スガシカオ @ Zepp DiverCity Tokyo

『SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2012 -Autumn-「Funk/POP/Ballad/Dance…スガシカオ“おいしいとこ全部盛り”ツアー」』

まるで全身が、生き生きとしたポップ・ミュージックのエネルギーの塊だった。10/25の札幌で幕を開け、福岡、名古屋、大阪を経てZepp DiverCity Tokyo2デイズの2日目を迎えた『SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2012 -Autumn-「Funk/POP/Ballad/Dance…スガシカオ“おいしいとこ全部盛り”ツアー」』。そのパフォーマンスに触れれば、公演タイトルも決して大袈裟ではないと一発でわかる。この日の模様はUstreamでの生中継も行われたが、11/15には高知BAY5 SQUAREでのツアー・ファイナルを控えているので、そちらへの参加を楽しみにしている方は、以下レポートの閲覧にご注意ください。ツアー終了後に読んで頂けると、たいへん嬉しいです。

ステージ・セットの中央奥が、一段高台のアーティスト入場口(まるで往年のTV歌謡番組みたいだ)になっており、ビートに乗ってそこに仁王立ちの姿を見せ「おれらも本気でやるんで、みんなも本気で楽しんで行ってくれーい! 今日はユースト(Ustream)も入っているぜ! 俺たちのライヴがどれだけ素晴らしいか、日本中にそして世界中に、教えてやろうじゃありませんか!」と言い放つスガシカオである。自らアコギのカッティングをループさせ、いきなりオーディエンスをファンキーかつサイケデリックな“19才”のグルーヴの中へと叩き込んでしまう。

序盤からメドレーで性急に放たれる楽曲群の合間に、岸田容男(Dr.)、バンマス・坂本竜太(Ba.)、大瀧裕子(Cho.)、林田”pochi”裕一(Key.)、そして田中義人(G.)という鉄壁のバンド・メンバーが出揃い、オルガンのサウンドに彩られクリスピーなヴォーカルが弾ける“正義の味方”へと向かう。ディスコ/アシッド・ジャズ風のクールネスと艶やかさを描き出す“午後のパレード”では、ミラーボールも回って会場の壁面に流れ行く星空のような模様が映し出され、まるで宇宙船に乗せられているかのような視界が広がっていた。

「溜め」と「解放」のコントラストを自由自在に行き来する凄腕のバンド・アンサンブルと、歯に衣着せぬリアルな歌詞ががっちりと手を取り合って強烈な開放感がもたらされ続ける。スガシカオのエロさとは、単にヴィジュアル面や字面の上でのエロさではなく、この抗い難い開放感のエロさだ。更に高く舞い上がるような“奇跡”の中では「飛べー!!」と呼び掛ける。跳べ、ではなく、飛べ。“13階のエレベーター”では、ただでさえ巧みなプレイを見せる坂本が機材を操りながらワルいベース音を繰り出し、ドロッドロのダビーなアレンジを展開してゆく。この「ワルい」というのも、音が良くないという意味ではなくて、ガラが悪い、不穏でかっちょいいという意味だ。

「やべーよ、頭の中、ぐちゃぐちゃになってる(笑)。新曲“Festival”、聴いてくれた? そろそろ人生の集大成になるアルバムを作りたいと思っていて、先立つモノがなくてなかなか取り組めないんだけど(笑)。でも“Festival”が出来たとき、これだ、と思ったの!」と上気して語るスガシカオ。メンバー紹介の中では、各自のソロ・プロジェクトのCDを後ほどメンバー自らが手売りするという告知も挟み込まれ、インディー・アーティスト達ならではの自由で楽しく、逞しいヴァイブを受け止めさせてくれる。その後、今回の公演で個人的なハイライトとなったのが、今年“Re:you”とのダブル・タイトル・シングルとしてリリースされた美曲“傷口”(本当に良い曲だ)からスタンド・マイクで披露される“春夏秋冬”、そして件の最新シングル“Festival”の流れだった。

音源よりも更に生々しい躍動感が持ち込まれる“Festival”は、ステージに立つスガシカオの心の蠢きをつぶさに描き出しながら、フェス隆盛の時代を生きる我々の、あの瞬間のあのときめきを映し出す鏡のようにも機能する。90年代クラブ・カルチャーのアンセムが“今夜はブギーバック”なら、“Festival”は21世紀フェス世代のアンセムになり得る、もの凄い一曲である。

そして後半戦はもう、リミッターがまったく効かない、どこまで盛り上がってしまうんだというドラマティックな高揚感にひたすら包まれていた。10秒で書き上げられたという、今夏のフェスに向けて生み出された“したくてたまらない”が《Hey! Hey!》とオーディエンスの間の手を巻き、“91時91分”では岸田が小気味好いパーカッションを打ち鳴らす。林田の鍵盤があたかもホーン・セクションのようにけたたましく鳴らされ、「踊ってばかりいないでちゃんと弾いてくれ」と笑いながら注意されていた田中は、面目躍如の背面ギターを弾きまくっていた。スガシカオのソウル・シャウターぶりがピークに達した“青空”では、メロディの中で「みんな〜手を挙げろオオォォ〜」と呼び掛けて、フロア一面に翳される掌が眩い照明に浮かび上がる。美しいクライマックスだ。ダブル・アンコールで特別に披露された“Progress”は、その歌詞が今のスガシカオの活動にまた新しい意味を書き加えるかのように響いていた。

多くの人々が心配していたであろうことを、スガシカオは今回のステージ上で何も語らなかった。ツアー開幕後、彼は自身のブログで、約1年前からストレスによる突発性難聴に悩まされていたことを明かしていたのだ。4回に渡って記されたブログの闘病記の中で、ごく一部の身近な人々や医師にしか伝えられていなかったであろう、肉体的苦痛と精神的負担を告白しながら、最後に彼はその闘病記を同業者に向けたアドヴァイスとして、そして何らかの病を抱えたすべての人々に対するあたたかいメッセージとして、締め括っている。痛みや苦しみとまっすぐに向き合い、それが熟成されて新たな、人生のエネルギー/グルーヴとなるのを待つ。あの闘病記は、まさにスガシカオのファンクだ。単に音楽の様式ではない、生き様としてのファンク。ならば今後はじっくりと、「スガシカオの人生の集大成となるアルバム」を楽しみに待ちたい。(小池宏和)

セット・リスト
01: 19才~FUNKAHOLIC
02: かわりになってよ
03: 正義の味方
04: 午後のパレード
05: 黄金の月
06: Re:you
07: はじまりの日
08: 奇跡
09: 13階のエレベーター
10: 傷口
11: 春夏秋冬
12: Festival
13: ドキドキしちゃう
14: SWEET BABY
15: したくてたまらない
16: ストーリー
17: 91時91分
18: 青空
EN1-1: あまい果実
EM1-2: コノユビトマレ
EN2: Progress
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