tricot @ 赤坂BLITZ

「帰ってきました、いろいろ! 楽しんでますか?」という中嶋イッキュウ(Vo・G)のコールに、序盤からむせ返るような狂騒感に満ちた赤坂BLITZがうおおおっという歓声とともにさらに熱を帯びていく。以前ここでもレポートした12月8日の渋谷CLUB QUATTRO公演でも開催がアナウンスされていた、3月20日・東京:赤坂BLITZ&3月27日・大阪:梅田AKASOでのtricotワンマンライブ『帰ってきたトリコさん』の初日。中嶋が「いろいろ」と言ったのは、今回のワンマン自体が3年前に会場限定盤としてリリースされたミニアルバム『爆裂トリコさん』のニューミックス&リマスター再発記念ライブだからであり、3月8日から回っていた初のアジア・ツアーを終えた直後の「日本凱旋ライブ」だったからでもある。それだけに、この日は問答無用の祝祭感で場内が塗り潰される晴れ舞台ーーとなるはずだったし、渋谷CLUB QUATTROでこの東阪ワンマンが発表された時には、熱気だけではなく不思議な切迫感がフロアに満ちているこの独特の空気感を誰も予想していなかったはずだ。そう、この3月2日にkomaki♂(Dr)がバンドからの脱退を発表しており、この日の赤坂BLITZ公演は結果的に、現編成での東京ラスト・ライブとなってしまったのである。

この後に大阪公演が控えているので、セットリストの掲載は割愛させていただき、ライブの内容については一部曲目に触れるのみとさせていただくが、『爆裂トリコさん』からの楽曲はもちろん、最新フルアルバム『T H E』の楽曲をはじめ、tricotの「今」をがっつり凝縮した最高のアクトだった。何より、5拍子や7拍子を息をするように自然に取り込んだ楽曲世界を、中嶋/キダ・モティフォ(G・Cho)/ヒロミ・ヒロヒロ(B・Cho)/komaki♂の激烈バンド・アンサンブルによってどこまでもエクストリームに、ブルータルに、かつポップに昇華してみせるtricotの音楽世界が、赤坂BLITZという空間を得て驚愕のスケール感をもって響き渡っていたのが嬉しかった。そして中嶋。ひときわエモーショナルな新曲を全身振り絞りながら絶唱し、“爆裂パニエさん”ではフロア最前の柵に乗り移り、仁王立ち状態でギターを高々と掲げてオーディエンスをOi コールと熱狂の彼方へ誘ったり、時にハンドマイクで高らかに叫び上げては熱気あふれるフロアの頭上でクラウド・サーフをキメてみせたり……といった具合に、見事なまでの「全身煽情家」ないしは「狂騒のジャンヌ・ダルク」ぶりを発揮してしまう。

アジア・ツアーの感想を「台湾以外は初めて行くところで……異国やなあと思いました(笑)。行くとこどこの国の人たちも『tricot~!』『おちゃんせんすぅす!』言ってて」(キダ) 「『おちゃんせんすぅす』って何や?って訊かれたけどな。知らんもんな、うちらも(笑)」(中嶋)とのんびり語り合った後、「どこの国の人も楽しんでくれてました。歌ってましたよ、日本語で」という中嶋の言葉と「日本はそんなもんかお前ら!」のキダの絶叫から流れ込んだ、コケティッシュでミステリアスなカオス・ナンバー“おちゃんせんすぅす”。キダがヘッドセット型のライブカメラを装着して、「去年の『列伝』で初めてBLITZに出て、そこでMVを撮ったんですよ。今日はそれをライブカメラでやりたいと思います!」(キダ)と激揺れ映像をスクリーンに映し出しながら炸裂させた“99.974℃”の爆発力とドラマ性は、『列伝』から約1年の間にtricot が見せた爆裂進化ぶりをリアルに物語っていたし、“スーパーサマー”で巻き起こった割れんばかりのコール&レスポンスと一大シンガロングは、今のバンドへの熱い信頼と期待感がそのまま鳴り渡っているように感じられて、思わず胸が熱くなった。

「去年の『列伝』(『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2013』。w/WHITE ASH, indigo la End, グッドモーニングアメリカ)で初めて出たBLITZが、自分らだけでこんなに埋まるとは……」と感慨を語るキダの一方で、「今日ちょっとおかしいでしょ、私? 緊張して、トイレ行っても屁しか出えへんかった。びっくりした……ああ、ピザ食い過ぎか! ピザ食べ過ぎで、顔面に53個ブツブツできましたからね(笑)、フィリピンで」と中嶋がフロアを沸かせるなど、努めてあっけらかんとした高揚感の中でライブを進めていた4人。そんな中、「東京で、この4人でライブするのは、今日が最後になります!」という中嶋の言葉に、フロアの空気がさっと変わる。そんな雰囲気をかき混ぜるように、「……実は、4月から48人になります! 2期生が入る。女だけになるから、ちょっと1人辞めてもらうことになったんやけど」と軽くボケつつ、tricot唯一の男性メンバーにして随一のいじられキャラ=komaki♂に中嶋が「卒業の言葉」のMCを振っていく。沸き上がる大歓声に「泣かへんぞ!」とkomaki♂。

「かれこれ3年とちょっとtricotに関わって、全国飛び回りーの、海外行きーの、『帰ってきたトリコさん』っていう名前つけておきながらお前は行くんかい!っていう流れになってしまいましたけども……」と語り始めるkomaki♂。「よくある『音楽性の違い』とかいうやつなんですよ。いちばん違ったのは『食の方向性』なんですけど。こいつ(中嶋)がもうピザばっかり食べるし。せっかくアジア行ってんのにイタリアン入る?みたいな(笑)。tricotも4月からもライブ決まってるし、俺もこれからも音楽活動を続けていこうと思うので。tricotも、tricotの音楽も、僕の音楽も、止まることなく進化していきますので。応援よろしくお願いします!」……tricotの変幻自在なビートを支えてきた稀代のドラマーを讃える拍手が湧き起こり、それは熱烈な「komaki♂!」コールへと変わっていく。そんなkomaki♂の言葉さえも「脱退の理由は『面白さがなかった』っていうことで大丈夫ですかね? 『笑いの方向性』の違いで(笑)」と中嶋にイジられてしまうあたりも、この4人の東京ラスト・スタンドならではの名場面だ。

「komaki♂も音楽を続けるということなので。いつか……」という中嶋のMCに、観客から「対バン!」の声が上がる。「対バンな? ここぞという時にしなあかんな。お互いが有名になって、『実はtricotのドラム、komaki♂やってんで!』って言ったらみんなが『ぅえええええ!』ってなるぐらいの頃にね?」と中嶋が言えば、komaki♂が「じゃあ、BLITZでやろうか、それ」と答え、うおおおおっ!と熱い歓声が巻き起こり……すべての演奏が終わり、4人で深々と一礼する姿に、惜しみない拍手と歓声が会場中から降り注いでいた。5月25日からは「全国ほぼワンマンツアー」こと『どっこいしょ!男気ワンマンツアー(&二瓶どん)』もスタートするtricot。「まだ、もっと大きいところもやりたいですね、ワンマン。ぜひその時も来てください!」と中嶋は言っていた。新たなステージへ向かうtricotの「その先」をどこまでも見届けたい、と心から思わせてくれる、鮮烈で感動的なステージだった。そして、この4人でのワンマンライブはあと1本、3月27日・大阪:梅田AKASOを残すのみ!(高橋智樹)
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