎにようやく場内は暗転、悲鳴&怒号を掻き分けるようにモリッシーとバンド・メンバーがステージに登場。おもむろに円陣を組んで何をするかと思いきや、互いに深々とお辞儀をし合うモリッシーたち。この日はショウの最中に何度もお辞儀を繰り返す彼らがいて、どうやら日本のマナーに則ってそうしようと決めていたみたいだ。そしてオープナーの“Suedehead”が始まった瞬間、果たしてオーチャードホールのような会場でどんな反応が起きるかと思いきや、会場の四方八方から100人程のファンがモリッシーめがけて猛突進、ステージ前にはいきなりもみくちゃのカオスが出現する。

文末のセットリストをご覧頂ければ分かるように、この日のセットは最新作『ワールド・ピース・イズ・ノン・オブ・ユア・ビジネス〜世界平和など貴様の知ったことじゃない』(2014)を筆頭とするソロ時代の曲がメインで、これもまたザ・スミス時代の曲満載でレトロスペクティヴだった4年半前とは明確に違う構成だった。抱擁のように手を広げ、胸に手を置き感に入りながら歌い上げるモリッシー、喉は絶好調だ。「ここに来てくれてありがとう」と言って始まった“Ouija Board, Ouija Board”は、ディストーション・ギターのアレンジが大胆に入ったバージョン。そう、この日の彼らのステージはモリッシーの歌唱がある意味オーソドックスなリリシストとしてのそれだったのに対して、バンドはパンキッシュでラウド、そして時に前衛的なスタイルで自由にやっていたのが印象的だった。ちなみにこの日のバンド・メンバーは全員白シャツにサスペンダーでキメており、上半身裸で胸にマジックで「男」と書かれてた前回と比べると普通に格好良い。そして前回はなぜか女装姿で、モリッシーに「ボズは怪我で重傷を負ってしまい来日できなかったんだ、レスト・イン・ピース」と分かりづらい追悼ジョークにされていたボズ(G)も、今回はスコセッシ映画に出てきそうな渋中年っぷりで、寡黙なバンマスとしてアンサンブルを仕切っている。なお、モリッシーは濃紺のシャツに黒のパンツ、というシンプルな出で立ちだった。

「昨日のアメリカ大統領選のTV討論観た?……ハハハッ!」と嗤い、トランプを「Thump」と引っ掛けてゲンコツをかます仕草をするモリッシー。「ヒラリーもトランプも2人ともひどい(horrible)、ひどい、ひどい、あそこにいた人間、すべてひどい。(先週までツアーを行っていた)アメリカから日本に逃げてきたぼくは賢明だったと言えるだろうね」と言って、“World Peace Is None of Your Business”へ。この歌の歌詞が痛烈なアメリカ批判となっていく。そして「これもアメリカの問題」と言って始まった“Speedway”では、スクリーンにアメリカの警察官によるショッキングな市民暴行シーンが延々とコラージュされ、流されていく。

そんな痛烈なアメリカ・ブーイング・セクションがありつつも、この日のモリッシーは終始朗らかだったと言っていい。ステージ前ですし詰めになっているファンに歩み寄ると、ぎゅっ、ぎゅっとひとりずつ相手の目を見つめながら握手をしていく。それは運命の出会いのようでもあり、今生の別れのようでもある、そういう重さと意味を感じさせる握手だ。ちなみに席移動はあくまでも本来はNGなので、今日は警備が厳しくなっているかもしれない。アコーディオンやトランペットもフィーチャーしてのアッパーな盛り上がりとなった“First of the Gang to Die”が中盤のクライマックスだ。

そんな“First of the Gang to Die”の祝祭感覚から一転、ノイズ・ギター、ディレイ・ギターの洪水と共に“Meat Is Murder”が始まる。前回来日でもヘヴィな演出が施されていたこの曲だが、今回はさらに重く、激しく、そして「痛い」メッセージ性が全開となったバージョンだった。あらゆる家畜が屠殺される瞬間を鮮明なカラー映像でこれでもかと畳み掛けられるビジュアル演出は正直かなりグロテスクでショッキングなものだが、モリッシーはその映像をビシバシと指差しながらおごそかに歌いあげる。そして逃げも隠れできないその場に、「あなたはどう言い訳しますか? 肉は殺人です」と日本語のメッセージがスクリーンに目一杯映し出される。この日は他にも闘牛が逆にマタドールを滅多刺しにする絵が掲げられた“The Bullfighter Dies”や、「United King-Dumb」と書かれたウィリアム王子&ケイト妃の写真と共にプレイされた“The World Is Full of Crashing Bores”など、抽象性を排除して極めてダイレクトに、身も蓋もなく投げつけられるメッセージ性が強かったと思う。この日のモリッシーが朗らかで清々しくすら見えたのは、 目の前に広がる「今」を怒り、批判し、我々に訴えかけるその姿自体が生き生きとポジティヴなものだったからなのだ。

そして、そんな超絶ヘヴィで重苦しい“Meat Is Murder”明けで始まった“Everyday Is Like Sunday”のカタルシスも凄まじいものがあった。「核爆弾、落ちろ」と歌われるこの曲に本来救いなんてないのだけれど、「救いなんてない」ということを理解している者たちがモリッシーのもとに集った、その連帯の歓喜と別の救いがそこにあったのは確かだ。そしてモリッシーが「アリガトー!」と絶叫、タンバリンも披露した“You're the One for Me, Fatty”は大合唱に、激しいライトの点滅の中始まった“How Soon Is Know?”はアウトロでこれでもかとブチ叩きまくる銅鑼の圧巻の轟音に酔いしれて、と、ショウの後半は一気に熱が最高潮まで高められていく。

4年半前の来日がモリッシーと我々の一期一会の時間を刻んだ普遍性が感じられたライブだったとしたら、今回はこの2016年をモリッシーと共有しているという同時代性がより強く感じられたライブだったと言えるかもしれない。アンコールのラストはスミスの“What She Said”。「この曲でサヨナラを言わなくちゃならない」と告げる彼にブーイングが起こる会場。でもそれをなだめるように「わからないけど、またいつか会えるかもしれないからね。その時にまたね。そうたとえば……明日とか」とモリッシーは言っていたので、当日券がまだ残っている本日のオーチャードホール、迷っているあなたはぜひ!(粉川しの)

〈SETLIST〉
01. Suedehead
02. Alma Matters
03. You Have Killed Me
04. Ouija Board, Ouija Board
05. I'm Throwing My Arms Around Paris
06. World Peace Is None of Your Business
07. Ganglord
08. Speedway
09. Kiss Me a Lot
10. All You Need Is Me
11. First of the Gang to Die
12. The Bullfighter Dies
13. Meat Is Murder
14. Everyday Is Like Sunday
15. The World Is Full of Crashing Bores
16. You're the One for Me, Fatty
17. How Soon Is Now?
18. Jack the Ripper

En1. What She Said

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なお、モリッシーはこの後も東京、神奈川、大阪で単独公演を行う。

公演の詳細は以下の通り。

●ライブ情報
「MORRISSEY JAPAN TOUR 2016」
東京
2016年9月29日(木) Bunkamuraオーチャードホール
OPEN 18:30 / START 19:30
チケット:全席指定 ¥12,000(税込)
※未就学児(6歳未満)入場不可
クリエイティブマン TEL:03-3499-6669

神奈川
2016年10月1日(土) 横浜ベイホール
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:¥12,000(税込/All Standing/別途1ドリンク)
※未就学児(6歳未満)入場不可
クリエイティブマン TEL:03-3499-6669

大阪
2016年10月2日(日) IMPホール
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:全席指定 ¥10,000(税込)
※未就学児(6歳未満)入場不可
キョードーインフォメーション TEL:0570-200-888

更なる公演の詳細は以下のサイトで御確認ください。
https://www.creativeman.co.jp/event/morrissey2016/
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