フォール・アウト・ボーイ @ Zepp Tokyo

昨年4月には、活動再開後初のアルバム『セイヴ・ロックンロール – FOBのロックンロール宣言!』に向けての試聴会とプレミアム・ギグを恵比寿リキッドルームで行い、夏にはサマーソニックでより多くのファンに完全復活を印象づけたフォール・アウト・ボーイ。その2つのステージにおいては、復活劇と言うこともあってか過去の代表曲を数多くフィーチャーする内容になっていたけれども、今回の来日は晴れての新作ツアーである。2/5及び2/6のZepp Tokyo、追加公演として決定した2/8の新木場スタジオコースト、2/9の大阪・堂島リバーフォーラムと全公演が既にソールドアウトしていることからも、FOBに寄せられる熱狂的な支持の大きさが伺える。新作は見事にビルボード1位の栄光を摑み取り、彼らが救おうとするロックンロールとは何なのか、その姿勢とはどのようなものなのかが、生のステージで明らかになる。以下は、初日の模様をレポートする内容になっているので、今後の公演に参加予定の方は閲覧にご注意を。

セックス・ピストルズからア・トライブ・コールド・クエストまで、ジャンルをジャンルともしないFOBらしい選曲の客入れBGMが鳴り止むと、黒い目出し帽で顔面を覆い隠した4人の男が登場し、雄々しいロック・ナンバーのパフォーマンスを始める。いや、勇ましいビートを刻むドラマーのタトゥーは明らかにアンディ・ハーレーだし、その“The Phoenix”を伸びやかに力強く歌い上げるヴォーカリストの声はどう聴いてもパトリック・スタンプなのでバレバレなのだが、一瞬怯まされたのちに盛大に沸く、そんなオープニングだった。4人が素顔を晒し、ステージ上手からピート・ウェンツ(Ba.)が叫ぶように煽り立ててパンキッシュな爆走を始めるのは、改めて名乗りを上げるような“I Slept with Someone in Fall Out Boy and All I Got Was This Stupid Song Written About Me”だ。粋な掴みである。過去のシングル・ヒットにおけるオーディエンスのシンガロングは言わずもがな、“This Ain’t a Scene, It’s an Arms Race”の重厚なサウンドと切羽詰まったテンションで弾けるフックにもフロアが激しく波打ち、パトリックは「トーキョー、元気デスカ! 一緒ニ歌ッテクダサイ!」と更に煽ってみせる。

ところが、過去の楽曲だけではなくて、新作収録のシングル曲“Alone Together”に至っても、客席からの歌声は止まらない。もう、オーディエンスの声まで含めて楽曲が完成しているような、そういう手応えがあった。音楽をインタラクティヴに楽しむための楽曲デザインが秀逸だ。ジョー・トローマンがギター・ヒーローっぷりを見せつける独壇場の一幕を挟み、今度はダイナミックに広がる“Thriller”や迫力満点のダンサブルなロックでドン詰まり感を描き出す“Death Valley”といった、多彩な曲調でFOBの表現レンジの広さを証明していった。ピートが「全力で盛り上がれよ……聴けば分かるからさ」と告げて鳴り響いたのは、出た、マイケル・ジャクソン“Beat It”のカヴァーだ。パトリックによる高速リフと、ジョーの吹き荒れるリード・ギターの交錯がかっこいい。「次の曲は、頭から歌ってくれよ。なあ、日本語習ってるんだろ、言ってやれよ(ピート)」「いや、俺の日本語なんてそう大したもんじゃ……コノ靴ハ、黒イデス! ハハハ、簡単だからさ、歌ってみてよ(パトリック)」と2人が告げて披露されるのは、“Young Volcanoes”だ。伸びやかなコーラスを巻いて、賑々しく、FOBのソングライティングが分かち合われてゆく。

メンバーが一旦捌けて、暗転した場内に響き渡るのは、インタビュー・テープだろうか、若者にとってのロックンロールとは、というテーマでイギー・ポップが熱弁を振るう声が届けられる。そして、パトリック、ジョー、ピートの3人が椅子に腰掛け、ドラムレスの編成でじっくりと披露されるのは“I’m Like a Lawyer with the Way I’m Always Trying to Get You Off (Me & You)”や“Grand Theft Autumn/Where Is Your Boy”といった楽曲たちだ。メロディが際立つパフォーマンスであるのと同時に、オーディエンスのハンド・クラップにも後押しされて、シンプルだがとても豊かなコミュニケーションの時間が育まれている。パフォーマンスを一方通行にしないための工夫が、随所に凝らされたステージだ。再びアンディが姿を見せて、有り余ったエネルギーを迸らせるように暴れ太鼓の爆音を轟かせると、そのまま“Dance, Dance”から終盤戦に突入。“Just One Yesterday”では場内の照明を落としてオーディエンスの携帯の液晶を一面に煌めかせ、ピートは活動休止明けの新作ツアーに寄せる喜びを改めて伝えながら、「あらゆる差異を越えてゆくための曲だよ」と“My Songs Know What You Did in the Dark (Light Em Up)”のフィナーレに向かってゆくのだった。

アンコールの催促とばかりに、その“〜(Light Em Up)”のコーラスがフロアから再燃し、自然に広がってゆく光景は美しかった。あれこそ、今のFOBが求める光景だったろう。音源ではエルトン・ジョンとのコラボ曲だった新作タイトル・チューン“Save Rock and Roll”を、パトリックは鍵盤を奏でながら歌う。そしてエモい記憶をスパークさせる“Thnks fr th Mmrs”から、鉄板の“Saturday”で完璧な幕切れである。派手な演出は皆無。しかし音楽と、オーディエンスが持っているものだけで壮大なスペクタクルを生み出してしまうライヴだった。何が凄いって、目出し帽もシンガロングも、ハンド・クラップに支えられたアコースティック・セットも、液晶の美しい煌めきも、金のない若いバンドがやろうと思えば明日から出来ることなのである。ジャンルがどうこうではない。FOBが救おうとしたロックンロールとは、そんなアイデアひとつがもたらす興奮の坩堝なのだ。残すところ3本の来日公演、しかと見届け、分かち合っていただきたい。(小池宏和)

セットリスト
01 The Phoenix
02 I Slept with Someone in Fall Out Boy and All I Got Was This Stupid Song Written About Me
03 A Little Less Sixteen Candles, A Little More “Touch Me”
04 This Ain’t a Scene, It’s an Arms Race
05 Alone Together
06 solo - Joe
07 Thriller
08 Death Valley
09 Sugar, We’re Goin’ Down
10 Beat It
11 Young Volcanoes
12 I’m Like a Lawyer with the Way I’m Always Trying to Get You Off (Me & You) (Acoustic)
13 Grand Theft Autumn/Where Is Your Boy (Acoustic)
14 Dance, Dance
15 Just One Yesterday
16 I Don’t Care
17 My Songs Know What You Did in the Dark (Light Em Up)
encore
01 Save Rock and Roll
02 Thnks fr th Mmrs
03 Saturday
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