アウル・シティ @ SHIBUYA-AX

アウル・シティ @ SHIBUYA-AX - All pics by RYOTA MORIAll pics by RYOTA MORI
今夏のフジ・ロック以来となる日本でのステージ、アウル・シティとしては通算5度目の来日公演である。フジのステージが最新作『ザ・ミッドサマー・ステーション』リリース直前のウォームアップ的な意味合いを持っていたとするならば、今回の渋谷AXは『ザ・ミッドサマー・ステーション』の全貌を明らかにするステージ、もっと言えばアウル・シティことアダム・ヤングがデビュー以来、なにを「開こう」としてきたのかが見えたステージだったと思う。

オープニング、AXを埋めた満場のファンの嵐のような手拍子が彼らを迎え、バスドラのキックと共に高らかな祝祭を鳴らしたのが“Dreams And Disaster”だ。2台のキーボードが織りなす華麗なレイヤーといい激しく点滅するライトといい、オープニングにして既に出力120%のポップ・カタルシスに場内が包み込まれる。曲の後半ではアダムがギターを手にしてキーボードのレイヤーにさらにギターノイズをぶっ被せていくわけだけど、アウル・シティの楽曲がポップ・ソングとして優れている点は、どんなに音を重ねようが旋律が一切「濁らない」、メロディのシンプリシティが最後まで第一義にきていることだろう。

「ワッツアップトキオ!?」とアダムが叫び、オーディエンスが両手を掲げたウェイヴで応えた“Tip Of The Iceberg”、ギターレスで打ち込み&キーボード主体の無重力エレクトロ・ナンバー“Speed Of Love”、再びアダムがギターを手にしてメランコリック・ロックの王道を鳴らした“Meteor Shower”、そして『ザ・ミッドサマー・ステーション』ではアダムのかつてのヒーローであるブリンク182のマーク・ホッパスをフィーチャーしたことで話題になった、よりエモ色の強いハードな“Dementia”と、前半の流れはアウル・シティのポップ・ソングのバラエティを次から次へと披露していく矢継ぎ早な展開だ。白黒の太いボーダー柄のTシャツ姿のアダムは早くも汗だくになっている。

アウル・シティ @ SHIBUYA-AX
ちなみに今日のバンド構成はアダム(Vo+G)、キーボード兼業のギタリスト、ベース兼業のキーボード、ドラマー、そしてキーボード+コーラス担当の女性の計5人体制。アダムはすでにキーボードを一切弾かなくなっている。つまりアウル・シティはどんどんベーシックなバンドのフォーマットに近付いていて、引き篭もりの宅録くんが奏でるかつてのエレクトロ・エモのアンバランスな面影はほぼ払拭されていたと言っていいだろう。それが『ザ・ミッドサマー・ステーション』というアルバムだったし、『オーシャン・アイズ』から『ブライト&ビューティフル』へ、そして『ブライト&ビューティフル』から最新作『ザ・ミッドサマー・ステーション』へと、アウル・シティが「開いてきた扉」の証左でもあったと言える。アダム・ヤングのベッドルームの夢想を一人でも多くの人間が共有し、それを夢から極力リアリスティックな手触りへと具体化していく過程、それこそがアウル・シティというプロジェクトだったからだ。

アウル・シティ @ SHIBUYA-AX
眩いポップ・アルバム『ザ・ミッドサマー・ステーション』の後半の「闇」の部分を担っていた“Metropolis”が今日のライヴでも中盤を引き締め、一旦現実へと引き戻す契機になっていく。バックスクリーンに映し出されるどこか田舎町の夜景とリンクしながら少しメランコリックな気分で夜空を見上げたくなる前半から、一気にドラムが地鳴りのようなリズムで追い上げてくる後半へとスイッチングされる感情の高低差が凄い。「サンキュートキオ!ユーアーベリーカインド!」と再びアダムが叫んで始まったのはインストの“Seaboads”、そしてそこからシームレスで“Angels”へと繋がれ、場内はうわっ!とこの日最初の大合唱に包まれた。この“Angels”以降の後半はほぼ全曲クライマックス、息苦しくなるほどの多幸感の洪水で、最新アンセム“Shooting Star”、そしてお待ちかねの“Fireflies”ではサビを全てオーディエンスが歌いきるという圧巻の光景にアダムは「ベリーナイス!!」と叫んだ。

そして本編ラストを飾った“Early Birdie”~“Take It All Away”では、ドラムセットの両サイドに別途準備された2つのタムをアダムや他メンバーも寄ってたかってブチ叩くという、原初の儀式のような幕切れになった。そんな格好良すぎるエンディングを見せつけられてクールダウンできるわけもなく、ファンの爆音アンコールに応えて再び登場した彼らがプレイしたのが“Good Time”!ポップ・ソングとしても、エモとしても、シンガロング・ナンバーとしても、アウル・シティの楽曲中で一、二を争う集大成であるこの曲によって、この夜のアウル・シティがあらゆる方向にまき散らしていた「多幸の過剰」が美しく集約・昇華されていったように感じた。(粉川しの)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする