【コラム】テクニックだけじゃない!SKY-HIの「ラップ」があなたにも刺さる本当の理由

【コラム】テクニックだけじゃない!SKY-HIの「ラップ」があなたにも刺さる本当の理由

まず、SKY-HIが今年1月にリリースした2作目のフルアルバム『カタルシス』は素晴らしい1枚だった。シングル『カミツレベルベット』のカップリング曲だった“LUCE”をアルバムの中盤に配し、死と別れ、そして残された者の続いてゆく新たな日々、というテーマをアルバムとして描き出してゆく。多彩なプロダクションの楽曲群も物語として一貫性を持っており、公式ブログ上で綴られていたように「死す」を「語る」というダブルミーニングを持つアルバムは、リスナーにも絶大なカタルシスをもたらす1枚となった。死生観のヘヴィなテーマをキャッチーに鳴り響かせ、オリコン週間チャート5位という記録を残したことは、ひとつの快挙と言えるだろう。

AAAの日高光啓としてすでに10年以上のキャリアを誇るSKY-HIは、ヒップホッププロジェクト「FLOATIN’ LAB」への参加と前後して本格的なソロ活動を活性化させた。ひたむきに鍛え上げられてきたメインストリーム志向のラップスキルをもって、SEEDAやKREVA、SPICY CHOCOLATEやtofubeatsらの作品群にもコラボワークを残してきた。アルバム『カタルシス』リリース後には全国7公演のツアーも行ってきたが、本日2016年5月11日にはニューシングル『クロノグラフ』の発表を迎えた。

“クロノグラフ”Music Video

表題曲は、今回も戦略的にキャッチーであろうとする意図が感じられる。別れの悲しみと感謝が立ち上る“クロノグラフ”は、オーガニックな鍵盤の旋律が絡み合うトラックに乗せて、慈しむような歌声が伝うラップソングだ。一方、カップリング曲の“Front Line”は、ストリングスとピアノ、エレクトロ、そして重いマーチングビートが折り重なる勇壮なラップチューンである。いずれの楽曲も、ただテクニカルなだけではない。言葉と声が運ぶ感情の形こそが、ポップミュージックの最も重要なフックとなっているわけだ。

楽曲に乗せられた感情はまるで違っている2曲だが、渦を巻く思考の蠢きや熱量がひしひしと伝わる、そんなSKY-HIの力量が際立つシングル。ライミングやボキャブラリー、発語のスキルはもはや大前提として、SKY-HIはラップをもう一度、感情表現のツールとして捉え直そうとしている世代のアーティストに思える。彼はこの4月に長らく気にかけていたという声帯結節の手術を行い、無事に現場復帰を報告したところだが、9月から12月にかけては全20公演にも及ぶライブハウスツアー(ファイナルは豊洲PITの2デイズ)も予定されているところ。まずは、リリース作品を通してSKY-HIの現在地を確認しておいてほしい。(小池宏和)
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