【コラム】「日本語を聴かせる」ウルフルズ、その才能は幼少期から培われていた!?――NHK『The Covers』を見て

【コラム】「日本語を聴かせる」ウルフルズ、その才能は幼少期から培われていた!?――NHK『The Covers』を見て

NHK BSプレミアムで放送中の音楽番組『The Covers』。様々なアーティストがゲストとして訪れ、影響を受けた曲や思い入れの強い曲をカヴァーしながら、MCのリリー・フランキーと夏菜を相手にトークを繰り広げる。ゲストの人選や、セレクトされるカヴァー曲の妙もあり、気づけば、放送50回以上を数える人気番組となった。2015年9月28日に放送された第52回目のゲストはウルフルズ。彼らは約1年半ぶり、2回目の出演となる。

先日、13枚目となるアルバム『ボンツビワイワイ』を発売したばかりのウルフルズ。今回の放送では、カヴァー曲2曲の演奏に加え、このアルバムから“ロッキン50肩ブギウギックリ腰”を披露。合間のトークも含め、改めてウルフルズの、トータス松本の奥深さを垣間みることができた。

カヴァー曲の1曲目に選んだのは、宇崎竜童率いるダウン・タウン・ブギウギ・バンドの1974年の名曲“スモーキン・ブギ”。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドといえば、揃いのツナギ、そして軽快なブギ。今回、ウルフルズは彼らへのリスペクトも込め、全員白いツナギを用意してルックスまでもカヴァー。当時、日本中の不良が真似をしたと言われる、「ツナギの胸のところにマジックで大きく名前を書く」というところまで引用する徹底ぶりだ。ウルフルケイスケの胸には「圭」、ジョンBは「B」、サンコンJr.は「サ」、そしてトータスの胸のところには「亀」と大きく書かれている(笑)。トータスは宇崎竜童を思わせるサングラスも着用し、どことなくリーゼントを思わせるヘアスタイリングも。

この曲を選んだのはウルフルケイスケだが、その理由は「松本くんが生まれて初めて買ったレコードだって聞いていたから」。ということで、トータスがこの曲の思い出を語る。「小2のときに、歌詞の意味は全然わからないけど面白いと思った。歌詞の中にある《クソして一服》とか、そういう部分に小学生は食いつくから」と笑っていたが、幼少期から日本語の持つ語感の面白さを感じ取っていたことを窺わせる選曲だなと思った。実際この曲は、不良少年がタバコを吸う、ただそれだけの歌詞なのだが、言葉の運びがブギのリズムに乗って、実に気持ちのよいグルーヴを生むのだ。そういう意味で、リリー・フランキーが「(この選曲は)意外じゃない感じ。ウルフルズ的」と言っていたのも頷ける。原曲を知らない人は、ウルフルズの新曲と言われても疑わないくらいにハマっていた。見事。

2曲目に紹介したのは、茶木みやこ“まぼろしの人”(1977年)。これは先ほどの曲とは対照的に影のある昭和歌謡ナンバーだ。当時テレビで人気だった、ドラマ『横溝正史シリーズI』の主題歌として流れていた。こちらを選んだのはトータス松本。リリー・フランキーが「これは曲全体にスケキヨ(『犬神家の一族』の中で、白いラバーマスクを被っている不気味な登場人物)感が漂っている。ウルフルズっぽくない曲」と意外な顔をすると、それを受けて、トータスは「僕の中にある、もうひとつの僕なんやと思う」と言ったのが興味深かった。どのようにアレンジして演奏するのかと問われると「今回は、ドソウル。僕の中では、(この曲は)ソウルミュージックに着地できそうだと思って」と答える。確かに日本の70年代歌謡には、ソウルミュージックのフレイヴァーが随所に埋め込まれている曲が多いが、果たしてこのほの暗いメランコリックな曲を、ウルフルズが演奏するとどうなるのか。

ミドルテンポのどこか淡々としたこの楽曲にソウルフィーリングを見出し、日本語をしっかり聴かせながら歌い上げる。相当な自信と技量がなければトライできないカヴァーであろう。それを見事に、トータス松本流の、ウルフルズ流の解釈を施しながら、彼が愛して止まないソウルミュージックの、また違った魅力を表現してみせてくれた。演奏後にトータスは、「僕の中ではもう、アル・グリーン。アル・グリーンになったつもりで歌いました」と、とても嬉しそうな表情を見せていたのが印象的だ。

最後に演奏した“ロッキン50肩ブギウギックリ腰”。貧血、通風、ヘルニア……やたらと健康不安の言葉が並ぶコミカルな歌詞が、よくもまあこんなにファンキーにグルーヴィーに響くものだと改めて感服してしまう。日本語をソウルフルに聴かせるその類稀なる才能は、すでに幼い頃の音楽嗜好に表れていたのだなあと、今回の放送を見て納得してしまった。(杉浦美恵)
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