【コラム】Ken Yokoyamaはなぜ今『Mステ』に出演したのか? パンクスの最先端を考える

【コラム】Ken Yokoyamaはなぜ今『Mステ』に出演したのか? パンクスの最先端を考える

「若い子にバンドやってもらいたいなと思って。僕なんかがテレビでパフォーマンスしたら、『あ、ギター弾くのってカッコいいな』って思ってもらえたりとか、そういうことはあるのかなと」――。「どうして地上波に出ようと思ったんですか?」という司会:タモリの問いに対して、横山健は極力軽やかな言葉で語っていたが、CMが明けて演奏に臨む瞬間の表情も、バンド4人全員でキメの爆音を叩き付けた直後の表情も、終わらない闘いのその先を見据えるパンクロックファイターそのものだった。放送が終わった後も、思わず何度も録画を繰り返し観た。身体が震えた。

オンエア前後にはTwitterのトレンドにも名前が挙がるほどの注目と期待を集めた、7月10日放送『ミュージックステーション』でのKen Yokoyama地上波初パフォーマンス。セミアコのギターを激しくかき鳴らし、マイクに喰らいつくように“I Won’t Turn Off My Radio”を絶唱する横山健の姿は、それ自体が壮絶な迫力に満ちたものだったし、「古い存在」のメタファーとしてのラジオに自らを重ねた《オレはラジオを切らないよ》というシンプルなフレーズに不屈の闘争心をジャックインしてみせていたのも最高だった。

ただ、僕が観た限り、この日の『Mステ』でのパフォーマンスは、「ギター弾くのってカッコいいなと思ってもらいたい」くらいでは説明のつかない、もっと切実な緊張感を孕んだものだった。この日のアクトにただならぬ切迫感を感じたのは、決して僕だけではないと思う。

 MTVに殴られ
 インターネットに背中を刺され
 お前はすっかり時代遅れのアイコン
 それでもオレにはまだ聞こえる
 お前のかすかな電波
 (“I Won’t Turn Off My Radio”訳詞)

番組中、タモリに「一時期に比べてバンドは減ってる?」と訊かれた彼は、「わかんないですけど……ダンスとか歌とかに向かう子が多い気はしますね。今日は改めて、『(バンドは)カッコいいよ』っていうところを観てもらいたいですね」とコメントしていた。その発言と併せて、この日のパフォーマンスと上記の歌詞を振り返ると、彼がラジオに重ねて「時代遅れのアイコン」と示唆し《オレはラジオを切らないよ》(=闘いをやめないよ)というメッセージを寄せている対象は、70年代から続くパンクロックというコンセプトそのもの、さらに言えばその前から続くバンドというフォーマットそのものであるようにすら思えてくる。

7月8日にリリースされたばかりのシングル『I Won’t Turn Off My Radio』を巡る『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2015年8月号)掲載のインタヴューで、彼は以下のように発言している。

「世の中にはこういう意見もあるよっていうのを、あまり歪めることなく出してもいいんじゃないかと思って。(中略)おじさんの説教とかそういうのって、本当はパンクとしては御法度じゃないですか。でもね、俺それすらもどうでもよくなっちゃったんです。昔のパンクスが言ったことじゃないですか。今のパンクスの最先端、俺っすよ。それ俺が言うんだったらありでしょぐらいの気合いはありますね」

東日本大震災の翌年=2012年にリリースされた現時点での最新アルバム『Best Wishes』では、「困難も不安も引き受けるパンクロック」を真っ向勝負で体現してみせた横山健。彼が『Best Wishes』と『I Won’t Turn Off My Radio』で、70年代から続く「パンクロック=大人への反抗」というステレオタイプなイメージを刷新してきたのは、単に「彼自身が大人世代になったから」という理由だけではないだろう。「反抗」では辿り着けないパンクの強靭な訴求力を、日本のパンクシーンを牽引してきた男は改めて確信するに至った――そういうことだと思う。

 暗闇を突き破って
 誰かの想いを 光を オレに届けてくれ
 オレはラジオを切らないよ
 (“I Won’t Turn Off My Radio”訳詞)

地上波テレビ以外の場所でパンクロックの理想郷を作ることは、他のバンドにもできるかもしれない。でも、ゴールデンタイムのテレビ番組越しに、多種多様な音楽がひしめく中で圧巻のパンクを鳴らし、パンクシーンの「今」の充実ぶりを伝える機会を得るミュージシャンは極めて稀だ。そんな現状までも引き受けた上で、彼は明確な使命感をもってカメラの前に立っていた。そして演奏後、番組のエンディングではひと言「興奮しました!」と満足げな表情で話していた。それが何より嬉しかった。(高橋智樹)
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