木村カエラ@NHKホール

木村カエラ@NHKホール
木村カエラ@NHKホール
木村カエラ@NHKホール
昨年12月リリースのニュー・アルバム『Sync』のリリース・ツアー、全19本中の18本目、東京・NHKホール2デイズの2日目。ファイナルの3/31沖縄ナムラホールがまだですが、以下、セットリストを含め、ネタバレありで書きますので、まだ知りたくない方はご注意ください。

アンコール1回・4曲を含め、全23曲。15分くらい押して18:45に始まり、終わったのが21:24くらい、つまり2時間半ちょっと。曲数と比較すると尺が長いのは、8曲目と9曲目の間のMCが長かったからです。もうツアーも終わりなので、メンバーひとりひとりに「ツアー中に衝撃的だったこと」というお題でしゃべってもらう、という趣旨で、カエラを含め総勢7人がそれぞれ結構なボリュームでしゃべる上に、アイゴンのように「ネタをいくつも出す」「自分の番は終わったのにまた自分に戻ってくる」という人もいたりして、結局30分くらいしゃべっていた。その上、一通りしゃべり終わって演奏再開のタイミングで、カエラ、「ここから静かな曲が続きますので、よかったらみなさん座ってください」と言い、みんな「だったらMC始まる時に言ってよ! そこで座ったのに」と失笑しつつ着席。カエラも、自分でもちょっとどうかと思ったようで、自分で自分にツッコミを入れておられました。

木村カエラ@NHKホール
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というのが唯一のぐだぐだポイント(いや、ぐだぐだでもいいんですが。笑ったし)で、それ以外はもう、徹頭徹尾びしっと締まった、すばらしいライヴだった。街を壊す宇宙から来たロボットをスーパーマン のカエラが退治する、という、昭和のアメリカのアニメみたいな映像でスタートし……書いて思ったけど、「昭和のアメリカの」って変ですね。アメリカに昭和はねえよ。だから、昭和40~50年代にテレビでよくやってたアメリカのアニメ、みたいな意味合いなんですが。『スーパー3』とか。知らないか。……やめよう、この説明。
えーと、とにかくそういうアニメが流れ、そのあと星みたいなCGになり、それが画面(ステージ後方の壁)の中央にわーっと集まったと思ったらそこに本物のカエラが現れ、1曲目“HERO”はそのまま映像とカエラのコラボ状態で歌いきり、2曲目“Ground Control”で照明が明るくなってそこで初めて生身のカエラの姿がよく見える、というオープニングからしてもう、「おおっ!」だったし。本編ラスト=19曲目“Sun shower”のエンディングでは、登場時と同じ場所にカエラが立って、そこにまた星みたいな光がしゃーっと集まって、それと共にカエラが消える、という、オープニングと呼応した演出だったのも、とてもよかったし。

木村カエラ@NHKホール
木村カエラ@NHKホール
とにかく、映像にしろ、照明にしろ、曲の並べ方にしろ、『Sync』を聴きこんだ状態でライヴに臨むと「なんでなのか」がいちいち腑に落ちる。なんでこの曲でこの映像なのか。なんで今この瞬間はこういう照明になるのか。なんで“HERO”で始まって“Sun shower”で終わるのか。なんで4曲目で“リルラリルハ”で、15曲目で“TREE CLIMBERS”なのか。とか、そういうことがもういちいち「なるほど!」とか「そうか!」とか「そうだ!」だった、観ていて。ラフで、自由で、ある意味適当なところもあって、「ソロ・アーティストのライヴ」ってより「ロック・バンドのライヴ」に限りなく近いのがこの人のライヴだけど、そういう意味ではすんごい緻密だと思う。

バンドもちょっとリニューアル。渡邊忍(ASPARAGUS)に代わり、昨年末からカエラバンドに加入したケンジ(FRONTIER BACKYARD、SCAFULLKING)のプレイ、しのっぴとは違って高音も低音もギンギンのラウドな音であり、「これしのっぴに慣れてる人には違和感あるかもなあ」とは正直思ったが、私的には大ありでした。特に、カエラが「ここからは激しい曲しかやりません」と宣言した13曲目以降の、バンド全体の音のカオスっぷり、ちょっとすごいものがあった。これ、彼が加入したからこそだと思う。
あと、カエラバンド初のカエラ以外の女性メンバー、コーラスのやまちゃんことMAYUMI YAMAZAKI(ex.PLINGMIN)。音楽としてもキャラとしても効いてた、彼女の存在が。9曲目の“sorry”ではステージ前方でカエラと向かい合ってツイン・ヴォーカルをとる、という場面もありました。

木村カエラ@NHKホール
木村カエラ@NHKホール
「みんなに幸せが訪れますように」とか「毎日楽しく」とか、カエラがMCで口にすることも、歌の中で歌っていることも、言ってしまえば「いや、そりゃそうだけどさあ」っていうものだ。ほかのアーティストだったら「ありがち」「あたりまえ」かもしれない。でも、なんでこの人が歌うと、言うと、こんなに切実で、説得力があって、リアリティに満ちたものになるんだろう。そんな特別な言い回しで歌詞を書いたりとか、ものすごい声で歌ったりとかは、一切しないのに。すごく大事な何かを「わかっている」あるいは「知っている」感じがする。自分よりもはるかに若い女の子なのに。
と、前々から不思議だったんだけど、その理由、前述したような、ライヴの、あるいはCDの、作りの「ていねいさ」にもあるのかもしれない、と、この日のステージを観て思った。少しでもちゃんと伝わるように、できるだけ多くの人に本質が届くように、という。
僕はカエラのアルバムを聴いて「今回、いまいちだなあ」と思ったことがない。毎回「今回もいいなあ」「いい曲揃ってるなあ」と、つくづく思う。白状すると、僕は1stアルバムが出るまでは、彼女のことをまだモデルとかタレントの子が音楽もやります、みたいなことだと思っていて、「奥田民生の広島市民球場の映画の主演だったから」「あと(当時の)現場マネージャーが昔からの知人だから」という理由で、音をもらって聴いたんだけど、「あれ? 結構よくない? いや、かなりよくない? いやいや、すげえよくない?」とびっくりして、そのマネージャーに頼んでSHIBUYA-AXのライヴを見せてもらったんだけど、思えば当時からそうだった気がする。アルバム1枚1枚、ライヴ1回1回、1曲1曲を、とにかくていねいに、誠実に、曖昧さやあやふやさがない形で。なんで。そうしないと届かないから。あるいは、届いても、イージーなものになってしまって、深く届かないから。
要は、ちゃんと届けたい、ということに対して、ものすごくシビアなのだと思う。で、そのシビアさが、どんどん上がっているとも思う、キャリアを重ねるのと比例して。
なんか、あたりまえのことしか書いていない気がするが、そういう「表現とは何か」みたいな本質的なことに向き合わされる気がするのだ、この人の音楽に対峙するたびに。

木村カエラ@NHKホール
木村カエラ@NHKホール
本編最後に“Sun shower”を歌う前のMCで、「みんなが真っ白になれるような歌を歌いたい。守るものとか大事なものが増えていくのって、どんどん大変になるってことだけど、でもそうやって自分が強くなっていくのっていいことだと思うし、そんなみんなが少しでも休めるような歌を歌えればいいと思ってます」というようなことを、カエラは言った。一字一句このとおりしゃべったわけではなくて、私が要約しちゃったので、細部は違ってるかもしれませんが、大意はあってると思います。
要はこれ、“Sun shower”で歌ってることを説明した、的なMCだったわけだけど、何か、すごい普通なことのように見えて、実はすんごい大事なことを言っているような気がした。というか、そういうふうに僕には届いた。(兵庫慎司)


セットリスト

1 HERO
2 Ground Control
3.マミレル
4 リルラリルハ
5 so i
6 coffee
7 Merry Go Round
8 Cherry Blossom
9 sorry
10 ワニと小鳥
11 dolphin
12 WONDER Volt
13 MY WAY
14 Synchronicity
15 TREE CLIMBERS
16 マスタッシュ
17 喜怒哀楽 plus 愛
18 BEAT
19 Sun shower

アンコール
20.Butterfly
21.Super girl
22.Magic Music
23.happiness!!!
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