【コラム】今、振り返るナンバーガールの“狂気”――「シブヤ炎上轟音上映会」によせて

【コラム】今、振り返るナンバーガールの“狂気”――「シブヤ炎上轟音上映会」によせて

「1995年夏から、我々が自力を信じてやってきた、このナンバーガールの歴史を、今ここに終了する」
 2002年11月30日・札幌PENNY LANE24。向井秀徳がギャウンと6弦をダウンチューニングして“I don't know”へ流れ込んでから、上記の向井の「終結宣言」を経て“OMOIDE IN MY HEAD”、そしてラストの“IGGY POP FAN CLUB”まで2時間弱、アンコールなし21曲。11月末の札幌とは到底思えない紅蓮の熱気。そして、フロアにあふれ返るセンチメンタルな感傷に抗うように、一音一音を決然と叩き付けていた4人の姿……あの現場での体験は、解散してからもうすぐ13年が経とうとする今でもリアルに脳内に蘇ってくるし、ナンバーガールをリアルタイムで体験した、ないしは追体験でその魅力に囚われた人なら、この感覚を少なからず共有していただけることと思う――「過去」にも「伝説」にもなりようのない、永遠に「今」を刻み突き動かすナンバーガールという名の衝動と戦慄を。

昨年5月〜6月のアルバム3作リマスター再発から続く一連の「ナンバーガール15周年企画」の締めを飾る「『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』など過去DVD作品の一挙Blu-ray化」および「『記録映像 LIVE 1999-2002』発売」を記念して行われる、ナンバーガールのライヴ映像の上映会「ナンバーガール15周年企画 記録映像 シブヤ炎上轟音上映会~AKASAKA/SAPPORO~」。2002年7月25日に赤坂BLITZで行われた「NUM-HEAVYMETALLIC TOUR」ファイナル(『記録映像〜』収録)と、正真正銘ナンバーガールのラストスタンドとなった「NUM無常の旅」ツアー最終公演=2002年11月30日・札幌PENNY LANE24でのアクト(『サッポロ〜』収録)を、実際のライヴ同様のオールスタンディング形式で上映&体感する、というものだ。当初は2015年8月27日に東京・渋谷WWWで一夜限りの上映の予定だったが、参加希望者の応募殺到を受けて、新たに2015年9月7日・渋谷WWWでの追加上映&2015年9月8日・大阪umeda AKASOにて同イベントの大阪編「オオサカ炎上轟音上映会」の開催まで決定するに至っている。

無愛想にしてユーモア満載の詞世界。豪快でありながらナイーヴに張りつめた、向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎、アヒト・イナザワのアンサンブル。錯乱の彼方から世界とロックを射抜く鋭利な攻撃性……それまでのギターロックとはあからさまに異質な音と歌を響かせ、時代性やスター性には一瞥もくれることなく、あまりにも鮮烈に時代を突き刺していったナンバーガール。“OMOIDE IN MY HEAD”“透明少女”“TATTOOあり”“NUM-AMI-DABUTZ”……ざっくばらんにダイナマイトをぶちまけるような開放的な狂気に満ちたサウンドはしかし、その配置が1mmでも狂えば自身の望む100%の爆発力を発揮できない、という緊迫感と常に隣り合わせのものでもあった。だからこそ、彼らはアルバム1枚ごとに極限進化を繰り返し、ついにはオルタナもパンクもロックンロールもダブも踏み越えた凄絶な音塊へと到達した。が、取りも直さずその緊迫感が、バンド自身を重力崩壊へと導いてしまった。言い換えれば、ナンバーガールはナンバーガールであるがゆえに進化し、ナンバーガールであるがゆえに終わりを迎えたのである。

「夜中に寝ても、明け方に目を覚まして、近くの自動販売機でビール買って飲みながら、三味線弾いたりしてるわけよ。プリンスを1枚目から最後まで聴き続けたり(笑)。そういうテンションでおったわけですよね。キワキワだったんですよ。今思い返すと……上京してからそんな何年も経ってないわけよ。その、キープしたかったのかな? キワキワを。途切れさせないようにしてたのかもしれないですね」
 「“NUM-AMI-DABUTZ”っていうのも……なんかイライラしてる曲だねえ、だいぶ。そうやってなんかこう、先に先に鋭くなっていくと、なくなるから。そうしたら、もうおしまいなわけさ。でも、そん時はそんなこと考えてないですねえ。ずっとビリビリしてるけど……イライラしてたなあ。怒りとかじゃないんだよなあ、こりゃ」
(『NUM-HEAVYMETALLIC 15th Anniversary Edition』ライナーノーツより)

これは前述のリマスター盤のライナーノーツ作成のため向井にインタヴューした際、バンド後期の切迫感について向井自身が赤裸々に語った言葉だ。己を顧みることなく、常に己を磨き続け、熾烈なロックを轟かせてきたナンバーガール。そのイビツで軋轢まみれの音像と向井の絶唱はそのまま、制御も言語化も困難な僕らの衝動そのものとして響いていた。ナンバーガールはメンバー4人の音楽であったと同時に、紛れもなく僕ら自身の音楽でもあった――ということだ。だからこそ、彼らが鳴らした音楽は、時間に埋もれることも色褪せることもありようがないのだ。

解散など誰もが夢にも思っていなかった2002年7月、リニューアル前・約2000人規模の赤坂BLITZの大空間が歓喜に沸いた「NUM-HEAVYMETALLIC TOUR」ファイナル。約500人キャパを明らかにオーバーした超満員のPENNY LANE24に狂おしき激情が渦巻いた「NUM無常の旅」札幌ラストライヴ……この夏、ナンバーガールの最後の雄姿が再び「今」を震わせる時間は、もうすぐそこだ。(高橋智樹)
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