きのこ帝国ツアーファイナル、「出会いと喪失」の先で鳴ったまっすぐな「愛」

きのこ帝国ツアーファイナル、「出会いと喪失」の先で鳴ったまっすぐな「愛」

2016年4月3日、きのこ帝国がワンマンツアー「きみと宝物をさがすツアー」の最終公演を中野サンプラザで行なった。RO69では、この模様をライヴ写真とレポートでお届けする。

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3月11日にスタートし、ここまで全国8ヶ所をまわってきたワンマンツアー「きみと宝物をさがすツアー」の最終公演。2013年のEP『ロンググッドバイ』以降の曲のみで固められたセットリストにより、バンドが今立つ場所と、これから進む道が指し示される、とても貴重な夜となった。

いきなりの轟音を放ちながら登場したバンドが最初に演奏したのは、『猫とアレルギー』のラスト・ナンバー“ひとひら”。リヴァーヴもディストーションも強くかけられているが、それ以上に強烈な演奏の躍動感に耳をさらわれる。あーちゃん(Gt)の荒ぶるギターソロも初っ端からスロットル全開だ。続く“海と花束”ではギターノイズの揺らぎに合わせ、力強くも陶酔感のあるグルーヴを谷口滋昭(Ba)と西村“コン”(Dr)によるリズム隊が叩き出す。この目をみはる演奏力は、くるりやSalyuなど屈強なライヴアクトを迎え昨年末頃に行ったツーマンツアーの成果でもあるのだろう。

会場の空気をガラリと変えたのは、ドラムとヴォーカルだけでスタートし、BPMをやや落として1拍1拍のインパクトとヴォーカルを前面に出すことで、フィッシュマンズ流クールファンクに微熱を注入するようなアレンジが斬新だった“クロノスタシス”だった。このアンセムで盛り上げた会場にバンドが続けて響かせたのが、“ドライブ”。シューゲイザーとポストロックの中間をいくようなこの曲は、『猫とアレルギー』の中では最もかつての彼女達のサウンドに近いものだと思う。しかし、この曲においても佐藤千亜妃(Vo/Gt)のヴォーカルが淀んだエモーションを纏うことはなかった。

ドロドロのブルーズを濾過した末の透き通った憂いや諦念が音になったかのような佐藤の声とギター。それこそが『eureka』までのきのこ帝国の武器であり、また鎧でもあった。その装備を1枚ずつ剥がしていき、生身を曝け出すまでのドキュメントが、『フェイクワールドワンダーランド』。そして、初めて生身の佐藤千亜妃が生の喜怒哀楽を音楽にした作品こそ、『猫とアレルギー』だった。その変化に、正直リリース当時は戸惑いも覚えたが、こうして4人が嬉しそうに、誇らしそうに『猫とアレルギー』の曲を鳴らしている様を観ると、彼女達が望み、目指したこの現在地に対して、否定的な感情など湧きようがなかった。それどころか、その眩しさに胸を撃ち抜かれるばかりであった。

ライヴのハイライトは、セット本編後半の“東京”~“桜が咲く前に”が担った。この2曲で歌われる、上京前後における変化に伴う出会いと喪失は、そのまま今のきのこ帝国が迎えている局面にも置き換えることができる。だからこそ、この2曲は今日並べて演奏される必然があったし、これまでより、これからよりも、重く強い意味を持って鳴らされたのである。特に、音源以上にヴィヴィッドに、直線的に感傷を突き刺してくる佐藤のヴォーカルの輝きは、鬼気迫るほどであった。

本編17曲、アンコール2曲を経て最後に演奏されたのは、なんと今日のために作ってきたという新曲“クライベイビー”。《10年後も100年後もずっとずっと君のそばに》と歌われるこの曲は、痛みや喪失さえ必要とせず、「愛」と真っ向から対峙したラブソング。音楽的に新しい試みがあるわけではないが、どこまでも晴れやかなメロディと声の美しさに全て持っていかれてしまった。そしてそれは、終演時の万雷の拍手と歓声を聞く限り、騒ぎ立てるより見守るように今日のライヴを鑑賞していたオーディエンスも同じだったようだ。(長瀬昇)


【セットリスト】
1.ひとひら
2.海と花束
3.怪獣の腕のなか
4.35℃
5.スカルプチャー
6.YOUTHFUL ANGER
7.Donut
8.クロノスタシス
9.ドライブ
10.夏の夜の街
11.パラノイドパレード
12.疾走
13.東京
14.桜が咲く前に
15.ハッカ
16.猫とアレルギー
17.名前を呼んで
(アンコール)
1.スピカ
2.ありふれた言葉
3.クライベイビー(新曲)

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