リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンド @ Zepp Tokyo

リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンド @ Zepp Tokyo
泣く子も笑わせる、至高のロックンロール・エンターテインメントだった。前回1995年の来日からは実に18年ぶり、3度目となったリンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドの日本公演。タイミングとしては昨年リリースしたソロ・アルバム『リンゴ2012』を携えた環太平洋ツアー(この2月にニュージーランドからオーストラリアの各都市を巡ってきた)であり、日本での日程はZepp Tokyoからスタート。その初日の模様をレポートしたい。今後は2/26の東京2日目、2/27の名古屋、3/1の大阪、そして3/2に千葉・幕張メッセで行われるイヴェント『U-EXPRESS LIVE 2013』出演と、パフォーマンスを控えている。レポートでは以下ネタバレを含むので、各公演への参加を楽しみにされている方は閲覧にご注意を。

期待感が立ち込めた場内、ステージ上にはまずオール・スター・バンドの面々が姿を見せてオーディエンスが喝采を上げる。歴代のオール・スター・バンドは、どう言葉で飾り立てても足りないほどの豪華な顔ぶれだったわけだが、今回も凄い。トッド・ラングレン(Vo./G./Ba.)、スティーヴ・ルカサー(Vo./G.)、リチャード・ペイジ(Vo./Ba./G.)、グレッグ・ローリー(Vo./Key.)、マーク・リヴェラ(Sax./Perc./Key.)、グレッグ・ビゾネット(Dr.)。米ロック界のスターと名うてのミュージシャンたちがステージに登場する。そして最後に、“マッチボックス”のイントロと万雷の拍手&歓声が響き渡る中、ダブルのピース・サインを繰り出しつつ笑顔で走り込んでくるビリー・シアーズ、もといリンゴ・スター72歳。星形ドット柄のシャツの姿も眩しい。「コニチハー! 上の階の人もコニチハー! Are you ready to rock!?」と、ビートルズ初期のカヴァー曲に続いては、ソロ・キャリア初期のシングル曲“明日への願い(It Don't Come Easy)”をゴキゲンな身振りを交えて歌ってゆく。もう、その元気丸出しなパフォーマンスを目の当たりにするだけで、胸が一杯になってしまう。

ビートルズ時代から最新ソロ作までのリンゴのヴォーカルが披露されるのは当然として、オール・スター・バンドの面々にそれぞれのレパートリーを歌わせてしまうのもリンゴのショウの面白さだ。前線でマイクを握っていたリンゴが、後方のドラム・セットに向かうときにも大きなどよめきが巻き起こる。そして紹介を受けたノースリーブ姿のトッド・ラングレンが、さらりと自身の名曲“アイ・ソー・ザ・ライト”を歌い始めてしまうという具合なのである。続いてエキゾチックで重厚なバンド・グルーヴが立ち上がるサンタナ曲“イヴィル・ウェイズ”をグレッグ・ローリーがハモンド・オルガンを奏でながら歌い、終始熱っぽく煽りまくっていたスティーヴ・ルカサーがTOTOの“ロザーナ”や“アフリカ”を披露するという、ロック史を駆け足で見るような怒濤のヒット・パレードが展開される。リンゴのドラム・プレイはグレッグ・ビゾネットとのツイン・ドラムとなっているわけだが、あのリンゴでしかありえないビートがブレイクを響かせるなど、演奏の中のケミストリーの瞬間に何度も身震いさせられてしまう。

Mr.ミスターの楽曲を届けてくるリチャード・ペイジの歌唱力がまた驚くほど美しくて、サックスにキーボードにパーカッションにと八面六臂の活躍を見せるマーク・リヴェラの存在感も目が離せないという、贅沢な目移りに悩まされるショウ。リンゴ自らイントロの鍵盤を奏でて歌い始める“ドンド・パス・ミー・バイ”は、ちょっとだけ歌詞が飛んでリンゴも自分で笑っていたが、もはや全身が愛嬌の塊である。それでもパフォーマンスはダレるどころか、トッドがスタンディング・ドラムを叩きながらスカのリズムで加速する“バング・ザ・ドラム・オール・デイ”からリンゴの“ボーイズ”といった辺りの勢いは凄くて、平均的に決して若くはない(失礼)オーディエンスは付いていけるのか? というかこんなにも楽しそうにプレイするベテラン・ロッカーたちに置き去りにされるわけにはいかない、と少しムキになってしまうほどだったりする。

リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンド @ Zepp Tokyo
「じゃあ、みんな聞いて。次の曲は、みんなで歌うよ。きっと知っているはずの曲だから。もし知らなかったら……来るべき場所を間違えたってことだね(笑)」とノリノリのリンゴが歌い出す、“イエロー・サブマリン”。オーディエンスとの余りにも楽しい掛け合い、それにリンゴは台詞のパートも律儀に挟み込んでくれて最高だ。続くサンタナ曲“ブラック・マジック・ウーマン”では一度リンゴがステージから捌けていたけれど、スティーヴがカルロス・サンタナを彷彿とさせる熱いブルース・ロック・ギターを放ってみせる。和気あいあいとしたムードの中でも渾身のパフォーマンスを見失わないオール・スター・バンド。とりわけトッドやスティーヴは、今の彼ら自身のステージだったら、そこまで躍起になるだろうかという煽りっぷりで、これは単にリンゴへと寄せるリスペクト精神の表れというよりも、「絶対的に楽しく、ハッピーでなければならないリンゴのショウ」という希望と意志が形を成して、彼らを駆り立てているように見えた。

“ハニー・ドント”から平和と愛の思いを込めた新作曲“アンセム”と新旧のナンバーを歌ったリンゴは、リチャードが歌う柔らかな美曲“ユー・アー・マイン”では心地良さそうに聴き入りながらカホンを叩いていた。数々の名曲が繰り出された今回のステージの中でも、個人的に最も強く胸を打たれたナンバーは、終盤にわかに沸き上がったリンゴ・コールに応え披露された名曲にして、もし今も健在であればこの日に70歳の誕生日を迎えていたはずのジョージ・ハリスンとの共作曲“想い出のフォトグラフ(Photograph)”であった。フロア最後方にいた僕にはよく見えなかったのだけれど、前線に体調を崩したオーディエンスがいたのか、「ん、大丈夫かい? そこの体の大きなブラザー、担いであげてくれよ。うん、ちょっと横の方でゆっくり観て貰おう」とリンゴは優しく気遣う言葉を投げ掛け、“アクト・ナチュラリー”へと向かうのだった。

元気な笑顔とピース・サインを見せ続けていたリンゴ、クライマックスは、“ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ”だ。《I need somebody to love》の跳ねるようなリズムに乗せられたフレーズを歌いながら、「君、君、君」といった感じで眼前のオーディエンスを指差し、そして高くジャンプを繰り返しながら手を打ち鳴らす。当たり前だけど、なんという、リンゴ・スター。余りにも、ビリー・シアーズ。オール・スター・バンドによる演奏はジョン・レノンの“平和を我等に(Give Peace A Chance)”のコーラス部分にメドレーで移り変わって、ライヴは大団円を迎えた。真に、ロック・ファン冥利に尽きるようなショウ。いつまでも元気でいてほしい、心からそう願わずにはいられない、最高のエンターテイナーがそこにはいた。(小池宏和)

01 Matchbox
02 It Don't Come Easy
03 Wings
04 I Saw The Light
05 Evil Ways
06 Rosanna
07 Kyrie
08 Don't Pass Me By
09 Bang The Drum All Day
10 Boys
11 Yellow Submarine
12 Black Magic Woman
13 Honey Don't
14 Anthem
15 You Are Mine
16 Africa
17 Everybody's Everything
18 I Wanna Be Your Man
19 Love Is The Answer
20 Broken Wings
21 Hold The Line
22 Photograph
23 Act Naturally
24 With A Little Help From My Friends
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする