モテキナイツ @ Shibuya O-EAST

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST - 写真:鈴木万祐子写真:鈴木万祐子
TVドラマ&映画『モテキ』の関連アーティストとともにこれまで5回に亙って行われてきたライブ・イベント『モテキナイト』は昨年3月の『モテキナイトFINAL!!』で完結したのだが、今回『モテキナイツ』として復活! 映画も終わってDVDもすでに発売された今もなお、『モテキ』の旗のもとにO-EAST満場のオーディエンスが集結するあたりからも、『モテキ』が作中のBGM楽曲群を通して2010年代に示してきた「サブカルチャーとしての音楽」の楽しさが、今もなお『モテキ』ファンと音楽ファンの中に脈々と息づいていることがわかる。映画版のテーマソングも担当し、『モテキナイト』でも圧巻の存在感を示してきた女王蜂の出演が開催2日前にアナウンスされたこともあって、LEGEND OF 伝説 a.k.a.サイプレス上野が“HIPHOP体操”をかけたり「日本でいちばんイケてるやつらだから!」と紹介していたヒップホップ・ユニット:SMOKIN' IN THE BOYS ROOMと一緒にアゲ倒したりという開演前DJの段階から、すでにフロアには並々ならぬ熱気が満ちていた。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
ライブ・アクト1組目:GOMA & The Jungle Rhythm Section。椎野恭一(Dr)/田鹿健太(Perc)/辻コースケ(Perc)が叩き出す“AFLO BILLY”の躍動感そのもののようなリズムとともに、オーストラリアの先住民アボリジニの伝統楽器:ディジュリドゥを駆使してGOMAが奏でる、歌ともホーンともベース・ラインともつかない音色の濃密な妖気! 2009年に車の追突事故に遭ったことによる脳損傷によって、一時はディジリドゥが楽器であることすら思い出せなかったというGOMA(そのストーリーは、奇しくもこの日に上映開始されたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』にも描かれている)。「その過程過程で大根さん(『モテキ』の大根仁監督)にライブを観ていただいて、コラムに記事とか書いていただいて……本当にありがとうございます」と感謝の想いを告げつつ、「遅ればせながら『モテキ』も最近観まして。長澤まさみさんの大ファンになりました。いい映画の力って本当にすごいなって」と朗らかに語る姿から、彼のあたたかい人柄が滲んでくる。「あっちの世界まで聞こえるような、大きな声を聞かしてください!」のGOMAの呼びかけに、フロアから沸き上がったうおおおおおおっ!という叫び。O-EASTに最高のヴァイブがあふれた瞬間だった。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
続いてはOKAMOTO'S。メンバー本人によるサウンドチェックから、「やろうか!」というオカモトショウのコールをきっかけに“共犯者”“Beek”“マジメになったら涙が出るぜ”と一気に畳み掛けていく。日々ロックスター感を増しているオカモトショウのヴォーカル・スタイルといい、格段に粘っこくワイルドな強度を獲得したオカモトコウキのギターといい、ビートだけでなくプレイまでもが爆裂感に満ちたオカモトレイジのドラムといい、微動だにせず極太グルーヴを巻き起こすハマ・オカモトのベース・サウンドといい、そのどれもがロックンロール原初のエネルギーと「今」の鮮烈な輝きに満ちている。“マジメに~”のエモーショナルな疾走感と、その直後に飛び出した岡村ちゃん“どぉなっちゃってんだよ”カバーが、会場の温度をさらに上げていく。曲の途中でショウ&レイジがパートチェンジ、裸足のレイジが「ドラム、オカモトショウ! 俺のドラムの師匠!」と叫びながらステージを練り歩いてはオーディエンスを煽り倒していく。「俺たち、もうすぐ新しいアルバム『OKAMOTO'S』を出します! 今回のアルバムには、たくさん愛の歌が入ってます。今日はその中から、とびきりの愛の歌を持ってきたんだ!」と披露した“ラブソング”の、ありったけの愛と情熱がモータウン・ビートとともに踊り回るようなハッピーな音空間! 最後の“青い天国”まで、ロックンロール高純度凝縮なステージだった。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
ここでDJ大根仁……の途中で、「ここでスペシャル・ゲストを呼びましょうか」という大根監督の言葉に、オーディエンスが一気に色めき立つ。そこへ呼び込まれたのは、これまで『モテキナイト』ではすっかりお馴染みのマキタスポーツ。一瞬ざわつくフロアに「長澤まさみとか期待してんじゃねえよ! おとといだよ、大根さんから電話あったの」と追い討ちをかけつつも、「故郷を捨てて家を飛び出したのは19の時でした。しかし、東京に着いたのは28の時でした……」と長渕剛ばりに歌い上げる“上京物語”、尾崎豊“十五の夜”を被害者サイドから歌う“五十九の夜”などでどっかんどっかん爆笑を巻き起こしていく。映画『苦役列車』の出演でブルーリボン賞の助演男優賞&新人賞にノミネートされているマキタスポーツ。監督「新人賞って、あと武井咲と壇蜜ね? 武井咲が獲るのは間違いなくて(マキタは)完全に数合わせ(笑)」 マキタ「でも、43歳のおっさんの新人賞、見たくないですか!」というトークでも熱い拍手喝采を湧き起こしていた。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
そしてモーモールルギャバン! 「モテキ!」の絶叫とともにパンツ&裸ネクタイ姿でオン・ステージしたゲイリー・ビッチェの佇まい、そして必殺ナンバー“ユキちゃん”“ユキちゃんの遺伝子”連射に、フロアは理性のタガが一気に外れたような狂騒空間へ突入! ユコ・カティの鋭利なクラヴィネットのリフが炸裂する“サノバ・ビッチェ”や、カオスの果てに衝動だだ漏れゴスペル空間へ流れ込む“スシェンコ・トロブリスキー”など、その音楽的多彩さがさらに無軌道かつダイナミックな破壊力へと変換される。「俺にモテキなんて来たことねえ!」と連呼していたゲイリー、ラスト“サイケな恋人”で「私事ですけど、今日女王蜂が出るって一昨日、みんなと同じタイミングで知って。女王蜂とは関西の小さいライブハウスでやってた頃に対バンしてて。女王蜂が活動休止とかね、まあ、お前ら知らなくていいけどこっちにはいろいろ事情があるんだけど! そんなことにも負けず! 俺たち頑張っていこうぜ!」と声の限りに叫び上げると、会場から噴き上がる雄叫びのような大歓声! O-EAST一丸の「パンティー!」コール、ユコの銅鑼連打、終演後にステージを右に左に駆け回ってガッツポーズで充実感を表しまくるT-マルガリータ……と、すべてが名場面のような30分間だった!

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
幕の降りたメイン・ステージで女王蜂がスタンバイする間、DJステージに後藤まりこが登場! “テレポーテーション~恋の未確認”(『エスパー摩美』テーマ曲)などアイドル/アニソンをかけながら、どこのアイドルかってくらいに自分も踊り回りつつ、要所要所にサンプラーで松尾みゆき(長澤まさみ)の「また連絡するよん」を差し挟んで、後半に差し掛かった『モテキナイツ』をさらなる熱気で包んでいく。「スペシャル・ゲストを呼びたいと思います!」という彼女のコールとともにステージに現れたのは、サイプレス上野とロベルト吉野! 曲はもちろん“ちゅうぶらりん feat. 後藤まりこ”。さらに『モテキ』登場曲でもあるももクロ“走れ!”をスピンすれば、サイプレス上野がメイン・ステージまで張り出してがんがんアゲ倒す。ナンバーガール“NUM AMI DABUTZ”のイントロのギャリーンというサウンドを何度か伏線的にちりばめた後、“NUM AMI DABUTZ”をプレイ――し始めたところで、DJステージの音がフェードアウトし、会場が暗転。そして……。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
フロアの切迫感が一気に高まる。今年2月22日のSHIBUYA-AXワンマン『白兵戦』以降の活動休止を発表している女王蜂、大根監督からの熱烈なラブコールを受け急遽『モテキナイツ』降臨! 幕が開き、やしちゃん、ルリちゃん、そしてサポート・ギター/キーボードを擁した4人のサウンドが図太く妖しく鳴り響く中、身悶えるように身体を痙攣させながらアヴちゃんがステージに歩み入ってきた瞬間、O-EASTにむせ返るほどに吹き荒れる高潔なる背徳の嵐! 渋谷ど真ん中を紅蓮の爆音ロック天国に叩き込んだ映画『モテキ』テーマ曲“デスコ”はもちろん、フロアに高々と拳を突き上げさせた“鬼百合”も、「『モテキ』好きな子って、どういうのが好きなんやろ? こういうのとか、こういうのとか……破れかぶれやでほんま」とステージに寝そべって身をくねらせながら「映画のイベントまた復活とか、豪華すぎるやろ! 誘ってくれた大根ちゃん、ほんまありがとう。来てくれたみんな、ありがとう!」と呼びかけるアヴちゃんの声も、すべてが完璧なまでに麗しいロック・ショウの構成要因となっていた。ピアノの調べが流れる中、幼い少女のようなファルセットから悪魔のような咆哮へ変化しながら聴く者を戦慄のどん底へと叩き落とす“告げ口”。すべての音が止み、暗転したステージで、スポットライトに照らされたアヴちゃんの嗚咽だけが響く場面は、この場にいたすべての人にとって一生忘れられない鮮烈な記憶となったに違いない。ラストの壮大なロック・バラード“燃える海”のアンサンブルが轟々たるクライマックスを迎え……バレリーナのように手を広げ、うやうやしく一礼するアヴちゃんに、惜しみない拍手が降り注いだ。全身芸術家と呼ぶに相応しい、壮絶にして美しいアクトを見せてくれた。と同時に、休止まで1ヵ月あまりという時間の短さが、圧倒的な寂寞感となって胸を襲った。

モテキナイツ @ Shibuya O-EAST
最後はZAZEN BOYS! 「MATSURI STUDIOから、MATSURI SESSIONを、ふぬぐり上がってやってまいりました、ZAZEN BOYS!」の向井秀徳のコールから、“暗黒屋”で演奏スタート。松下敦&吉田一郎の硬質リズム、それをビール片手に悠然と見つめる向井、というZAZEN特有の構図が、複雑怪奇なビート&カシオマンこと吉兼聡の奇天烈なフレーズと一体となって、不気味にユーモラスな緊迫感となってフロアに広がっていく。「次の曲は“パンツ大好きまさみちゃん”という曲です」と言いつつ爆裂させたカオティック・ファンク“サイボーグのオバケ”のパンツ連呼の合間に《陸軍中野学校予備校理事長 村田英雄》の部分を今月亡くなった大島渚監督の名前に変えてオマージュを捧げたり、“泥沼”で繰り返される4人一丸のキメが超重量級の衝撃で頭と身体に襲いかかってきたり……最新アルバム『すとーりーず』でいっそう切れ味と異物感とユーモアを増したZAZENの音が、どこまでもスリリングな高揚感を生み出していく。向井&カシオマンのギターが絡み合って広がる“破裂音の朝”の、イエスあたりのシンフォニックなプログレ・バンドをも彷彿とさせる壮麗なスケール感。“COLD BEAT”の途中、「モテなーくて、あきらめてたー」(チャルメラの譜割りで)とメンバーに歌わせた後でそれを前列の客に振ったかと思えばついにはフロア全体でハモらせたり輪唱させたり(!)する向井の無茶振り指揮者っぷり……すべてが無上の多幸感へとつながっていく名演は“Asobi”で大団円!

クロージングDJとして登場したのは、『モテキ』ドラマ&映画で音楽を担当した岩崎太整。誰もが1mmくらいは頭に描いていたであろう「もしやこれは『モテキ2』への伏線か?」という疑問について、大根監督は特にこの日のステージで言及することはなかったが、逆に言えばこの日の会場の熱気は、『モテキ』が「作品」というフォーマットを超えたカルチャー交差点として大きな意味を持っていたことの証明でもあった。ぜひまた実現してほしいと思う。(高橋智樹)
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