クリムゾン・プロジェクト @ クラブチッタ (スペシャル・ゲスト:アングラガルド)

いやあ、すごい。キング・クリムゾンの統率者たるロバート・フリップが音楽活動から引退状態にあるため当然舞台にその姿はないわけで、その分「ロバート・フリップが命名し、キング・クリムゾンの楽曲を演奏することを許された唯一のグループ」=クリムゾン・プロジェクトの音も、90年代/00年代クリムゾン来日時に比べて幾分リラックスしてはいたものの、そのサウンドはやはり圧巻。3月13日:大阪・なんばHatch、3月15・16・17日:川崎・クラブチッタと4公演にわたって行われる今回の来日公演の中の2本目ということで、16日・17日の公演(若干当日券も出るそうです)を観に行かれる方はここから先は終演後にご覧いただければ幸いだが、エイドリアン・ブリュー(G・Vo)/トニー・レヴィン(B・Stick)/パット・マステロット(Dr)/マーカス・ロイター(G)/ジュリー・スリック(B)/トビアス・ラルフ(Dr)という変則ダブル・トリオ編成越しに繰り出される70〜90年代クリムゾン・ナンバーの数々が2013年の今でも驚くほどに先鋭的であることを十二分に証明するアクトだったことは間違いない。

クラブチッタ3デイズのスペシャル・ゲストとして出演するのは、スウェーデンの90sシンフォニック・プログレの至宝:アングラガルド。『ヒブリス』(92年)、『エピローグ』(94年)と名作を2枚発表して以来、実に18年ぶりとなるスタジオ・アルバム『天眼(Viljans Öga)』を発表した彼ら、「ここに来るのを20年待ってたよ。And, finally...!」とトード(G・Vo)もガッツポーズを決めていた通り、まさに今回が初来日。2nd『エピローグ』の“Höstsejd”、1st『ヒブリス』の“Jordrök”、最新作『天眼』の“Sorgmantel”など全6曲で75分という悠久の時間配分もさることながら、何よりもその音が素晴らしい。「70年代風」とかいう次元ではなく、むしろ70年代シンフォニック・プログレが鳴らそうとしていたミステリアスで壮大な音世界を、変拍子やフルートやサックスやメロトロンを濃密に織り重ねたサウンドスケープでもってより高純度に結晶させようとするような、緻密でダイナミックな楽曲群。ほぼインストながら、“Jordrök”で響かせた緊迫感あふれる音は、言葉を超えた壮麗な美しさに満ちていた。

20分ほどの転換&休憩を挟んで、20:40、いよいよクリムゾン・プロジェクト登場! まずはパット&トビアスのドラム&マーカスのタッチ・ギター(スティック・ベース同様、両手でタッピングして弾く多弦ギター)での“B'ブーム”が客席の期待感を煽る中、エイドリアン/トニー/ジュリーの3人が加わり、そのままアルバム『スラック』の流れに従って“スラック”へ。「ビート」の概念すら押し潰す勢いで複雑怪奇に入り乱れるツイン・ドラム! 歪んだギターのリズムがモワレ模様からひとつにびたっと重なり合った瞬間の破壊力! 90年代中盤にダブル・トリオで鳴らしていた「メタル・クリムゾン」のコンセプトが、20年近く経っても1mmの錆び付きもないピカピカの「最新型」であることがよくわかる。

そのまま『スラック』からもう1曲“ダイナソー”を披露してエイドリアン・ブリューが恐竜咆哮ギターを炸裂させた後、80年代「ニューウェイブ・クリムゾン」期の『ディシプリン』から“エレファント・トーク”へ……クリムゾン・マスターピースを次々に披露していく6人。エイドリアンがフロントマンを務めていることもあって、基本的には80年代以降(つまりエイドリアン在籍時)の楽曲中心のアクトだが、それでも70年代ラスト・アルバム『レッド』の名曲“レッド”が飛び出すと、会場からは思わず歓声が沸き上がる。曲終わりのギターの余韻をさくっと切ってしまったり(観客が戸惑って拍手のタイミングを図りかねるくらいに)、エイドリアンは終始マイペースだったが、「Good Evening! 地球でいちばん好きな場所に戻ってこれて嬉しいよ」という言葉通り、至って快活なモードで演奏を展開していたのが印象的だった。そして、今やクリムゾン・サウンドの屋台骨となったドラマー=パットが、“レッド”でメインのリズムをトビアスに託して荒馬の如きオカズのフレーズを叩き出す図には興奮を禁じ得なかった。

トニー/マーカス/パットの3人での“太陽と戦慄パート2”を挟みつつ、“フレイム・バイ・フレイム”そして“インディシプリン”で本編終了。熱烈なアンコールの声に応えて、再び6人が舞台に現れる。総立ちの観客をカメラに収めて満足げなトニー。ラストは80sのビート・ナンバー“セラ・ハン・ジンジート”で大団円! これまでにも「リーダーが脱退あるいは死去」といった理由から、残ったメンバーが音楽を受け継いでいくーーというケースは多々あったが、「音楽から身を引くリーダーの意志と承認のもと、他のメンバーに音楽が継承されていく」というのは極めて稀だろう。それは取りも直さず、キング・クリムゾンの音楽が今なお輝度と剛性を誇る表現であり得ているからこそだし、それを「今」の時代に響かせるに相応しいメンバーがいたからに他ならない。1時間20分ほどのアクトを終え、最後に並んで挨拶する6人の姿を見ながら、そんな信頼関係に想いを馳せずにはいられない、至上のステージだった。(高橋智樹)
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