くるり @ 日本武道館

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「どうですか、この武道館の、満杯のお客さん。幸せです。会場のエネルギーが、なんかこっちに向いてきて……ありがとうほんとに!」と満足げに客席を見渡しながら語りかける岸田繁に、惜しみない拍手と歓声が高らかに降り注ぐ……昨年11月に開催された全国ツアー『くるりワンマンライブツアー2012~国民の性欲が第一~』の特別公演にして、くるり史上通算5回目となる日本武道館ワンマン公演『くるりワンマンライブツアー2012/13特別公演〜国民の成長が第一〜』は、Wアンコールまで全27曲・2時間半以上におよぶ演奏のすべてが広大な空間を至福の多幸感で満たしていくような、最高のアクトだった。

くるり @ 日本武道館
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 前回=2011年の武道館公演の時の、岸田繁&佐藤征史+サポート:山内総一郎(フジファブリック)&BoBoというソリッドな編成(アンコールで最大9人編成になったが)とは大きく異なり、岸田&佐藤&吉田省念&ファンファンの4人+サポート・ドラマー:あらきゆうこを基本編成として、堀江博久(Key:くるり武道館5回中3回サポートで参加)/権藤知彦(ユーフォニアム)/ザ・サスペンダーズ(渕上祥人・遠藤由美:Cho)/高田漣(G・ペダルスチール・マンドリン・バンジョー)/BoBo(Perc:彼もくるり武道館は3回目。前2回はドラマーとして参加)というトータル11名の豪華な面々が、曲によって全員勢揃いしたり、5人だけだったり、権藤&サスペンダーズを加えてホーン&コーラスをフィーチャーした8人編成だったり、とフォーメーションを変えながら、それぞれの曲にベストなアンサンブルを構築していく……というオーケストレーションの自由度とプレイアビリティの高さだけでも、この日のライブが名演になることは予想できた。が、実際にこの日鳴り響いたくるりの音楽の豊潤さは、それこそ歓喜そのもののように鳴り渡った冒頭の“everybody feels the same”“ロックンロール”の時点で、その予想を遥かに越えていた。

くるり @ 日本武道館
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「『坩堝の電圧』というアルバムの曲と、みなさんからのリクエストも多少反映した上で、持てる限りの力を……プフッて出そうかなと(笑)」と岸田も言っていた通り、最新アルバム『坩堝の電圧』の楽曲を軸には据えつつも、それらを“ロックンロール”“WORLD'S END SUPERNOVA”“マーチ”“街”などデビューから15年間の名曲群と編み合わせながら披露することで、くるりの歩みとその音楽世界の奥行きを誰もが共有できるステージになっていたのも嬉しい。何より、そのアンサンブルの深みと躍動感によって、『坩堝の電圧』の曲だけでなく過去曲もよりいっそうの輝度をもって武道館に広がっていくその光景は、「僕らの日常」を音楽として輝かせてきたくるりの歴史の中でも最大級の感激を与えてくれるものだった。「この人がくるりに入って2年ぐらい。でも、もう15年ぐらい一緒にやったような……」と岸田が紹介するくらい、そのギター&チェロのプレイでアンサンブルに鮮やかさを加えていた省念。すべての音が誇らしいファンファーレのような生命力を感じさせるファンファンのトランペット。誰もが100%身を委ねることのできる、純音楽的な表現としての包容力がそこにはあった。

くるり @ 日本武道館
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「ようこそ……ライブハウス武道館へ!」と「男なら誰しも憧れる名台詞」を口にしていた岸田。「武道館まで僕は都営新宿線で来たんですけど。みなさん、電車って何色が好きですか? 俺はアズキ色が好きなんですよ。くるりとも縁が深い京急電車は、赤いボディがカッコいい電車ですけど……」と“赤い電車”に流れ込み「丸ノ内線を廃車になった赤い車両、今どこにいると思います? そう、ブエノスアイレス!」と“argentina”へつなげてみせーーという岸田の鉄道談義MCも、客席との距離をぐっと近づけていく。終盤、“ハローグッバイ”“ばらの花”“太陽のブルース”“Baby I Love You”“ワンダーフォーゲル”と名曲乱れ撃ちで無上の高揚感を描き出した後、「くるりはメジャー・デビューをして15周年なんですよ。まさかでも、こんなところにいるとは1mmも思ってなかったですよね。感慨深い系の話をしても仕方ないですけど……感慨深いものやなあと」と語る岸田に、高らかな拍手喝采が沸き上がる。「僕ら4人のメンバーは京都に住んでて。僕と佐藤くんは長いこと東京に住んでたんですけど、今は京都に住んでて、東京にツアーに来たみたいな感じなんですよね。この曲とは16〜17年くらいの付き合いになるんですけど。今、僕たちはこの曲を書いた頃と同じように、『おのぼり』の気分でこの曲と付き合ってる感じです」……そんな万感の想いをこめて本編最後に披露したのはもちろん“東京”。この日の編成では最もソリッドな5人体制で、魂の熱唱を響かせる岸田の姿が、震えるような感動とともに胸に焼きついた。

くるり @ 日本武道館
 アンコールではiTunes限定配信リリースされたばかりの新曲“Remember me”(iTunesチャート1位を記録!)で武道館を優しく包み、“リバー”で満場のクラップを巻き起こして大団円……かと思いきや、アンコールを求める熱烈な手拍子に応えてWアンコールが実現! この日のフィナーレを飾ったのは、『坩堝の電圧』のラスト・ナンバー“glory days”。力強いミドル・テンポのビートが鳴り響く中、ステージ背後のスクリーンに浮かぶ、福島県いわき市・薄磯海岸の映像。《大切なあなたを 一瞬で笑顔に変え 全員で春を待ち望む》というフレーズを決然と響かせながら、《九州のお客さんも》を《武道館のお客さんも》に変えてみせて客席の温度をさらに上げていく岸田。あたたかくも真摯な祈りのようなサウンドとともに広がる《ときおり 思い出せよ 無くなってしまった過去も 誰より知りたいはずの 未来も》の言葉が、“everybody feels the same”“ばらの花”“ロックンロール”“東京”の断片と目映く乱反射し合って……終了。すべての音が止んだ後、ステージに整列して一礼する11人に、ひときわ熱い拍手が送られていた。2013年の今、くるりが到達した音風景の純度とスケール感が、僕らの希望そのものとして鳴り響く、奇跡のような一夜だった。(高橋智樹)

[SET LIST]

01.everybody feels the same
02.ロックンロール
03.Morning Paper
04.赤い電車
05.WORLD'S END SUPERNOVA
06.惑星づくり
07.pluto
08.crab, reactor, future
09.falling
10.dancing shoes
11.argentina
12.soma
13.マーチ
14.街
15.ハローグッバイ
16.ばらの花
17.太陽のブルース
18.Baby I Love You
19.ワンダーフォーゲル
20.東京

Encore 1
21.Remember me
22.リバー

Encore 2
23.white out(heavy metal)
24.シャツを洗えば
25.春風
26.地下鉄
27.glory days
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