【コラム】岡村靖幸、50歳の青春。ニューアルバム『幸福』を聴いて

【コラム】岡村靖幸、50歳の青春。ニューアルバム『幸福』を聴いて

1月27日、ついにリリースされた岡村靖幸の『幸福』は、オリジナルアルバムとしては『Me-imi』以来、約11年半ぶりとなる作品だ。シングル表題曲4曲を含むという構成は、1989年の『靖幸』や1995年の『禁じられた生きがい』と同等で、瑞々しくカラフルに弾ける目下の最新シングル曲“ラブメッセージ”には、こうしてアルバムの1曲として触れてもやはりクラクラとさせられる。

その“ラブメッセージ”で参加したミュージシャンたちや、“愛はおしゃれじゃない”を共作した小出祐介(Base Ball Bear)、そして“ぶーしゃかLOOP”が新ヴァージョンとして子供たちの楽しげなヴォーカルが加えられている以外、自身が大半の演奏を手がけているという点も、久々のアルバムとはいえ従来の岡村ちゃんクオリティを伝えていて嬉しくなる。やはり、青い妄想に裏付けられた暴発寸前のエネルギーによって、ファンキーなグルーヴと強烈なパンチラインを掴み取ってくる岡村ちゃんは最高だ。

しかし、近作シングル曲から受け止められるヴィヴィッドなエネルギーは、今の彼のすべてを伝えていただろうか。決してそうではなかったということを、ニューアルバム『幸福』は教えてくれる。まずは、雷雨の音に始まって憂いたメロディとサウンドで届けられる、80年代ブラックコンテンポラリー風の“できるだけ純情でいたい”。アコースティックギターの間奏も饒舌なこの曲で、彼は《どんな時代でも 世界は恐れてる 不条理を/負けてるが めげなくデートしたい/もうメッチャむこうみず》と歌っている。

“新時代思想”のメッセージと楽曲の力強さががっちりと手を取り合うさまはさすがだが、さらにはオーガニックなブルースファンクで届けられる“揺れるお年頃”である。《かっこつかないぜ こんな時代に傍観者/世知辛く黄昏れず 優しくしようぜ青年/必死なっても性懲りもなく いかした感じで/気分しだいでなんだって 出来るもんでしょう》。あたかも『幸福』というテーマの前提であるかのように、こうした楽曲群がアルバムの前半に配置されているのである。

かつて、性衝動と背中合わせの恋や若い妄想が日々を突き動かすことを確信していた岡村ちゃんは、そのことを歌っていた。しかし、いかに超人的なヴァイタリティと才能の持ち主であっても、年齢を重ねることと無縁ではいられない。だから彼は、恋や妄想のエネルギーを今の視線で、以前とは異なる角度で確認する手続きを踏んでいる。岡村汁は新たなフレイバーが加味され濃厚になり、場合によっては岡村二番ダシを用いることによって、味わいは深いのに以前よりも楽曲の口当たりが軽くポップになっていたりもする。言うまでもないが、「口当たりの良い岡村汁」ほどヤバいものはないのである。

そんなふうに気づかされてからの“愛はおしゃれじゃない”や“ビバナミダ”といったメッセージは、シングル曲として触れていたとき以上に感動的だ。岡村靖幸50歳の思想がグルーヴする『幸福』は、培われた経験も織り込んで、これからの日々をどうにかときめきに満ちたものにしようとあがき、汗にまみれて鳴り響いている。(小池宏和)
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