【コラム】indigo la End『藍色ミュージック』が示す音楽家・川谷絵音のすごみ

【コラム】indigo la End『藍色ミュージック』が示す音楽家・川谷絵音のすごみ - 『藍色ミュージック』初回限定盤『藍色ミュージック』初回限定盤

メジャーデビュー以前の作品も含め、indigo la Endの音楽の変遷は丹念に追っていたつもりだったが、2016年6月8日にリリースされた最新アルバム『藍色ミュージック』には驚いた。佐藤栄太郎(Dr)が加わったことで、表現の色彩感とクオリティが格段に増幅されたことももちろんその一因ではあるけども、今作で何より驚愕したポイントは、聴いた瞬間に描き出される風景をハイビジョンから4K以上の解像度へグレードアップしたような高精細感と、その中で描き出される感情を1ミクロン単位の震えに至るまで活写するフォーカスの正確さだ。

超絶テクニカルなプレイアビリティを発揮し激しくうねりながらも、いやまさにそのしなやかなうねりによって、聴く者の心の揺らぎを手ブレ補正の如く包容してクリアで安定した視界を与えてみせる、後鳥亮介(B)&佐藤栄太郎のリズムワーク。メランコリックでブルージーな情感の輪郭を鮮やかになぞっていく、長田カーティス(G)&川谷絵音(Vo・G)のギターアンサンブル。そして、悦楽の琴線を激しく震わせる多層コーラスを駆使しながら、己の憂いとセンチメントを緻密に綴っていく絵音の歌世界——。

これまでもindigo la Endの音楽の情景描写は映画的な物語性を喚起する要素を多分に孕んでいたが、スリリングに絡み合う“藍色好きさ”のサウンドと歌、“愛の逆流”のタイトでファンキーなプレイの精度、ローファイにミックスされたピアノナンバー“夏夜のマジック”に確かな輝度とグルーヴ感を与えるビートアレンジ……といった場面の数々から浮かび上がるドラマティックな叙情性は、たった1年4ヶ月前の前作アルバム『幸せが溢れたら』と比べても、というかインディゴの作品の中でも過去最高に濃く、深い。

そしてもちろん、この変化は偶然ではない。絵音の音楽家としての探究心を100%に限りなく近い形で具現化できる、という手応えが、彼自身をより純粋な「表現」へと駆り立て、多方向に咲き誇るクリエイティビティにリミッターをかけることなく次々と解き放っていった結果、インディゴの音楽はかつてないほどカラフルでビビッドな訴求力を獲得するに至った、ということだと思う。ゲスの極み乙女。も含めたメジャー進出以降の絵音の超多作ぶりについては以前にもここのコラムで触れたが、刻一刻と進化し続ける彼の才気がバンドというフォーマットの表現力そのものをアップデートするレベルにまで到達している——ということを、今作ははっきりと伝えてくる。(高橋智樹)
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