TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉

TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉 - PHOTO BY 山本倫子PHOTO BY 山本倫子
TRICERATOPSが2011年からシリーズで行ってきたアコースティック・ライヴ企画「12-Bar」の第13回目として、これまでこのイベントを観ることができなかったファンのために(過去12回は100人前後のキャパのカフェが会場となっていた)中野サンプラザという大会場を使用し、さらには豪華絢爛な4人のゲストを招いて行われた本日のライヴ。最後のゲストが退場したとき和田が「これ、今、日本で一番豪華な、ちょっとしたフェスだね!」と興奮気味に言っていたとおり、まさしくフェスレベルの祝祭感に満ちた、本当に幸福なイベントだった。

ステージに飾られたシャンデリア(吉田が家から持ってきた私物だと何度もネタにしていた)と客席の赤い生地のシートがなんともシックなムードを醸し出す会場に、3人が登場し、まずは深々と一礼。3人ともフォーマル目の格好で、特に和田の茶色いスーツ姿がキマッている。そして、暗転しないまま(基本的にこの日のライヴはほぼ暗転がなかった)1曲目“LOVE IS LIVE”が始まる。キャッチーな曲だが、ロック・バンドによるアコースティック・ライヴの常道である穏やかな伴奏で歌を強調するアレンジではなく、むしろ普段通りに近いスタイルで演奏することにより研ぎ澄まされたグルーヴがさらに剥き出しになっているのが凄まじい。そこから、林の弾丸のようなベースリフが牽引し、スウィートなサビへの鮮やかな移行が頭をクラクラさせる“ACE”、細やかなドラムの音圧の上げ下げが完璧に歌の世界観を盛り立てる“2020”、ソウルフルな黒いフレージングの心地良さに酔っていると途中で挟まれる和田と林のソロの掛け合いの迫力に腰を抜かされそうになる“オレンジライター”と一気に畳みかけられる。しかしどの曲も一貫して、『Led Zeppelin Ⅲ』かラーズの『BBC In Session』あたりを連想せずにいられない、武骨で、低空で火を噴きながらとぐろを巻いていくようなグルーヴが炸裂し続ける様は圧巻と言う他ない。それでいて、演奏を終えると「ぼくらは、初めてここに立ってますっ…!」(和田)とガチガチにアがっているのだから、改めてそのギャップの魅力に魅了された方も後を絶たなかったのではないか。

TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉
ここで、「12-Bar」恒例となっていたシークレット・ゲストとして、まずKANが招かれると、会場にどよめきが走る。サンバカーニバルで踊り子の女性がよく着ているあの孔雀の羽(?)に覆われた、黄色いド派手な衣装を身に纏っているのである。前回「12-Bar」に出演した際は「オペラ座の怪人」のファントムの格好をしていたり、また、何と昨日は自身のツアーの最終日で旭川にいて今朝東京まで飛んできたというMCがあったりと、本当にあらゆる意味でサービス精神が爆発している人だ。まず歌われたのは、トライセラのレパートリーから“HAPPY SADDY MOUNTAIN”。特徴的なビブラートを駆使した圧倒的なヴォーカリゼーションを見せるKAN。和田の甘いコーラスとも絶妙にマッチし、蕩けるような恍惚感が会場を包み込む。しかし、曲を終えた後、両手を広げ衣装の羽根をゆさゆさ揺らす姿と演奏中とのギャップといったら。彼もまた、愛されずにいられない音楽家だ。2曲目にはYou & Iの世界と社会への視点とを交差させるリアルな美しさを湛えた名曲“世界でいちばん好きな人”を演奏し、再度羽根をゆさゆさ揺らし切った上で、ステージを去っていった。

TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉
つづいて、そのまま2組目のゲストである山崎まさよしが紹介される。曲は「まさよしさんのギターで歌ってみたい!」という和田のオーダーを実現し、和田ハンドマイクでの“シラフの月”だ。山崎まさよしのエモーショナルなギターアルペジオと、4人の声が重なるサビが、曲が持つ切なさを天井なしに高めていく。終盤に我慢しきれなかったかのように和田がギターを持ってコードカッティングを始めた際には、それぞれが持つ、主張の強いリズムが絡み合い、非常にスリリングなセッションも聴かせてくれた。この1曲を終えると、山崎まさよしは退場。客席からは「え、メイン・ボーカルをとらず、1曲だけ?」というような雰囲気がかすかに漂うが、あえてそれを無視するように、会場名をサンプラザ中野と言い間違えるという小ボケから林が爆風スランプの“runner”をモノマネでワンコーラス歌い上げる(結構似ていた)というミニコントが挟まれる。それに対抗し、和田が「すげー練習してきた、得意なモノマネがある」と言って、ギターを弾き出す。曲は“セロリ”だ。和田が歌い出すと、あまりのモノマネの完成度の高さに客席がどよめく。それもそのはず、実は舞台袖で本人が歌っていたのだ。そして、戻ってきた山崎まさよしが“セロリ”を歌い出すと、自然と大きな歓喜の拍手が起こる。やはり、せっかくだから山崎の声をしっかり聴いて帰りたかったという人も多かったはず。実に心憎い演出だった。

TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉
山崎まさよしが退場すると、和田が今度こそ自分の声で、BOOWYの“B-BLUE”のモノマネを披露し(以前の「12-Bar」でも同様の演出をしたという)、吉井和哉を招き入れる。「こんにちは、氷室京介です!」とすかさずボケるあたりは何とも。まず歌われるのは“I GO WILD”。少し和田を意識したような、吉井の粘り気のあるヴォーカルが新鮮だ。そして、さらに壮絶だったのが、アコースティックでやるのは始めてだという“球根”。張りつめた緊張感の中を暴れまわる情念。広いホールを飲み込む、あまりにも強い歌だった。それを引き出し、またしっかりその迫力に着いていったトライセラの演奏も見事の一言。今も吉井の喉はどんどん強くなっているが、今日のヴォーカルはその極点を刻むような出色の出来だったと思う。

TRICERATOPS @ 中野サンプラザ ゲスト:KAN、山崎まさよし、吉井和哉
豪華ゲストとの息もつかせぬ共演を終え、続いては過去の「12-Bar」シリーズでゲストと共にもう一本の売りとなっていたカバー曲演奏「宿題コーナー」の再演として、松田聖子の“瞳はダイアモンド”と岡村靖幸の“イケナイコトカイ”が放たれる。どちらもトライセラのストロング・ポイントである「甘さ」が最大限に活かされた名カバーである。2曲を歌い終えると、MCでゲストや客席への感謝の気持ちについて触れ、それを即席でオフコース“言葉にできない”を歌い上げることで表現する和田。そのまま“FEVER”に入ると、会場のわきから信じられない人物がゆっくりとステージに現れる。本当のシークレット・ゲスト(他の3人は事前に出演が告知されていた)、小田和正である。さすがにこれには、会場にも驚嘆の絶叫がこだまする。歌い出すと、喉から出てくるのは、あの記名性の塊のようなプラスティック・ヴォイスだ。本当に「あの」小田和正である。そして、「15年ほど前、自分の2本目の映画の脚本を書いているときにトライセラの最初のアルバムをヘビーローテーションしていた。日本にこんなに格好良いバンドがいるのかと驚いた」という日本のミュージシャンが泣いて喜ぶであろう言葉(これには3人もただただ喜びを噛みしめていたように見えた)を含むMCを経て、歌われたのは“ラブ・ストーリーは突然に”。ビート感に富んだ歌の節回しがトライセラの鉄壁のリズムに乗ることで、たまらなくダンサブルな仕上がり。途中には小田和正が客席へと降り、後方までグルリと回る嬉しすぎるサプライズもあり、まるで嵐のように会場を喜びで掻き乱してステージを去っていった。

小田が帰ると、和田は「12-Bar、すげーだろ!」とたまらず叫んでいたが、まさしく文句のつけようもなく凄い、凄すぎるイベントだと思う。ネーム・バリューのみならず、音楽のクオリティの面でも紛れもなく日本最高級の音楽家がこれだけ集まったという点が、本当に。もちろんそれは、TRICERATOPSというバンドの弛まぬ努力により築かれた実力があってこそである。爽やかなメロディとグルーヴを持った新曲“ふたつの窓”の披露もあり、今日会場にいた観客たちは、益々トライセラへの愛を深めたことだろう。しつこいようだが、本当に幸福なイベントだった。(土屋文平)



セットリスト
LOVE IS LIVE
ACE
2020
オレンジライター

w / KAN
HAPPAY SADDY MOUNTAIN
世界でいちばん好きな人

w / 山崎まさよし
シラフの月
セロリ

w / 吉井和哉
I GO WILD
球根

瞳はダイアモンド(松田聖子カバー)
イケナイコトカイ(岡村靖幸カバー)

w / 小田和正
FEVER
ラブ・ストーリーは突然に

ふたつの窓
あのねBaby
ロケットに乗って

EN-1.  恋のバッド・チューニング(沢田研二カバー)
EN-2.  Any Day
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