【コラム】いろんな意味で大型新人・岡崎体育について、改めて真面目に考えてみた

【コラム】いろんな意味で大型新人・岡崎体育について、改めて真面目に考えてみた - 『BASIN TECHNO』 初回盤『BASIN TECHNO』 初回盤

京都府在住、奈良を拠点に活動することで、『BASIN TECHNO』=「盆地(大和平野)テクノ」を標榜する岡崎体育。ポップミュージックにキレッキレの批評精神と笑いを注ぎ込むという点では、まさに重要なルーツとして挙げられた電気グルーヴの後継と言えるだろう。4月に公開された“MUSIC VIDEO”(というタイトルの曲)のMVは、本稿執筆時点でYouTube330万回再生を記録している。


“MUSIC VIDEO”は明らかにビデオありきの作品で、正直に言えば音源だけを聴いても、ほとんど意味が分からない。そのためか、5月18日にリリースされたメジャーデビューアルバム『BASIN TECHNO』の初回限定盤には、6曲のミュージックビデオを収録したDVDが同梱されている。一方、アルバムの冒頭を飾る“Explain”は、タイトルどおりに楽曲の構成を平易な言葉でユーモラスに説明している。ふざけているようだが、こんなふうに鮮やかにキャッチーに音楽を語り尽してしまう姿は、ライターとして見習うべき点もたくさんある。実に腹立たしい。

ポップミュージックが大好きでプロのミュージシャンに憧れてきたけれど、その強すぎる批評精神ゆえに、人間臭いメッセージを放つのは恥ずかしい。だから、かたやミュージックビデオを、かたや“Explain”ではEDM世代のエレポップを、鋭い批評とユーモアでこじるばかりの楽曲になってしまう。これらの楽曲が凄いのは、彼のアイデアそのものを笑うというよりも、ムキになってポップミュージックと向き合っているリスナーひとりひとりが、自分自身を笑う楽曲になっているからだ。批評的なのにとてつもなくポップなのは、そのためである。

『BASIN TECHNO』は、初日のオリコンデイリーチャートで6位、ウィークリーチャートでも見事9位にランクインした。エリック・クラプトンより上である。嬉しいやら、余計に腹立たしいやら。どう説明すれば良いのか困る心境だ。何にしても、現シーンの台風の目として、大きなインパクトを残しているのは間違いないだろう。バンドマンとしての経歴も持ちながら、ソロアーティストの道に進んだ彼の経験は、悪意の言葉の裏側に悲しい妬み嫉みを潜ませた“FRIENDS”にも表れている。ミュージックビデオでは、1分50秒あたりからの展開が実にえげつない。


27歳までにメジャーデビューするという家族との約束を、滑り込みセーフで達成したという岡崎体育の『BASIN TECHNO』。“家族構成”や感涙の美曲“エクレア”のように、なんだかんだで隠しきれていない人間臭さも魅力的な1枚だ。この作品に触れて抱く憎めなさは、決して、彼の風貌が僕の実弟と酷似しているからだけではないと思う。(小池宏和)
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