!!!(チック・チック・チック)@ 代官山UNIT

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4月にリリースされた最新作『スリラー』を引っ提げての!!! (チック・チック・チック)の来日公演である。とはいえ今回はツアーではなく、代官山UNITでの一夜限りのプレミア・ライヴだ。もちろんチケットは即日完売、バンドは追加公演として本日5日の代官山UNITの9周年を祝うアニバーサリー・パーティーにも出演することが決まった。

スプーンのジム・イーノらをプロデューサーに迎えてレコーディングされた最新作『スリラー』は、!!!にとって明らかな転機作だったと言っていい。一聴して真っ先に気づく変化は音が整理されエレガントになっていることで、不可測フリーキーな音塊の興奮がまんまパッケージされていたかつての彼らの作品と比較すると、ファンク系のナンバー、ディスコ系のナンバー、ソウル系のナンバーと楽曲毎にテイストがはっきり色分けされ、輪郭を持っている『スリラー』はこれまでとは全く異なる完成度を持つアルバムとなった。そんな新作の方向性が!!!らしさが最も発揮されるライヴにおいて果たしていかに作用するのか、その点に注目してUNITに向かった。

!!!(チック・チック・チック)@ 代官山UNIT
ショウは『スリラー』収録のナンバー“Get That Rhythm Right”でスタートした。ステージに目をやると、ニックはお馴染みのショートパンツ姿でのっけからこれまたお馴染みのペンギンダンスをのっけから絶好調に繰り出している。なので、これまたお馴染みのあの!!!の狂乱ライヴに頭ぶっとばされるかと思いきや、この日のショウの最初に襲ってきたのは全く異なる感覚だった。チョッパーでえぐってくるリズム、変則に変則をかぶせていくドラムス、かと思えば思いっきりジャジーに響くサックスと、一つ一つの楽器のパーツがいやにクリアに頭に飛びこんでくるのだ。

続く“All My Heroes Are Weirdos”はラップのように畳みかけるニックのヴォーカルとドラムスが共に打楽器としての快感を増幅させていくナンバーで、“Get That Rhythm Right”の整然とした印象が一気にぐにゃっと歪み、フロアの熱も急速にヒートアップしていく。「ワッツアップトーキョー!」と叫ぶニック、そして始まったのが“Californiyeah”。完全にリズムが主役のナンバーで、ファンクの横ノリとブレイクビーツをごっちゃにしながらステージ上の全員がパーカッションを担う間奏は圧巻だ。ニックは早くもフロア・ダイヴをかましている。この冒頭3曲は言わば美しく整えられた最新作『スリラー』のナンバーの「かたち」を無形へと、プリミティヴなかつての!!!へと還していく、そんなベクトルを感じさせる流れだった。

そして、ゲスト・ヴォーカルを迎えてプレイされた“One Girl / One Boy”は再び無から「かたち」を掘り起こすようなパフォーマンスとなった。“One Girl / One Boy”は『スリラー』中でも最もポップなナンバーの一つだけれども、70年代のソウル・ミュージックのビンテージ感、まるで「ソウル・トレイン」のワン・シーンのように歌われ、演奏されるその普通さがむしろ!!!のライヴとしては新しい光景だったと言っていい。

!!!(チック・チック・チック)@ 代官山UNIT
そう、この日の!!!のライヴは終始こんな感じだった。彼ららしからぬ整然と、彼ららしい破天荒、そのふたつがぐるぐると行きかい、加速していく二面性のライヴだった。『ラウデン・アップ・ナウ』や『ミス・テイクス』時代の彼らのライヴは理性の箍を外し無我の境地に達するきっかけのように作用していったが、今回はむしろ逆にどんどん感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。!!!のライヴの場で「!!!っていい曲を書くよなあ」などと冷静にしみじみとしてしまったのは初めてかもしれない。

とは言え、“Jamie, My Intentions Are Bass”以降の本編クライマックスは!!!の真骨頂と呼ぶべきフリーキーなファンクネスが炸裂し、場内はお馴染みの奇祭じみたムードに支配されていく。ニックの咆哮と共に幕を閉じた本編ラストの“Heart of Hearts”の頃には完全にかつての!!!のライヴの快感に身体が立ち返っていた。

!!!(チック・チック・チック)@ 代官山UNIT
無自覚ゆえに無敵だったかつての!!!の音楽とライヴ。しかし彼らは『ストレンジ・ウェザー、イズント・イット?』で自覚を知り、理性にある意味囚われ、それゆえに『スリラー』は「挫折から始まった」アルバムだったと彼らは語っている。今回の来日公演は、そんな!!!が挫折と自覚から始まって再び無の境地に戻っていく、まさにそのバック・トゥ・プリミティヴの光景を1時間半かけて描いていった感動的なライヴだったのだと思う。(粉川しの)

Get That Rhythm Right
All My Heroes Are Weirdos
Californiyeah
Even When The Water's Cold
One Girl / One Boy
Except Death
Station
Careful
Slyd
Jamie, My Intentions Are Bass
Me and Giuliani Down by the School Yard
Heart of Hearts
(Encore):
Must Be the Moon
Yadnus
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