奥田民生 @ 中野サンプラザ

「どうもどうも、ようこそお越しいただきました。昨日と今日とで中野サンプラザでやらしていただいております。非常に、なんか、いい感じで……」と、いつものゆったりした語り口で満場のオーディエンスに話しかけつつ、プシッと缶ビールを開けてグビリ。そんなリラックス・モードの中で、斎藤有太(Key)/小原礼(B)/湊雅史(Dr)という辣腕プレイヤーを擁したMTR&Yバンドとともにでっかく響かせる骨太なロック・サウンドが伸びやかに、あふれんばかりの滋味と多幸感ともに広がっていく……10月14日から13都市16公演にわたって開催されてきた奥田民生の全国ツアー『奥田民生 2013ツアー"SPICE BOYS"』のファイナルを飾る中野サンプラザ2Daysの2日目。「だいたいツアー最後だと、ウワーッて盛り上がると思ってんじゃないっすか? 実はそうでもないってところを……わりと普通だっていうところをお見せしますので(笑)。よろしくお願いします!」と民生が悪戯っぽく言っていたのはもちろん、このツアーを通して得た充実感あればこその民生一流のジョークであって、実際この日のアクトも、勢いやテンションではなく、他ならぬその音と歌の力だけで聴く者すべてを1歩1歩歓喜の頂上へと導いてみせるような、珠玉のロック・アクトだった。

この日は前日同様、所属事務所&レーベルの後輩にあたる住岡梨奈がオープニング・アクトとして登場。「住岡梨奈です。23歳でやっております!」「昨日が私の1stフルアルバム(『ツムギウタ』)の発売日となっておりまして。なんと奥田民生さんのアルバムと日にちがカブっているという……事件です!」と緊張気味に語りつつ、彼女自身が出演しているTV番組『テラスハウス』のOP曲=テイラー・スウィフト“We Are Never Ever Getting Back Together”のカバーをアコギ弾き語りで清冽に歌い上げたり、セカンド・シングル“ハレノヒ”を同曲のプロデューサーでもある斎藤有太とともに披露したり、ラストの“ナガレボシ”までたった3曲のアクトながら、その凛とした歌声と存在感をしっかりアピールしてみせた。

そして19:00、いよいよ民生と斎藤/小原/湊の4人が登場。まさにこのライブの前日に発売された「全編ひとり制作」のオリジナル・アルバム=『O.T. Come Home』の特設サイトのインタビューでも「別にこのアルバムを出すからやろう、っていうツアーじゃないのね、元々。このメンバーで作ったアルバムじゃないしさ」と民生自身も語っていた通り、この日のライブでも『O.T. Come Home』から披露されたのはPUFFY提供曲のセルフカバー“マイカントリーロード”、既発シングル曲“風は西から”“拳を天につき上げろ”、そしてCM曲としてOA中の“チューイチューイトレイン”の4曲のみ。MTR&Yを中心に作り上げた『Fantastic OT9』の“カイモクブギー”“ちばしって”“3人はもりあがる(JとGとA)”“いつもそう”“スルドクサイナラ”をはじめ、『股旅』の“ツアーメン”“あくまでドライブ”、『E』の“まんをじして”“御免ライダー”、『LION』の“青春”“スカイウォーカー”といった、20周年目前のソロキャリアを彩ってきた楽曲の数々が、MTR&Yの開放的にして揺るぎないアンサンブルによって時代性から解き放たれ、どこまでもパワフルな「今」のロックンロールとして中野サンプラザの隅々にまで響き渡っていく。

原曲のミドル・テンポよりもむしろBPMを落とすぐらいじっくりと鳴らしたタイム感の中に濃密な躍動感を宿らせてみせた“ツアーメン”“荒野を行く”。ドカドカと快楽中枢を刺激する“カイモクブギー”のシャッフル・ビートと、“スカイウォーカー”のメロウでドリーミンなサウンドとの鮮烈なコントラスト……あらゆる音楽的武装を取っ払ったノーガード状態で鳴っているバンドの音と民生の歌は、だからこそ生々しいくらいにリアルで、ロック・ミュージックの生命力そのもののような眩しさに満ちている。かと思うと、いざMCになると「(中野サンプラザは)その昔、ユニコーンというコミックバンドをやってた時に――今もやってるんですけど(笑) ――ちらっとやったことがあるんです。あと、ラウドネス。昔、ラウドネスを観に来て、1階のいちばん後ろで観てて、あまりの音のでかさに壁に張りついたっていう(笑)」と会場を沸かせたり、「今回は非常に短かったツアーで……もう終わっちゃったよ」(民生)、「やったことすら覚えてない。昨日やったことも忘れちゃうから(笑)」(小原)と平均年齢50.5歳の世代感を逆手に取った(?)トークを繰り広げたり、さっきの住岡梨奈の「23歳でやっております!」という挨拶がツボに入ったらしい民生が「小原礼! 62歳でやっております」と各メンバーの年齢を紹介したり……といったのんびりマイペースなトークを繰り広げていく。

auのCM曲としてオンエアされている“チューイチューイトレイン”の話題では「CMに出ていた女の子の可愛さに気を取られて、5秒くらい経ってから『あ、この曲聴いたことあるな』と思ったら自分の曲だった話」から「“チューイチューイトレイン”の曲タイトルをつけるにあたってEXILEに承諾を得た話」まで、曲に行くまでたっぷり10分近くゆったりしゃべっているのを観ているうちに、なんだか時間感覚がとろけ出したかのような錯覚に陥ってくる。そんな空気を切り裂くように鳴り響いた“チューイチューイトレイン”! ワイルド&やんちゃなロックンロール感満載の民生のギター・リフとともに軽快なビートが駆け出し、場内の熱気が加速していく。決して自分を「すごく見せる」ことなく、鮮やかにロックンロールの核心だけを晴れやかに鳴らしてみせる民生。そのマジックの真骨頂のような場面だった。

民生の絶唱がダイナミックなサウンドと競い合うように赤々と燃え盛った“悩んで学んで”から、《笑う人には笑っといてもらおう 風は西から強くなっていく》と決然としたマインドを掲げる“風は西から”の熱風の如き疾走感へ流れ込む展開のめくるめくスリル。“MILLEN BOX”のタイトなビート感から“イナビカリ”“まんをじして”“御免ライダー”とギアを上げて、客席を揺らしながらロックとポップの彼方へと突っ走っていくようなクライマックスの祝祭感……“拳を天につき上げろ”で巻き起こった高らかなクラップが、この日のステージの虚飾なき高揚感を雄弁に物語っていた。アンコールでは“なんでもっと”に続き、“マシマロ”の超ディープ&スロウなレゲエ・バージョンを披露、客電がついて終了……かと思いきや、またも4人がオン・ステージ! 再び招き入れた住岡梨奈にヴォーカルを託して、彼女がアルバム『ツムギウタ』でカバーしている“夕陽ヶ丘のサンセット”を演奏(民生いわく「キーが違うんですが、練習してきたんで大丈夫」)。その歌声を間近で聴いた民生&小原が「なんちゅう爽やかさ! やっぱりひとり(女の子を)入れようよ!」(民生)、「若い血をちょっとね……」(小原)、「あの子、マジで孫ぐらいでしょ? 住岡のオヤジと俺が同い年だもん」(民生)と友達同士の会話のように語り合うその姿が、ステージと客席との一体感をさらに強めていく。ツアーのグランド・フィナーレを飾ったナンバーは“イージュー★ライダー”! 外の冷気など微塵も感じさせない熱気とシンガロングが、中野サンプラザいっぱいに満ちあふれていった。

この日のライブが映像作品化されることも発表されたし、「これでツアーは終わるんですけど、またそのうちやりますし。いろんな形の活動がありますんで」と民生は淡々と話していた。その力みも迷いもないアクションのひとつひとつが日本ロックの王道を作っていく男・奥田民生。その真髄に心行くまで触れることのできた、最高の一夜だった。(高橋智樹)

セットリスト
01.マイカントリーロード
02.青春
03.ツアーメン
04.カイモクブギー
05.スカイウォーカー
06.荒野を行く
07.ちばしって
08.チューイチューイトレイン
09.3人はもりあがる(JとGとA)
10.いつもそう
11.あくまでドライブ
12.スルドクサイナラ
13.悩んで学んで
14.風は西から
15.MILLEN BOX
16.イナビカリ
17.まんをじして
18.御免ライダー
19.拳を天につき上げろ

Encore 1
20.なんでもっと
21.マシマロ

Encore 2
22.夕陽ヶ丘のサンセット(Vo:住岡梨奈)
23.イージュー★ライダー
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