溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO

溝渕 文 2nd album 『ボトルメール』発売記念 無料招待ライヴ

溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
アルバム・リリース日の翌日、12月20日にもSHIBUYA DESEOでのイヴェント出演があったのだが(当日のレポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/76331)、今回は晴れての東京・初ワンマン。1月中旬までにオフィシャル・サイトで参加者を募っていた、無料招待制のライヴである。バンド・メンバーと共に笑顔で姿を見せた溝渕 文は、開演SEとして鳴り響くソウル・ナンバーの中で、ステージ本番のヴァイブを確かめるように、そして楽しむように体を揺らし、オープニング・ナンバーの“結晶”へと向かった。初っ端からインパクトの強い、ゴリっとしたバンド・サウンドが立ち上がり、歌詞の中に没入する彼女は身振りを交えながら、秀逸なメロディをじっくりと歌い上げてゆく。元々のマイペースな人柄がそうなのか、少なくとも傍目には、彼女の抱える緊張感がパフォーマンスの足かせになっているのを見たことはない。今回も堂々たるオープニングである。

「今回は、わたくし溝渕 文、東京で初のワンマンです。どうぞ一緒に楽しんでください。そして私は今、長距離を走るランナーの気持ちです。どうか支えてください」と笑って語りながら、いざ演奏の場面となると即座に、彼女の歌のエモーションが激しく渦を巻き始める。生々しくソウルフルなシャウトが絡められた“青夜”、そして同期のブレイクビーツから始まる、旅立った命をメロディで繋ぎ止めんとするストーリーテリングが凄まじい“501号室”と、序盤から『ボトルメール』収録の強烈なロック・ナンバーが並べ立てられる形になった。そしてこの後には、「せっかくのワンマンなので、このステージに立つまでの物語に沿って、セット・リストを考えてきました」と語り、幾つかの楽曲では彼女の人生経験と楽曲との接点を熱っぽく説明しながら、ステージが進められてゆく。そのため、極めてドラマティックなパフォーマンスになっていた。

溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
自身が「根の明るい引きこもりだった」頃、音楽に対する思いだけは失わず、『ROCKIN’ ON JAPAN』誌上でアマチュア・アーティスト・コンテスト=RO69JACK 2009の募集要項を見て応募し、優勝して驚喜したこと。メジャー・デビューの道が拓けると、今度はアルバム制作に向けての生みの苦しみと、突然に楽曲のアイデアが「ビビッと」湧いてくる興奮を体験したことなどを告げながら、自らギターを絡めつつ“二十六”や“雨粒”を披露。迫力のサウンドを支えるバンド・メンバーは張替智広(Dr.)、ハピネス徳永(Ba.)、千葉純治(Key.)、円山天使(G.)という顔ぶれだが、“アサガタノユメ”は円山の柔らかいタッチのアコギのみを伴奏に、溝渕が小さなハンド・ベルを鳴らしながら、自身の呼吸のペースを活かした自由度の高い演奏で届けられる。音数は少ないが、とても贅沢に感じられるパフォーマンスだ。

溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
フィクションの物語と現実のせめぎあいが歌い込まれた“紙の頁”に続いては、『ボトルメール』製作期間中のそれまでとは異なる生みの苦しみについて語り、「新しい音楽の扉をパーッと開けてくれた曲」と説明が加えられた“key”へ。胸が踊るような、極めてポップで開放的なメロディとサウンドで構成されたナンバーだ。なにか未来の保証を得たわけではない。決意ひとつで視界はこんなにも彩り鮮やかに、晴れやかに広がってしまうという、ダイナミックな心の動きを描き出してみせる。鍵盤ハーモニカが小気味よく響き渡り、メンバー紹介のジャムの合間にはアコースティック・ベースを抱えたハピネス徳永がコール&レスポンスを誘うのだが、その難易度がどんどん上がってゆくので、最後にはオーディエンスのレスポンスよりも笑い声のヴォリュームが大きくなってしまっていた。陽気な手拍子の最中で、余りの楽しさに溝渕も笑いが止まらなくなっている。

溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
さてここで、『ボトルメール』のクライマックスを飾っていた“坂本橋”である。「曲を作るには、自分を掘り下げざるを得なくて。全然笑えない、でも、未来には期待がいっぱい、そんな過去へのレクイエムでもあります」と語り、フォルティッシモで目映いまでに響き渡るバンド・サウンドの中、地元・香川に実在するという橋の上で、彼女は過去の彼女自身と出会う。どこまでもプライヴェートな視界を綴った歌詞なのに、この楽曲は多くの人々の共感を得る力を備えている。音楽が、不特定多数の人々の胸の内にある原風景に触れてしまう。今後も、この曲を耳にした人々の多くが、自身の中にある坂本橋に気づかされるはずだ。そしてこの後は、格闘の日々をスタイリッシュなサウンドと共に描く“Spiral Days”、等身大の溝渕 文のマイペースな人柄を伺わせる“Come home”、更に「身近な人たちに結婚ラッシュがあって、永遠の愛とは何か、二人の永遠の愛を祈りたいと思って作った曲」という“マリー”と、ステージの終盤を形成していった。なるほど、この曲のタイトルは「marry(結婚する)」という意味だったのか。

溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
溝渕 文 @ SHIBUYA DESEO
「最後が“ハナミチ”って出来過ぎかな」と溝渕は語っていたが、派手に飾り立てられた「花道」というよりも「花の咲く道」の穏やかで暖かな情景に決意を浮かべるようなこのナンバーもまた、彼女の人柄が表れている。『ボトルメール』は彼女自身も語るように、メジャー2作目のアルバムにして驚くほどの変化と成長が刻まれた作品になった(RO69での特集インタヴュー記事→http://ro69.jp/feat/mizobuchiaya201212)。かつて彼女の作品に色濃く出ていたソウル/ジャズ歌謡風のテイストは彼女の元々の嗜好なのだろうが、『ボトルメール』はもはやそういう一面的な枠には留まらない。楽曲に込められたエモーションの力で、表現カテゴリーや溝渕 文自身の殻さえ突き破った記録である。一見マイペースなようでありながら、彼女は着実により広く世界と関わり、人々と交わり、より強い表現の必要を感じて『ボトルメール』(この宛先の不確かな、しかし可能性に満ち溢れたタイトルが象徴的だ)に辿り着いた。アンコールの2曲目に、彼女はソロの弾き語りで、この日2度目となる“坂本橋”を披露する。ダイナミックなバンド・アレンジとは打って変わって静謐な演奏になっていたのだが、それでもやはり、プライヴェートな歌が人々を巻き込む、揺るぎない音楽の力が脈動していた。(小池宏和)

set list

01: 結晶
02: 青夜
03: 501号室
04: 二十六
05: 雨粒
06: アサガタノユメ
07: 紙の頁
08: key
09: 坂本橋
10: Spiral Days
11: Come home
12: マリー
13: ハナミチ

encore
01: Color Color Color
02: 坂本橋(※弾き語り)
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