パティ・スミス・アンド・ハー・バンド @ SHIBUYA-AX

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パティ・スミス・アンド・ハー・バンド @ SHIBUYA-AX
全編がハイライトである。知らず知らずのうちに声を上げ、拳を振るい、そしてフロアで消費した分以上のエネルギーを、身体の隅々まで注ぎ込まれて帰路につく。21世紀のパティ・スミスを代表する名盤『バンガ』を携え、1月22日の仙台Rensaからスタートした10年ぶりのジャパン・ツアー、その2公演目となる東京・SHIBUYA-AX。選び抜かれたすべての言葉と音が、楽曲の産み落とされた年代に関わらず、我々の未来のために鳴り響いていた。翌日に渋谷オーチャードホールで東京公演がもう一夜行われた後は、1月26日 名古屋、1月27日 金沢、1月28日 大阪、1月30日 広島、1月31日 福岡というスケジュールで全8公演が行われる予定。迷っている方は、ぜひ参加を決めて欲しい。本レポートは以下、ネタバレを含むので閲覧にご注意を。各公演の終演後に読んで頂けると、たいへん嬉しいです。

パティ・スミス・アンド・ハー・バンド @ SHIBUYA-AX
颯爽と姿を見せた66歳のパティは、「コニチハー、コニチハー」と挨拶してオープニング・ナンバーの“エイプリル・フール”へと向かう。盟友レニー・ケイ(G.)ら、5ピース編成のバンドが鳴らすのは、『バンガ』モードの穏やかな暖かみに満ちた、それでいて力強いロック・サウンドだ。力むでもないのに芯の強いパティの歌声が、再生を促す歌詞を運び、《we’ll break up the rules》の最終フレーズを、じっくりとフロアに染み渡らせては喝采を浴びていた。2曲目には“レドンド・ビーチ”、さらには、床に座り込んだ姿勢からゆらりと立ち上がったパティがハンド・イン・ポケットで歌う“フリー・マネー”を配置。初期曲を並べて熱を帯びるステージは、イントロや歌い出しに触れるだけでもドキリとさせられる。そして早くも披露された“フジサン”が、日本人男性の和太鼓奏者(ツイッター上でボランティア参加を募っていた)を加えた編成の、スピリチュアルな祭典グルーヴを形成していった。ときに祈りや願いの対象である霊峰・富士は、同時に火山/地震と共に生きる日本国の象徴でもある。信仰とリアルな生活のせめぎ合いを鋭い視線で見つめ続けるパティからの、今の日本への贈り物となった一曲だ。

レニー・ケイによるアコギのストロークに、《We shall live again》のリフレインとオーディエンスのハンド・クラップが重なってゆく“ゴースト・ダンス”の後には、「ウィー・ラヴ・ユー!!」と放たれる声に笑顔で「ウィー・ラヴ・ユー、トゥー」と応え、「次の曲は、エイミー・ワインハウスの思い出を歌った曲よ」と“ディス・イズ・ザ・ガール”へ。スウィートなR&Bを奏でる演奏が、最高の追悼ナンバーと化してポップ・ミュージック・ファンの心を慰めてくれる。そして前線のオーディエンスと触れ合いながらの“ダンシング・ベアフット”。新旧の名曲群が入れ替わり立ち替わり繰り出され、逃れようのない高揚感を形成してゆく。

「昨日は仙台に行ってね。お酒とか焼きそばとか、美味しいものを食べたの。それで、たくさんの船が流されてしまった漁師町の方にも行って、残された瓦礫を見て。神社でお祈りをしてきたわ。今回、日本に来ることができて本当に良かった。大変な思いを抱えている家族のために、この曲を捧げます」と、今度は自らアコギを奏で、トリプル・ギター編成のコードの循環がエモーションを増幅させる“南十字星の下で”を披露する。何よりも彼女自身が、アートに打ち込む青春を共にしたロバート・メイプルソープや、夫フレッドら身近な人々を次々に失い、大きな喪失感と格闘していた時期のナンバーである。その説得力は生半なものではない。深いレイヤーを織りなすギター・サウンドの中、幾人ものオーディエンスが声を上げていた。

今回のジャパン・ツアーにかけるパティとバンドの意気込みは、音楽面だけには留まらない。会場ではチャリティーの募金が募られていたのだが、ラッフル(慈善福引)の要領でステージ上のパティがくじ引きを行い、ジェイのバスドラムのヘッド(「Banga」そして「絆」の文字が刻まれたスペシャル・デザイン)がプレゼントされるという一幕も盛り込まれていた。これは楽しい。幸運にもドラム・ヘッドを獲得したのは、パティ曰く「ハンサムな人だったわよ」という男性。この日16万円以上が集まったという募金は、福島県にある児童養護施設・青葉学園に寄付されるという。

パティ・スミス・アンド・ハー・バンド @ SHIBUYA-AX
そしてステージ後半戦は、パティがレニー・ケイに歌を預けるパンク・クラシックのメドレーへと突入。レニーは「シーナ&ザ・ロケッツに捧げるよ!」(2階席を指差していた)というザ・ストレンジラヴズ“ナイト・タイム”や、ザ・ハートブレイカーズ“ボーン・トゥ・ルーズ”などを披露。さすがはレニー、ガレージ・パンク/サイケ、NYパンクの生き字引である。盛り上がる中で、外国人客と思しきオーディエンスからパティに少し卑猥な言葉も飛ぶが、「私を買うのにいくらお金がかかると思ってるの? お金よりも情熱が大切だけどね」みたいな切り返しを放って“ビコーズ・ザ・ナイト”に傾れ込んでゆく姿は鳥肌モノのカッコ良さであった。更にはピアノのイントロに歓声が上がる“ピッシング・ザ・リヴァー”と、名曲群を畳み掛けてゆく。

「世界中でたくさんの人が、自然の脅威や、病気や、戦争の危険に晒されているわ。福島の漁師さんたちもそうね。でも、私たちは、新しい世代の子供たちのために、世界の未来を築いていかなければならないと思うの」。“ピーサブル・キングダム”を、全身から迸るような力強い歌声で歌い、盛大なコーラスを巻くパティは、最後に「それは、人類のルールなのよ」という一言を添えて、本編の最終ナンバー“グローリア”へと向かった。《イエスは誰かの罪を被って死んだ。でもそれはあたしのせいじゃない》の一節から始まるストーリーテリングが、ロックンロールの力を借りて膨大な量のエネルギーに満ちる。「アッ、アッ」というパティの発声の躍動感で加速しながら、どこまでも自由な生への渇望を描き出していった。音楽と言葉、生身の肉体と知性。人が持ちうるものを総動員させて、今日も運命に立ち向かうパティ・スミスがいた。

パティ・スミス・アンド・ハー・バンド @ SHIBUYA-AX
アンコールでは、パティは新作のタイトル曲“バンガ”を、獄中のプッシー・ライオットに捧げた。「彼女たちは、私たちなのよ」と語り、ユーモラスでありながらも生命力に満ちたコーラスが、犬を真似た鳴き声が、響き渡る。そして、確信のクライマックスは“ピープル・ハヴ・ザ・パワー”。視界一杯に拳が突き上げられ、最大級のシンガロングが巻き起こされていた。その光景の中で、居合わせたすべての人々が、確かな力の存在を感じたはずだ。今回のツアーを通して、一人でも多くの人に、その力を確認してほしいと切に願う。(小池宏和)

※レポートの本文中、バンド・メンバーの表記に事実誤認の箇所がありましたので、一部を削除しました。アーティストや関係者、ファンの皆様にご迷惑をお掛けしたことを、お詫びいたします。ご指摘いただき、ありがとうございました。

SETLIST

01. April Fool
02. Redondo Beach
03. Free Money
04. Fuji-san
05. Ghost Dance
06. This Is the Girl
07. Dancing Barefoot
08. Beneath the Southern Cross
09. (medley)
10. Because the Night
11. Pissing a River
12. Peacable Kingdom
13. Gloria
encore
01. Banga
02. People Have the Power
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