スクリレックス @ 新木場STUDIO COAST

スクリレックス @ 新木場STUDIO COAST - All pics by MASANORI NARUSEAll pics by MASANORI NARUSE
スクリレックス @ 新木場STUDIO COAST
素晴らしいライヴだった。目から鱗が何枚も落ちるライヴだった。現在の全世界的なエレクトロニック・ダンス・ミュージックの盛り上がりは、その頭文字をとってEDMと記号化されようとしているが、そうした一時性のトピックや流行を超えた現場のリアルが、まざまざと可視化された公演だったと言っていいだろう。海外の状況が日々漏れ聞こえてくるなか、ようやく実現したスクリレックスの初来日公演。まだ正式なフル・アルバムを1枚もリリースしていない“ニュー・カマー”の初来日公演が新木場STUDIO COASTで、しかも即日完売のソールドアウトなんてことになってしまう状況は、最近の洋楽ではなかなか見当たらないものだが、初めて観ることができたスクリレックスのライヴは、そうした期待に120%応えるタフなエンタテインメントだった。

会場に入ると、オープニング・アクトである12TH PLANETのDJが始まっている。のだが、この時点からして昨今のライヴではあまり見かけない光景が広がっている。いわゆるオープニング・アクトというと、じっと見守るスタンスになりがちだが、この日のフロアはこれが本日のメイン・イヴェントと言わんばかりに、既にはっちゃけた盛り上がりを見せている。客席のフロント・エリアはぎゅうぎゅう。それに応えるべく、12TH PLANETもスティーヴ・アオキの“Steve Jobs”やZEDDの“Fall Into The Sky”といったアッパーなフロア・アンセムを連打。ハンドクラップが巻き起こり、フロアのあちこちから掛け声が上がり、コーラスに入ると大歓声が起きる。端的に言ってしまうと、オープニング・アクトに対するニヒリズムがない。かといって、何でもいいから、リズムに乗って身体を揺すっているというのでもない。非常に幸福な磁場がそこにはあった。12TH PLANETもそうした熱量をひしひしと感じたようで、ブレイクで「ドウモアリガトウゴザイマス」と何度も観客に呼びかける。最後は自らの楽曲“Reasons”で締めていた。

この時点で、19時50分前。スクリレックスの登場は20時からだったのだが、5分前の19:55になると、バックドロップのスクリーンにこの5分間をカウントダウンするデジタル・クロックが大写しで表示される。5分である。カウントダウンとしては、かなり長尺の時間と言える。しかし、後になって思えば、このスタンスがスクリレックスというアーティストを象徴していたような気もする。ハードルを思いっきり上げまくる演出のわけだが、それでも勝つという自信が彼の中にはあるのだろう。2分を切ると、東京の街を高速でドライヴする映像が流れ始める。こうした演出は見事。すっとステージのほうに身体が向く。そして、残り13秒になった瞬間、ステージにスクリレックスが飛び出してくる。「10、9、8、7、6……」と、高々と腕を掲げて、カウントダウンを煽る。0になった瞬間、スクリーンに映し出されたのは「RIGHT」「IN」の文字。1曲目は『バンガラング』EPから“RIGHT IN”である。圧倒的な音圧でスネアが連打される。DJセットに立ったスクリレックスは、大きなジェスチャーでハンドクラップを煽り、ステージ前方からはスモークが噴き出される。カウントダウンも含めド派手な演出だが、驚かされたのは、そこから1時間半、まったくテンションが落ちなかったことだ。

映画だろうが、カートゥーンだろうが、報道映像だろうが、日本の某国民的アニメだろうが、のべつまくなしに様々なサンプリング映像が展開した“Scatta”、ダミアン・マーリィのヴォーカルと共に重厚なレゲエ・ビートに突入した“Made It Barden”、i SQUAREの“Hey Sexy Lady”のスクリレックス・ミックス、マイケル・ジャクソンの“スリラー”PVのパロディ映像を使用した“Lick It Down”と、とにかく1コーラス~2コーラスのスピードで、自身の曲もリミックスも、境界なく繋がれていく。その間、音圧は一切落ちることがなく、ダンス・ミュージックとしてのグルーヴを維持しつつも、なによりラウド・ミュージックとしての破壊力がすさまじい。スクリーンの文字と共にオーディエンスからのスクリームが起きた“Right On Time”では、モンテル・ジョーダンのヒット曲“This Is How We Do It”がマッシュアップされ、フォーリン・ベガーズとのコラボ曲“Still Gettin' It”では客席の光景に「It’s Beautiful」とつぶやき、アヴィーチーの“Levels”スクリレックス・ミックスではブレイクで「スクリーム!」と呼びかける。“Levels”がフェイド・アウトしたところで前半が終了。ここまで30分くらいだっただろうか。映像も含めて、あまりの情報量の多さに圧倒される。

スクリレックス @ 新木場STUDIO COAST
後半戦は、文字通り名刺代わりの1曲“My Name Is Skrillex”からスタート。バックの映像には、幾何学模様と大自然とアジア的建築と宇宙がないまぜになったようなCGが展開する。それを見ながら、ふと思ったのは、スクリレックスの音楽が持つ雑食性は、非常に日本のサブカルチャーと相性がいいこと。続く“Bug Hunt”では住宅街と仮想空間が融合する。スクリレックスとボーイズ・ノイズによるユニット、ドッグ・ブラッドの“Next Order”を畳み掛けた後は、お尻をフリフリする映像の“Booty Clap”を挟んで、“The Devil's Den”へ。そして、ペンデュラムのロブとガレスによるナイフ・パーティーの“Internet Friends”へと突入していく。ここらへんまでくると、客席は完全に躁状態。けれど、息切れすることなく盛り上がっていく。ここまででも十分スクリレックスというアーティストを堪能できる内容だったのだが、ここから終盤に向かって、代表曲の数々が投下されていく。イントロだけで大歓声が上がった“WEEKENDS!!!”に、“Rock N Roll”では世界各地のスクリレックスのステージの映像が映し出される。バーディ・ナム・ナムの“Goin' In”のスクリレックス・ミックスを挟んだ後は、ドアーズのサンプリングを使ったことで知られる“Breakn' a Sweat”に。DJでロックをやるというスクリレックスのコンセプトを象徴するような曲だが、まさにギター・ソロを弾くように、ミキサーを操作してみせる。

そして、スクリレックスのライヴにおけるクライマックスとして、すっかりお馴染みになったネロの“Promises”は非常に美しいメロディを持つ曲だが、最後でスピードを上げ、超高速ダブステップに突入。あたかもスラッシュ・メタルのような快楽性を描き出してみせる。バッキバキの音像が展開した“Kyoto”、ビデオクリップの映像が映し出された“Bangarang”、ミラーボールの光で会場中が包まれた“Summit”。“Summit”は最近破局が報じられたエリー・ゴールディングをフィーチャーしたバラード的旋律を持つナンバーだが、先程の“Promises”しかり、こうしたナンバーを挟み込むことで、見事にロック・バンドのライヴのようなストーリーというか起承転結を作り上げている。前身のフロム・ファースト・トゥ・ラストの経歴を挙げるまでもないが、そこがスクリレックスという人は本当にうまいと思う。最後は、“First Of The Year”“Cinema”“Scary Monsters and Nice Sprites”の3連発。改めてこれだけのアンセムを持っていることに驚かされつつ、「サヨナラ。I love you」と言って、スクリレックスはステージを降りていった。

スクリレックス @ 新木場STUDIO COAST
スクリレックスは、これまで賛否両論を受けてきたアーティストである。フル・アルバムを1枚も出していないにもかかわらず、ウェブを通して拡散した音は、圧倒的な市民権を獲得し、アリーナやスタジアム・クラスのライヴを行うようになった。一方で、その極端なまでにディストーションでディフォルメされたその音は、ブロステップという言葉と共に、ダブステップの当事者たちからは敬遠されたりもした。けれど、今回スクリレックスのステージを初めて観て痛感したのは、そうした賛否両論も前提にしているというか、彼の作家性自体、ライヴ自体が破壊と再生、否定と肯定を同時に行うような構造になっていることだ。時折マッシュアップされたネタ曲も含めて、彼のライヴには、ユーモアもシリアスな感情も歓喜もすべてを並列に飲み込むような、そんなタフさがあるのだ。そして、それに対して若い種々様々なオーディエンスが反応している光景が本当に嬉しかった。スクリレックスはやっぱりすごかった。(古川琢也)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする