GRAPEVINE @ Zepp Tokyo

GRAPEVINE @ Zepp Tokyo - All pics by KENJI KUBOAll pics by KENJI KUBO
登場するなり「はい、こんばんはー!」とドヤ声で挨拶する田中和将に、「待ってました!」と言わんばかりの明るい歓声で応えるオーディエンス。しかしライヴが進むにつれ、ステージ上の5人に送られる拍手と歓声は、感嘆と熱狂が色濃くにじんだ壮絶なものに変わっていく……それだけ、聴き手ひとりひとりの想いが自然と膨らみ高揚していくような、素晴らしいライヴだった。今年でデビュー16周年を迎え、いまや日本のロックシーンの至宝としての貫禄すら漂うGRAEPVINE。その最新アルバム『愚かな者の語ること』のリリース・ツアーのファイナル会場となったこの日のZepp Tokyoでは、あくまで自然体のグルーヴですべてを呑み込むことができる彼らの今の地力が、気持ちいいほどに発揮されていたのだ。

ライヴは最新アルバム収録曲“なしくずしの愛”でしっとりスタート。そこから間髪入れずに“冥王星”へ突入すると、豪快にドライヴするサウンドに乗って、フロアは大きく揺れていく。続くねっとりブルージーな“I must be highでは、「カモン! カモン!」とシャウトする田中に向けてフロア中の拳が突き上がり……と、冒頭からロックンロールもブルースもサイケデリアも前回の展開で一気に加速していくアクト。「思えばZeppでやるの久しぶりなんですよ。さっきいつぶりか検証してたんですけど、年寄りばかりで全然答えが出てきませんでした」とか、「フロアも年寄りばっかりや!」とか、自虐も毒もたっぷりの田中節も絶好調だ。「盛り上がるとか盛り上がらんとか完全無視してライヴは進んでいきますので、あとは皆さんの想像力にかかっています」という、半ば突き放し気味の口上も手伝って、フロアの臨戦態勢は徐々に整っていく。

GRAPEVINE @ Zepp Tokyo
アルバム・ツアーということで、『愚かな者の~』全10曲に、“白日”など過去の楽曲を織り交ぜた全20曲で構成された本編。とはいえアルバムの曲順はまったく踏襲されておらず、“It was raining”など知る人ぞ知る過去のシングルカップリング曲を唐突に挟み込んでくるあたりに、彼らの天邪鬼っぷりを感じてしまう(詳しくは文末のセットリスト参照)。しかしそれによって、音源を聴くだけでは見えてこなかった最新アルバムの神髄が、鮮やかに炙り出されていたのも事実。たとえば、「カキーン!」という野球のバッティングの効果音で幕を閉じる“うわばみ”を受けて、「こんな感じでカキーン! ドカーン!って曲を10曲やってるアルバムです」と、最新アルバムの中でも特に自由で肩の力の抜けたサウンドが全開となった“コヨーテ”を演奏してみたり。たとえば、カントリー調のフレーズが新鮮な“片道一車線の夢”から、GRAPEVINEの真骨頂と言えるようなディープな音像で酔わせる“無心の歌”で幕を閉じたラストだったり……その潔く振り切れた流れから、ベーシスト=金戸覚/キーボード&スライドギター=高野勲のサポート・メンバーもガッツリ交えて5人体制で作り上げたアルバムの、風通しのよい空気感がダイレクトに伝わってくる。

GRAPEVINE @ Zepp Tokyo
かといって、彼ら特有の濃密なムードや張りつめた緊張感が薄れているかというと、そうじゃない。むしろ、5人それぞれの才気がパカーンと開け放たれた結果、生き物のような肉体性をもったサウンドが、よりスリリングかつダイナミックに展開している感じなのだ。西川弘剛のギターはさらなる鋭利さと喪失感をもって聴く者の胸に訴えかけてくるし、亀井亨のドラムは絶妙な強弱でどっしりとした重厚感と危うさを交互に表現していく。ときに場内をつんざくような声量で、ときに囁くように届けられる田中の歌声も、聴き手のイマジネーションをじわじわと押し広げていくような豊かなものだ。そこに金戸のグルーヴと高野のシンセ音がサイケデリックなムードを与えていき、魔術的なまでに濃密な音のうねりで場内を呑み込んでいくさまは、もう圧巻の一言。しかもそれを、あくまで飄々としたスタンスで行っていることに、大きな感動を覚える。これまでも己の音をストイックに磨き上げることで、わかりやすい表現や派手なアジテーションに頼らない、図太いロックンロールを鳴らしてきた彼ら。その圧倒的なパワーに感服させられるとともに、そこにまだまだ伸びしろがあることを予感させる新曲群の数々に、ひたすら心を持っていかれた、そんな夜だった。

アンコールでは、ツアー千秋楽にふさわしい祝賀ムードの中、“Darlin’ from hell”“Reverb”など過去の名曲を披露。デビュー16周年記念として、9月に渋谷公会堂とNHK大阪ホールでライヴを行うことも発表された。さらにダブル・アンコールに応えて、最後に“作家の顛末”をプレイして2時間半のアクトは終了。フロアに手を振って颯爽とステージを後にするメンバーの姿には大きな達成感がにじんでいたし、今後も彼らはこうやって、軽やかな進化を遂げていくのだろう。その誠実で実直なバンドの姿勢に、この日、改めて大きな信頼を寄せたオーディエンスは少なくないはずだ。(齋藤美穂)

セットリスト
1. なしくずしの愛
2. 冥王星
3. I must be high
4. 迷信
5. マリーのサウンドトラック
6. うわばみ
7. コヨーテ
8. ピカロ
9. Wants
10. Pity on the boulevard
11. 1977
12. It was raining
13. 太陽と銃声
14. われら
15. 虎を放つ
16. NOS
17. 白日
18. ナポリを見て死ね
19. 片側一車線の夢
20. 無心の歌
アンコール1
21. Darlin’ from hell
22. Reverb
23. フラニーと同意
24. 真昼の子供たち
アンコール2
25. 作家の顛末
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