ブライアン・イーノ、現代のアートやカルチャーはその意味が取り違えられていると語る

ブライアン・イーノ、現代のアートやカルチャーはその意味が取り違えられていると語る

ブライアン・イーノはロンドンで行った講演で、芸術や文化についての一般的な認識を改める必要があると説き、さまざまなアートは人々の生活の中心にあるべきものだが、決して役に立つものではないということもわかっておくべきだと語っている。

ブライアンはBBCが毎年際立ったミュージシャンを招聘して講演を行うジョン・ピール・レクチャーの今年の講師となったが、その講演のなかで昨今の変化の激しい社会では、ややもすると芸術や文化というものが経済活動に繋がる行為のように勘違いされてしまうところがあるのではないか、と問題提起している。

そもそも芸術や文化というのは、個人が「かなり極端でどちらかというと危険な感情を体験するための安全な場所」を提供するものであり、芸術や文化がこれまで受け入れられてきたのはそうした精神状態をすぐにオフにできるからで、さまざまなアートはこういう形で人々にとっての刺激になってきたのだとブライアンは説明する。

芸術や文化が、こうした意味でとても重要な働きをしてきた一方で、「アートとは別にやらなくてもいいことのすべてを意味している」とブライアン・イーノは述べ、生活していく上では二次的なものに過ぎないと説明しているが、こうしたアートの基本的な性格が最近ではどうも取り違えられやすくなっていると指摘している。

その原因として、現代社会で人々が経験している変化があまりにも激しいものになっているからだ、とブライアンは説明する。現代における1ヶ月の変化は14世紀におけるまるまる100年に等しいとたとえて、そんな社会で生きていく上で人間は自分と周りが「しっかりシンクロして、首尾一貫していることを確認しなければならない」し、「カルチャーがぼくたちにもたらしてくれているのはそういうことなのだと思う」としている。

近年、芸術や文化が過剰に評価されていることは、イギリスの現教育相ニッキー・モーガンの発言にも表れている、とブライアンは指摘する。モーガン教育相は「STEM科目(※自然科学、技術科学、機械工学、数学のこと)と較べていい職に就けないから、芸術や人文科学を専攻しないのは賢明だ」と語ったが、彼がSTEM科目と芸術や文化を同一線上で語っていたことにこそ、芸術や文化の本来の役割や目的を見誤っている発想が見受けられる、と述べている。

「こうしたもの(自然科学、技術科学、機械工学、数学など)が重要だというのが一般的な概念なのです。経済を動かしているのはそういうもので、そういうものがあるからイギリスは大国となってきたのであって、それがわたしたちのGNPやらあなたたちが持っているものやらを大きくしてきたのです」とブライアンは説明する。

「その一方でアートというのは、あればとてもいいものなのですが、言ってみれば贅沢品や趣向品みたいなもので、しっかりした仕事場でみっちり働いたあとで、帰宅して息抜きにやるようなことなのです。ですから、芸術や文化をまるで経済行為に繋がるものとして考えるのは新しい発想だということです」

近年のこうした傾向は、時代のあまりに激しい変化に適応するために人々がもっぱら文化を参考にしているからだ、という。

「ぼくたちは文化についての語り方を一度考え直してみる必要があると思います。文化がぼくたちになにをもたらしていて、実際にはどういうものなのか、もう一度考え直してみる必要があるのです。ぼくたちの芸術と文化についての考え方は完全に混乱してしまっています。そしてそれはとても興味深い現象だなとぼくは思っています」
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