ザ・ストライプス @ LIQUIDROOM ebisu

ザ・ストライプス、今年4月の初来日から約半年での再来日である。僅か半年と言っても平均年齢16歳の少年たちにとっての半年間とは大人と比べて遥かに長く大きな意味があり、実際今回の来日公演は彼らの驚くべき成長を目の当たりにする機会となった。前回は渋谷クラブクアトロを満員にした彼らだが、今回はさらに大きな恵比寿リキッドルームを2日間に亙ってぎちぎちに埋めた。しかも9月にリリースされた待望のデビュー・アルバム『スナップショット』を引っ提げての来日なのだ。『ブルー・カラー・ジェーン-日本デビューEP』だけをヒントにとにかく「すごいらしい」という噂を頼りにオーディエンスが集まった前回に対し、今回のリキッドルームは「すごい!!」という確信をそれぞれの胸に刻んで集った満員のファンなのである。そんな、こちらの迎え撃つ体制も万全の中でストライプスはステージに登場した。

1曲目は“Mystery Man”、前回クワトロと同じスターターだ。この“Mystery Man”、2曲目の“She's So Fine”、そして3曲目の“I'm a Hog for You Baby”の3曲は、ストライプスというバンドの構造を知るにはうってつけのバラエティを持っていることがわかる。ヴォーカルのロス、ギターのジョシュ、ベースのピート、ドラムスのイヴァンがそれぞれのメインパートを受け持つ基本形の“Mystery Man”、ヴォーカルをジョシュが担当し、ロスはひたすらメロディアスでヒプノティックなハーモニカを吹きまくる“She's So Fine”、そしてロスがタンバリンと共に歌う“I'm a Hog for You Baby”。ストライプスのR&Bのプレゼンは主にこの3つのスタイルの入れ替えで進んでいく。そして、そんな冒頭3曲が既に半年前と比べると格段に表現力のアップを感じさせるものだったのだ。互いに競り合うようにヒートアップしていくガレージはますますタイトに、ロスとジョシュのヴォーカルはコントラストを強め、ロスの声はよりアグレッシヴかつルードになり、対するジョシュの声は少年らしい甘さをより生かしている。

サングラスをかけたロスは最後まで喋らないというクールなスタイルを今回も貫いていて、MCを担当するのはもっぱらジョシュだ。「アリガトウ、トキオ! タノシンデル?」と短くジョシュが挨拶したところで続く“What the People Don’t See”へ。ヴォーカルとギターが掛け合いのように阿吽の呼吸で応酬を重ねていくナンバーで、ツアーの中で彼らが培ってきたバンドのケミストリーの向上をヴィヴィッドに感じることができる。“I Can Tell”もばっちり決まって成長期ってすごいんだな……としみじみしてしまった。この日唯一と言っていいスローなブルーズ“Angel Eyes”はさすがに渋みが足りないと言うか、音の行間を読ませるブルーズ特有のテクニックはまだ習得できていなかった。でも、ブルーズなのにタイトでフレーズ毎に角をぴっちり揃えていく清廉なプレイは、それはそれで少年らしく気持ちがいいものだった。

“Ooh Poo Pah Doo”からの数曲はカヴァー曲が立て続けにプレイされたが、ガレージ色を強くしてみたり、サイコビリーなアレンジを加えてみたりとカヴァー曲を彼らなりに血肉化しているのが頼もしい。そしてストライプスというフィルターを介して弾き出される往年のロックンロールが、オリジナルを恐らく知らないだろう10代の若いオーディエンスによってさらに「今の時代の音」への昇華されていく。ストライプスのライヴの現場で起こっているのはそんなミラクルだ。そんなカヴァー・セクションで彼らが見せた成長とミラクルに浸っている間もなく、“What A Shame”、“Blue Coller Jane”といったオリジナル曲を畳みかける展開に突入し、ここでストライプスは50年代、60年代のR&Bを愛する奇特で珍種な少年たちではなく、2013年の今現在に最高のアンセムを刻む最新の才能であることを証明していく。

中盤でジャケットを脱いでシャツ一枚になったジョシュは小柄で肩幅も狭く、改めてびっくりするほどのあどけなさで、ロスだってあのサングラスを外せば童顔の少年だ。そんな彼らの若さとスタミナが爆発した後半はさらにすごかった。最後のアウトロめがけて駆けあがっていく“You Can't Judge a Book by the Cover”、ベースのインタールードも最高に格好良く、ここにきて4人のサウンド・ピースがぴったり合致したのを感じた“I Wish You Would”、そしてその4人の結束にオーディエンスもコール&レスポンスで加勢した“See See Rider”と、基本的に単純明快な彼らの音楽にいくつものニュアンスが加えられていくのが感じられた。ストライプスの「これから」を予期させる流れだった、と言い換えてもいいかもしれない。

“Got Love If You Want It”ではロスがギター、ジョシュがベース、そしてピートがハーモニカを吹くという恒例のパート・チェンジが行われ、そしてなぜかパート・チェンジしている状態でメンバー&パート紹介を始める。なぜ今このタイミングで!そんな突っ込みもありつつも、ピートがめちゃくちゃハーモニカが上手かったり、ジョシュのマルチプレイヤーっぷりに驚かされたりと楽しいナンバーだ。そして“Rollin' and Tumblin'”、アンコールを挟んでの“Little Queenie”、“Route 66”とラストは彼らの大定番を畳みかけ、鮮やかにフィニッシュを決める。

私はストライプスとは『スナップショット』が答えだと、ある意味であのデビュー・アルバムが彼らの全てになるバンドじゃないかと思っていた部分もあった。ロックンロールを愛する少年たちの純粋な気持ちを閉じ込めた一瞬にして永遠の一枚、『スナップショット』はそういうアルバムで、だからこそ彼らの未来もまたここに永遠に「閉じ込められる」ことになるんじゃないかと思っていた。でも、それは違うのかもしれない。ストライプスのロックンロールは今まさに始まったばかりなのだと、その胎動を感じられた一夜だった。(粉川しの)

1. Mystery Man
2. She's So Fine
3. I'm a Hog for You Baby
4. What the People Don't See
5. I Can Tell
6. Angel Eyes
7. Ooh Poo Pah Doo
8. Down the Road Apiece
9. Bad Boy
10. Perfect Storm
11. What a Shame
12. Hometown Girls
13. Blue Collar Jane
14. You Can't Judge a Book by the Cover
15. I Wish You Would
16. See See Rider
17. Going Up The Country
18. Got Love If You Want It
19. Heart of the City
20. Rollin' and Tumblin'
(encore)
21. Little Queenie
22. Route 66
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