ハシエンダ大磯フェスティヴァル 2013(1日目)@ 大磯ロングビーチ特設屋内/屋外会場

昨年の同時期・同会場で初開催された、英マンチェスターの伝説的クラブ=ハシエンダ発信のカルチャー再興を目的としたフェス。ハシエンダの商標権は現在、元ニュー・オーダーのフッキーことピーター・フックが所有しているそうで、昨年はピーター・フック&ザ・ライト名義の出演でジョイ・ディヴィジョンの2枚のアルバムを再現する、という企画も盛り込まれていた。今年は、ハッピー・マンデーズと808ステイトといった、いわゆるマッドチェスターの立役者たちがラインナップに加わることで物語を引き継いでゆく開催になる……はずだったのだけれど、ハッピー・マンデーズはバンドのスケジュールの都合ということで痛恨の出演中止に。ハシエンダ・フェスである以上、これはやはり残念だ。でもベズとロウェッタはしっかり来ているという。

その埋め合わせということでもないのだろうけれど、初日に出演した808ステイトのライヴは凄かった。ベース、ドラムス、パーカッション含む5人編成のバンド・セットであり、異様にマッシヴでアップリフティングな、現役感溢れるパフォーマンスになっていたのだ。彼らの残した名盤群のサウンドが、ダンスする体にとても良く馴染む筆者にとっては、808というより人力ステイトじゃないかという印象で期待していたものとはかけ離れていたのだが、それを補って余りある熱量である。危なっかしいぐらいヴィヴィッドに放たれる爆音の中からうっすらと名シンセ・フレーズが立ち上がったり、グラハム・マッセイが“パシフィック”のサックスの旋律を吹き鳴らしたりするたびに、割れんばかりの歓声が上がってヒート・アップする。保守的ではない、「攻めの懐メロ」「尖った懐メロ」の、見事なライヴであった。

さて、説明が前後したが、大磯ロングビーチと大磯プリンスホテルの敷地内には大小6つのステージ/DJエリアが設けてあり、808ステイトが出演したのはホテルの宴会場を利用したFAC51 ARENA。ここではDJだけでなく、2日間に計7組のライヴ・アクトも出演する。チャペルそばのラウンジ・スペースを用いているのは、大磯の海岸線の景観を望むMARINE VIEW CLUB。艶があって仄かに切ないハウスやエレクトロ・ファンクのプレイが最もロケーションに嵌っていたと思えるのは屋外のPOOLSIDE STAGE。こちらも小ぶりなプールの脇に設置され、心地よいレイドバック感が人々を集めていたA|X TERRACE。そしてトラックの荷台にリフト式のDJブースとサウンドシステムを組み込んだLB STUDIOと、至るところでDJ出演者たちが活躍している。屋外最大規模にして、日の傾く時間帯から稼働するのはLONG BEACH STAGEだ。

初来日を果たしたニュージーランドの3ピース・バンド=ソー・ソー・モダンは、ダイナミックな低音グルーヴと美しいハーモニーを備えた鋭利なバンド・サウンドが魅力で、今後は新代田FEVERや青山・月見ル君想フなどでイヴェント出演も予定されている。初日の午前中に早くも登場した咥え煙草のピーター・フックのDJは、初っ端から“ブルー・マンデイ”のリミックスを投下。手つきがぎこちなかったり音を止めてしまったりもしてしまうけれど、“ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート”や“ソング2”と“スワスティカ・アイズ”のマッシュアップも繰り出すといったUKロックの引き受けっぷりである。続く細美武士(the HIATUS)は、いつも思うけれどバンドマンの片手間ではありえない完璧主義的なクラブDJ。バレアリックでスピリチュアル、独創性と確かなダンス・ビートが込められたプレイが素晴らしい。そして個人的にも楽しみにしていた、メルボルンのヴォーカル・パフォーマー、DUB FXのライヴ。ヒューマン・ビートボックスからリヴァーブがかったフルートのような声の旋律もループさせ、ハスキーだが抜けの良いラガ・ヴォーカルやラップを乗せてゆく。後半になって打ち込みトラックを用い、メイン・ヴォーカルをサポートのMCに委ねたと思ったら、自身はひたすら極太のベース・ラインを吐き出しているのが更に面白かった。

808ステイトに続くスロットが以前の『WIRE』での共演を思い出させた、信頼感抜群の石野卓球のプレイ以降、既に稼働し始めていたLONG BEACH STAGEとFAC51 ARENAとのピストン移動が多くなって慌ただしい。こちらもオセアニアからの出演となるペンデュラムのDJセット+ヴァース。ダブステップ以降のダンス・ミュージックの流れを気にも留めない、ベースを強調せずけたたましい上モノが弾け飛ぶという我が道を行くドラムンベースで“スマック・マイ・ビッチ・アップ”なども交えながら煽りまくる。808 ステイトとペンデュラムを押さえておけば、元気の有り余った若いオーディエンスも満足できたのではないだろうか。そして先頃、単独公演も行った若手UKバンドのデルフィック。踊れるのは当たり前、その先でいかに歌心を掴むかというところが強い歌メロに表れているし、だからこそ深化と飛躍の新作『コレクションズ』を生み出すことができたのだと思うのだが、後半に掛けては“レッド・ライツ”、“ダウト”、“カウンターポイント”といったファースト・アルバム収録曲で火花を散らすかのように盛り上がっていった。良かったけれど、個人的にはセカンドの曲をもう少し多く聴きたかった。

デジタリズムのDJセットに急ぐと、ダンス・ビートでがっつりと盛り上がるというよりも、情感溢れるエレクトロのサウンドを浴びるといった印象で気持ちいい。もちろん“ポゴ”投下となればオーディエンスは湧くのだが、色とりどりの照明が夜のプールの水面に乱反射していて綺麗だ。FAC51 AREAのクライマックスは、低音をブンブン振り回すビートに、鮮やかな手捌きでトリッキーなブレイクを挟み込む英DJのジェームス・ザビエラと、一日の疲れを根こそぎ浄化してしまうような光と音の共演で展開してゆくジョン・ディグウィードのリレーでフィニッシュ。よりワールドワイド/ジャンルレスに出演者を招いた開催となっている印象のハシエンダ大磯フェスは、邦楽ロック勢の活躍に期待が高まる2日目へと続く。というわけで、これから行ってきます。(小池宏和)
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