ザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴュー @ 日本武道館

ザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴュー @ 日本武道館 - pic by KENTARO KAMBEpic by KENTARO KAMBE
ザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴュー @ 日本武道館
ドナルド・フェイゲン、マイケル・マクドナルド、ボズ・スキャッグスという、アーバン・ポップ/AORを代表する偉人3人によって2010年に結成されたライヴ・プロジェクトが、ザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴューである。名古屋、大阪と各公演を経ての東京・日本武道館のステージ。翌11月2日には横浜での追加公演を控えているので、そちらへの参加を楽しみにされている方は、以下レポートの閲覧にご注意ください。

それにしても、いい意味でどこがハイライトなんだか、さっぱり分からないライヴだった。ステージの流れが読めない、「ここが山場」と決まっている訳でもない、つまり全編がハイライトなのである。個人的にはドナルド・フェイゲンに注目して参加するつもりだったのが、マイケル・マクドナルドのソウル・シャウターぶりに圧倒され、そしてステージ上では一歩引いているようでありながら、卓越したギター・プレイと良く通る歌声の安定感が素晴らしいボズ・スキャッグスの渋い佇まいに痺れて帰路に着くという、観るだけでも忙しいというぐらいの情報量が2時間に押し込まれてしまうのである。そりゃそうだ。それぞれが単独で幾らでもやれる人たちなのだから。

3人が過去に残して来た数々の名曲に加え、アイズレー・ブラザーズやマーヴィン・ゲイなどのソウル・クラシックや、バック・オウエンズのカントリー、ジャニス・ジョプリンの名唱でも知られる“心のかけら”などが、他のバンド・メンバーによるリード・ヴォーカルも挿入される形で次々に披露される。それでもとっ散らかった印象のステージにならないのは、他でもなくフェイゲンが「プロデューサー兼司会進行」といった立ち位置でパフォーマンスを完全に統制しているからだ。

バンド・メンバーは、スティーリー・ダンやフェイゲンのソロで共に活動してきた辣腕メンバーばかり(キャロリンとマイケルのレオンハート姉弟、ピアノ/キーボードにはジム・ビアードまでいる)で、ブルーノートの余韻やリズムのブレイクといった演奏のスリリングな部分まで完全に計算され尽くされているんじゃないかという、フェイゲン美学に貫かれたステージになっているのである。で、そのフェイゲンはというと、10月にリリースされオリコンの洋楽アルバム・デイリー・ランキング1位(週間ランキングでは最高2位)につけた新作『サンケン・コンドズ』からの演奏曲、一切なし。“ヘイ・ナインティーン”や“プレッツェル・ロジック”といったスティーリー・ダン曲を、自身のピアノ・イントロでたっぷりと焦らしながら歌ってみせる。

キャロリンが歌う“悲しいうわさ”に続いてボズによるチャック・ベリーの軽快なロックンロールが繰り出されたり、マイケルはマイケルで辣腕バンドによるゴージャスなフィリー・ソウルを歌い上げたかと思えば直後にドゥービー・ブラザーズ時代の“ホワット・ア・フール・ビリーヴス”をとことん洗練されたスタイリッシュなアレンジで披露するなど、本編中盤あたりでは既に「盛り上がる」という感覚自体が麻痺してしまった。そこで思ったのは、この人たちはこれぐらいのことをやらないと最早プレイヤーとして盛り上がれないんじゃないか、ということだ。嬉々としてアレンジの説明をしてみたり「さあ次は、テキサスからやってきたブルース・マン、ボズ・スキャッグスだ!」と張り切った司会者ぶりを見せるフェイゲンや、他のバンド・メンバーの活躍に焚き付けられるようにして歌声が熱を帯びるマイケルを見ていて、そんなことを感じた。

アンコールは、ボズが最後までクールな面持ちで披露し喝采を浴びる名曲“リド・シャッフル”に始まり、「じゃあ、そろそろ踊ろうか!」とスライ&ザ・ファミリー・ストーンの“サンキュー”へと傾れ込んでゆく。熱く濃厚なファンクだけれど、やはりフェイゲン色の緻密な構築ぶりが出ていておもしろい。例えばネオ・ソウルなどの現代的なポップ・ミュージックのフィーリングを解析して血肉化していった印象の『サンケン・コンドズ』がそうだったように、ソウルやファンクの歴史的名曲と3人の遺産を並べて(その自信も凄いが)ライヴ感の中で楽しみつつ再検証してゆく試み。それがザ・デュークス・オブ・セプテンバー・リズム・レヴューなのではないか。でも、こうなるとそれぞれのアーティストの単独公演への渇望感が余計に募ってしまうというものだ。(小池宏和)
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