モテキナイツ Vol.2 @ LIQUIDROOM ebisu

17時に開演したイヴェントが、終演時にはいつの間にか22時を回っていて、その楽しさ/濃密さに改めて驚かされてしまう。2013年に入って『モテキナイツ』として復活した、TVドラマ及び劇場版『モテキ』ライヴ・イヴェントの第2回。映像作品ゆかりのアーティストたちばかりではなく、モテキ的音楽がずらりと揃い踏みの一夜となった。クロージングDJを務めた岩崎太整(『モテキ』音楽ディレクター)のブースに入ってマイクを握った大根仁監督は、劇場版の続編については明言しなかったものの、「このイヴェントこそが『モテキ』最大の財産だと思っているし、続けていきたいと思います」と語っていた。今回の開催はまさに、モテキ的メンタリティとポップ・ミュージックの結びつきの強さ、その普遍性を証明するような内容になっていたと思う。

開演と同時に、ステージ向かって左手のDJブースに収まったのは田中貴(サニーデイ・サービス)。ライヴ・アクトの登場に向けて、山下達郎“Ride On Time”のScoobie Doによるカヴァーなどを投下しつつ盛り上げる。夏の手応えと、スクービーの勢い余ったはみ出し感が、絶妙に『モテキ』的な選曲である。そして大根仁監督の最初の挨拶を挟み、ステージに立つのはいきなりのスガ シカオだ。告知では「solo」となっていたのでシンプルな弾き語りかと思えば、ヒューマン・ビートボクサー=M-OTOが掩護射撃するというセッション。“91時91分”では「3番がいいところなのに、飛ばすなよー!」とハプニングを笑い飛ばしつつ2人がかりのヒューマン・ビートボックスでファンキーに決めまくり、M-OTOが先にステージを後にするとトラック出しも行いながらの“Re:you”~“Festival”とスガ シカオの独壇場へと持ち込んでいった。とりわけ“Festival”は、『モテキ』で使用されているわけでもないのにフェスのシーンがフラッシュバックしてしまうような、強烈な情景喚起をもたらす名演であった。オーディエンスの、集中力がひしひしと伝わるような「聴き入りっぷり」が凄い。

「世界で一番、私に優しい客層だと聞いて来ました!」とDJブースに収まるのは、なんと『モテキ』原作者の久保ミツロウ先生である。フジファブリック“夜明けのBEAT”は、『モテキ』ファンならもちろん鉄板の盛り上がり。t.A.T.u.にPerfumeとダンサブルなガールズ・ポップを繰り出した先には、ももクロ“走れ!”で振り付けも披露してめちゃくちゃ楽しそう。岡村ちゃん“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”は『エチケット』のヴァージョンで、ダンス性を前提にした選曲も素晴らしかった。さて、2組目のライヴ・アクトは真心ブラザーズである。持ち時間の限られたイヴェント出演でありながら、マウンテンホーンズの4人を含む10人編成MB'sでガチのステージを展開してくれた。ゴージャス極まりないアンサンブルで“EVERYBODY SINGIN' LOVE SONG”から“BABY BABY BABY”と名曲を連発し、新曲“消えない絵”へと繋いでゆく。YO-KINGは「ずっとモテ期でーす! モテでメシ食ってまーす!」と絶好調である。かたや桜井は、「『モテキ』のめちゃくちゃいい所で使ってもらったこの曲が、この夏また大変なことに。山ピー? 呼んでません(笑)」とドラマ『SUMMER NUDE』での山下智久によるカヴァーの話題にも触れつつ、“ENDLESS SUMMER NUDE”へと突入してゆくのだった。

筆者としては初めてそのパフォーマンスに触れたのだが、衝撃と喜びを同時にもたらしてくれたのがMCいつかとDJゴンチによる若き女子デュオ=Charisma.com(カリスマドットコム)だった。「ごきげんよう」「よろしくどうぞー」と不敵な佇まいで演奏をスタートし、クリスピーなラップに辛辣な批評精神を宿らせたパフォーマンスを披露する。音の響きはクールだが、ポップ・ミュージック偏差値もやたらと高い。いつかがゴンチに「あんた、モテ期2回来てるよ! 高校3年のときと大学に入ったとき!」と噛み付くなど、愛嬌もあって最高だ。7/10にミニ・アルバム『アイ アイ シンドローム』をリリース、既に公開されている“HATE”のMVもかっこいいので、チェックして欲しい。MCいつかの名前が『モテキ』的に奇遇なところもあるけれど、素晴らしいブッキングだった。ROCK IN JAPAN FES. 2013の1日目にも登場するので、ぜひお楽しみに。

続く渡辺俊美のバンド・セットは、昨年自身の名義でリリースしたアルバム『としみはとしみ』の収録曲を中心に、豊穣で情熱的なバンド・アンサンブルと、唯一無二の美しく伸びやかなテナー・ヴォーカルを駆使してどっぷりと浸らせてくれる至福の時間帯である。『モテキ』のコンセプト・カヴァー・アルバム『モテキ的音楽のススメ Covers for MTK Lovers盤』で音源化もされている、くるり“東京”のカヴァー、そして「19歳になる息子が、モテないんだよー。あいつTシャツしか着ないんだよねえ」「そんな息子が、4歳のときに作った曲です」とTOKYO No.1 SOUL SETの“Another Sun”もセルフ・カヴァーするなど、スペシャルな展開に目眩がするようだ。「やっぱ、いい男を育てるのは、いい女だと思います」と含蓄のある言葉を残し、自身の故郷・福島への思いを優しく歌い上げる“夜の森”でステージを締め括るのだった。

「親から生まれた桃太郎、しじみ70個分の面倒臭さだと言われます!」と、他のメンバーは全員バイトに行っているという水中、それは苦しいからたった一人でトリ前のポジションを任されたジョニー大蔵大臣だったが、爆笑と感涙の往復ビンタを食らわす凄まじいライヴを見せてくれた。“安めぐみのテーマ”のツカミは無論大反響。農業の跡継ぎを嫌がって教員免許を取得し、校長まで勤め上げたあとに退職して現在は「ロマンス大蔵」の名前で手品師をやっているという父親(ググってみるといくつか情報が引っ掛かる)を歌う“農業、校長、そして手品”。乙武洋匡も絶賛と言う“おっと!オトタケ”は、言葉遊びと呼ぶには凄絶すぎる速度でパロディのフレーズを投げ掛けるナンバーで、映画『モテキ』の枡元るみ子(キャスト:麻生久美子)によるクソイタい台詞も完璧に再現しながら「水中、それは苦しいとかYouTubeで観て覚えるから〜っ!!」と締め括っていた。そして久保ミツロウが現在連載中の漫画『アゲイン!!』には勝手に作った主題歌を贈り、ジョニー大蔵大臣という存在のすべてを谷川俊太郎の詩に託して歌い替えたかのような“芸人の墓”が聴く者を圧倒する。駆けつけた大根監督と相思相愛のフレンチ・キスを交わしてオーディエンスをどよめかせ、トリのバンドを呼び込むのであった。

「モテキナイツ! 冷静に考えて、俺たちがトリってイジメやろー!!」というマーヤLOVEの叫びもあったが、N'夙川BOYSである。しかし、デジタルなダンス・ミュージック全盛の時代にドッタンバッタンと不器用なビートを刻み、心許ない音像の中から目一杯のギター・ノイズを繰り出し、そして他の何にも負けることのない煌めき/ときめきを残してゆくN’夙川BOYSのロックンロールは、まるで『モテキ』そのものではないか。リンダdadaがシンノスケBOYsとドラマーの位置をスイッチし、ハンドマイクを握った“路地裏BE-BOP”の、スッカスカな音なのにやたらと強い推進力をもたらしてしまう魔法はどうだ。序盤からマイクに打ち付けた歯がまっぷたつに欠けてしまったというマーヤは、「確かに、ロックンロールに段取りはない!」とフロアに飛び込み、「次の曲で最後になります……短くないわ! こうしてる間にも1分2分、3曲歌うよりも大事なことがあるんじゃ!」と叫んでみせる。そして“物語はちと?不安定”では、「こちとらモテたことなんかないんじゃ! 付き合った女よりフラれた女の方が多い。当たり前じゃ! だから十代の俺は考えた! 待っててもダメなんすよ! 突っ込め! 隠すな、曝け出せ!!」とオーディエンスの頭上で立ち上がり、モテキ・コールを巻き起こすのだった。

更にアンコールでは、「俺たちのベスト・フレンドを呼びたいと思います」と、2月の『白兵戦』以降、活動を休止していた女王蜂のアヴちゃんが呼び込まれ、4人でフロアへと傾れ込みながら“The シーン”の胸熱な共演も敢行してくれる。「見てのとおり、アヴちゃんは元気です! きっとすぐに帰って来てくれると思います!」とマーヤは語っていた(翌7/1付けで、アヴちゃんの新プロジェクト=獄門島一家の始動が告知されている)。

『モテキ』と音楽の結びつきは、不思議な強さを持っている。『モテキナイツ』はライヴ・イヴェントとして既に「映像作品での使用楽曲/参加アーティスト」といったレンジを飛び出していながら、いわゆる一人歩きをするでもなく、原作や映像作品から引き継いだテーマを一貫してキープしている。それは「非モテ」や「サブカル」といった単純な記号でもなくて、「孤独さに立ち向かうツールとしての音楽」を根っこの部分で捕まえ、それを多くの人々に共有させてくれるカルチャーだからではないだろうか。今後の『モテキナイツ』は一体、どのような新展開を見せてくれるのだろう。(小池宏和)

SET LIST

■スガ シカオ
1. Party People
2. 91時91分
3. コノユビトマレ
4. Re:you
5. Festival

■真心ブラザーズ
1. EVERYBODY SINGIN' LOVE SONG
2. BABY BABY BABY
3. 消えない絵
4. 流れ星
5. 愛
6. ENDLESS SUMMER NUDE
7. 拝啓、ジョン・レノン

■Charisma.com
1. HATE
2. 歪LOVE
3. NOW
4. メンヘラブス
5. AUTOMADE
6. GEORGE

■渡辺俊美
1. 安らぎの場所
2. 夏の約束
3. ピノキオ
4. 東京
5. Another Sun
6. オトコのリズム
7. 夜の森

■ジョニー大蔵大臣
1. 安めぐみのテーマ
2. 農業、校長、そして手品
3. おっと!オトタケ
4. アゲインアゲイン
5. 芸人の墓

■N'夙川BOYS
1. プラネットマジック
2. Freedom
3. 24hour
4. 路地裏BE-BOP
5. Candy People
6. 物語はちと?不安定
EN. The シーン
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