6万9000人と4人による土砂降りの合唱――Mr.Children、「伝説」の日スタ2日目公演レポ

6万9000人と4人による土砂降りの合唱――Mr.Children、「伝説」の日スタ2日目公演レポ - pic by 石渡憲一pic by 石渡憲一

現在、全国スタジアム&5大ドームツアー『Mr.Children Stadium Tour 2015 未完』を敢行中のMr.Children。RO69では、日産スタジアム公演の2日目・2015年9月6日の模様をライヴ写真とレポートでお届けする。

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破格のロックアクトだった。今を生きる僕らの葛藤や苦悩や矛盾や弱さを、まるっきり美化もデフォルメもなくスタジアム規模のスケールへと昇華しながら、ハイクオリティな映像が渾然一体となったトータルアートとして、どこまでもカラフルかつコンセプチュアルに提示してみせた、圧巻のステージ。「お客さんがひとりもいないリハーサルスタジオで、『あの曲で、あんな照明で、あんな演出したら、ワクワクドキドキしてくれるかな?』……そんな妄想を膨らまして、今日このステージに立ってます。もう、想像を遥かに越えて、いい感じで、ハッピーです!」。降りしきる雨の中で、桜井和寿(Vo・G)は満面の笑みとともに呼びかけていた。日本を代表するポップ・モンスター・バンドの真価が完全解放された、感動的な一夜だった。

全国のスタジアム&ドーム10会場・16公演にわたって開催されている、「Mr.Children Stadium Tour 2015 未完」。最新アルバム『REFLECTION』のリリース日=6月4日まで行われていたアリーナツアー「TOUR 2015 REFLECTION」に計25万人、今回のスタジアム&ドームツアーに計75万人、合わせて実に100万人を動員するという巨大ツアープロジェクトもいよいよ終盤に差し掛かった9月6日、神奈川・日産スタジアム2DAYSの2日目。開演から降り続いた雨が終演に向けて止むどころか強さを増すという、あいにくの天候の中での開催となったが、ステージ中央から伸びた花道や巨大なステージ左右の両翼――つまり屋根のないスペースに、桜井は全身ずぶ濡れになりながら何度も足を運んで満場のシンガロングやクラップを巻き起こし、「これはこれで気持ちいいだろ? 一緒に濡れるぞ!……いやらしい意味に聞こえないように気をつけながら言ったけど(笑)、いやらしい意味でもいいや。一緒に濡れるぞおおおっ!!」と声の限りに叫び上げ、止まない雨さえ今この瞬間の舞台装置のひとつに変えてみせていた。

何より、自身のキャリアのすべてを壮大な「今」のアンセムとして7万人の前に解き放つ、桜井和寿/田原健一(G)/中川敬輔(B)/鈴木英哉(Dr・Cho)とSUNNY(サポート:Key・Cho)の演奏が最高だった。ツアーはまだ宮城&大阪公演を残しているため、セットリストの掲載や演出についての記述はここでは割愛させていただくが、シングル曲“足音 ~Be Strong”はもちろん、ツアータイトルにも掲げられている“未完”や“fantasy”“Starting Over”など『REFLECTION』の収録曲をライヴの主軸に据えながら、“終わりなき旅”“innocent world”といった国民的ヒットナンバーを3時間超のライヴの中に盛り込んだ渾身のアクト。「闘ってるみんなに、この曲を贈ります!」(桜井)というメッセージとともに颯爽と響いた“FIGHT CLUB”、赤黒く渦巻く“REM”のエッジィなサウンドと桜井のハイトーン・シャウト、生命の意味を慈しむような“進化論”の珠玉の歌など、その表現のキャパシティを全開放してみせた。

そして――それは他でもない、自らの持てる限りの才気とポテンシャルを全23曲にすべて注ぎ込んだ『REFLECTION』というアルバムの思想を、自身の全キャリアの楽曲で再構築して提示するという、至上のトライアルでもあった。日本の音楽シーンのど真ん中で音楽を発信し続け、計り知れない規模の共感と支持を集めてきたMr.Childrenが、自分の持てるありったけの表現の可能性を差し出し、観る者ひとりひとり形や色の違う感情と真っ向から響き合い、そのすべてをスタジアムクラスの歓喜へと導いてみせた、ということだ。しかも、彼らはそれを「特別な偉業」としてではなく、この国を代表するロックバンドの「日常」として引き受けている――ということが、「JEN(鈴木)はたぶんね、濡れたいんだと思うよ。早く出ておいでよ!」と桜井が鈴木に呼びかけるなど、終始伸びやかな4人の佇まいからもリアルに伝わってきた。

ライヴ中にはメンバー全員が雨の中へ繰り出して演奏する場面も観られたこの日のアクト。濡れた顔を拭いもせずに、全身全霊傾けて熱唱する桜井の姿がそのまま、困難に曝されながら日常を生きる僕らを鼓舞するひたむきなエールのように思えて、幾度も胸が熱くなった。《変わらないことがあるとすれば/皆 変わってくってことじゃないかな?/描かずに消した 読まずに伏せた/夢をもう一度広げよう》という“進化論”のフレーズと、“未完”に晴れやかに刻まれた《未来へ続く扉/相変わらず僕はノックし続ける》という決意表明が、ライヴが終わった後も濃密な余韻とともに深く胸に残ったままだ。日本にはMr.Childrenがいる、僕らはMr.Childrenがいる時代を生きている――という実感を確かに与えてくれる、歴史的な名演だった。(高橋智樹)

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※なお、セットリストも含めた同公演の詳細なライヴレポートを、9月30日発売の次号『ROCKIN'ON JAPAN』(2015年11月号)に掲載予定です。ご期待ください。

※記事初出時、楽曲名に誤りがありました。訂正してお詫び致します。
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